【池原照雄の単眼複眼】「為替フラット」で見えてくる円高抵抗力…乗用車7社の1Q決算

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トヨタ自動車の大竹哲也常務役員
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  • 日産の資料

「9%減益」と「38%増益」を示した日産

年明けからの円高の逆風は、自動車各社の第1四半期(1Q=4~6月期)業績を圧迫した。乗用車7社の連結営業利益の合計は1兆3025億円で、過去最高だった前年同期から10%の減益だった。各社の決算発表では、余りにも円高が急速だったため、為替変動の影響を除いた利益額を参考指標として提示する動きもあった。

日産自動車は1Qの営業利益が前年同期比9%の減益だったが、為替影響を除くと38%の増益だとグラフで示した。為替の激変下でも販売増や原価低減などで、円高への抵抗力をどう高めているかという指標になるからだ。そこで“日産方式”による「為替フラット指標」としての1Qの各社増減益率をまとめてみた。

その前に、7社の1Q連結営業利益は、トヨタ自動車など5社が減益となるなか、ホンダとスズキが増益を確保した。増益組のうち、ホンダは前年同期に膨れていたエアバッグのリコール費用が今期は大幅に減少したという個別事情があった。スズキは主力市場のインドでの販売が好調に推移し、増益だけでなくこの期の最高益も更新、円高をはね返した。

「為替フラット」で1Qの営業利益を見ると…

1Qの為替レートは、企業間で多少の違いはあるが、おおむね1ドル108円、1ユーロ122円で、前年同期から対ドルで13円、対ユーロでは12円の円高となった。為替変動による営業利益の減益要因は、トヨタで2350億円となるなど、7社合計では4922億円に及んだ。こうした為替変動の減益要因が仮になかった場合の営業利益の前年比増減率を「為替フラット指標」として算出すると以下のようになる。

乗用車7社の第1四半期営業利益と増減率
企業名:利益額(増減率)[為替フラット指標]
トヨタ:6422億円(▲15%)[16%]
ホンダ:2668億円(12%)[29%]
日産:1758億円(▲9%)[38%]
マツダ:524億円(▲2%)[62%]
富士重:1015億円(▲24%)[▲3%]
スズキ:592億円(7%)[42%]
三菱自:46億円(▲75%)[▲34%]
合計:1兆3025億円(▲10%)[37%]
(▲はマイナス)

この「為替フラット指標」では、トヨタなど5社が増益となり、7社合計では37%の増益という数字になった。為替フラットでも減益となった富士重工業(スバル)は、エアバッグのリコール拡大に備えた引当金計上が影響した。また、三菱自動車工業は燃費不正による国内販売の大幅落ち込みが打撃となっている。

次いで、為替フラットだと7社ベースでも37%の営業増益となる要因を探ってみた。まず、販売台数の増加や車種構成の改善といった「販売面」での増益効果だが、1Qでの7社合計額は2255億円だった。さらに、「原価低減」も同様に集計すると2407億円となり、この2つの増益要因を合わせると4662億円に及ぶ。一方、為替変動による7社の減益要因は前述のように4922億円なので、その95%を販売面と原価低減の効果でカバーした勘定となる。つまり、台数を伸ばして収益性が高いモデルをしっかり売る一方、仕入先とともに原価の引き下げも着実に進める―1Qはそうした両輪で、円高の影響をほぼ相殺したのだ。

トヨタは通期で実質500億円の増益と言及

販売ではトヨタ、ホンダ、マツダ、富士重が1Qとしての過去最高ないし最高レベルを確保するなど、成果を上げた。「(北米向け新投入の『CX-9』など)車種ミックスの改善が貢献した」(藤本哲也常務執行役員)というマツダの実際の営業減益率はわずか2%。かつて、円高には最も脆弱とされた体質からの脱皮を印象付けた。

一方の原価低減では「原材料費の市況低下も効果的だった」(富士重の高橋充専務執行役員など)というものの、おおむね各社とも前年実績を上回り、逆風の吸収に寄与した。もっとも、第2四半期以降も円高は更に進んでいる。トヨタは同期以降の想定レートを1ドル=100円と業界で最も保守的な水準に見直し、利益予想も下方修正した。同時に「緊急の収益改善活動により、原価低減などで新たに(通期で)1150億円の改善を確保する」(大竹哲也常務役員)方針も表明した。

大竹常務は、これによって為替変動の要因を除いた為替フラットの場合、通期の営業利益は過去最高だった前期(16年3月期)実績を500億円上回るとも指摘した。同社としては異例の言及だが、円高にどう立ち向かい、どこに着地しようとしているのかを内外に示す指標は、重要だ。実際、決算発表翌日のトヨタ株は、業績下方修正にも拘わらず、3%もの値上がりとなった。円高と業績の当面の相関関係が、投資家に明示されたからであろう。

《池原照雄》

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