【川崎大輔の流通大陸】中古車輸入大国スリランカの魅力

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World Lanka Trading (1)
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  • サナス氏
  • 図表1 スリランカ自動車普及率推移
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スリランカの自動車ビジネスにおける課題

スリランカで中古車ビジネスを行うWorld Lanka Trading(PVT LTD)の代表取締役社長であるサナス氏にスリランカにおける自動車ビジネスの課題と魅力について聞いた。

World Lanka Tradingは日本の大学を卒業後、日本でも中古車ビジネスの実務経験があるサナス氏がスリランカで2011年に設立した会社である。日本とスリランカの中古車市場を語れるまれな存在だ。日本のビジネススタイルを会得しており、綿密な管理営業スタイルを確立して、スリランカで自動車販売・輸入事業を行っている。

インタビューを始めるとすぐにサナス氏は、「頻繁な自動車輸入制度の変更が現在のスリランカの課題」であると日本語で指摘した。特にここ2年間の変更は激しく、そういった傾向がいつまで続くのかは不透明な状況にある。2015年だけでも2回の大きな制度変更があった。大統領選前に大盤振る舞いされた中古自動車の輸入関税であったが2015年1月30日に変更。それによって優遇されていたハイブリッド車の関税が大幅に上昇することとなった。

スリランカの制度改訂は日本のオークション価格にも大きな影響を与えている。例えばハイブリッド車の増税後2か月ほどは中古車オークションでの価格が低下し日本の中古車輸出業車も大きなダメージを被った。日本の取引業車への発注にブレーキがかかりスリランカ向け輸出台数は4月まで減少が続く結果となった。更に同年11月20日に政府の財源を税制で確保する目的で、中古車の輸入税が全面的な増税となっている。

スリランカ現地でのインタビューによれば、しばらくは市場の様子見を行う雰囲気が業界内に漂っている。スリランカ向け中古車市場は常に波がある状態だ。スリランカの中古車流通業者も落ち着いてビジネスが行えていないように感じた。

サナス氏のWorld Lanka Tradingでは、2014年半に月間20から25台の中古車の販売があった。しかし2015年は月間15から20台に減少。スリランカの中古車販売店は、欧米系高級車やSUV、軽自動車系、など得意車種だけを取り扱う販売店が多い。特にWorld Lanka Tradingでは『プリウス』や『アクア』、『アクシオ』など日本からのハイブリッド車をメインに取り扱っており関税変更の影響が大きかった。今後の増税は、一定レベルで落ち着くだろうというのが大方の見方である。一方で環境対応車のハイブリッド車や電気自動車などの増税に関してスリランカ国民からも批判的な意見が多い。

◆特定者を優遇するもうひとつの課題

スリランカには自動車を輸入するパーミットという許可書がある。新車登録から1年未満の自動車をスリランカに輸入する際、税金を低く抑えることができるものだ。これは政治家などの国家公務員や政府に貢献した医療、宗教、教育の関係者に対してのみ発給される。サナス氏はこの特定者を優遇する制度も課題であるという。

パーミットの所有者は、自らが利用する車を購入するのではなく、名義貸しなどで第3者に貸しだす形で利用されている。パーミットは中古車ビジネスにおいて価格逆転の影響を与えている。パーミットを利用して新車を輸入した方が中古車を輸入するよりも安くなってしまうためだ。その結果、免税の対象となっていたハイブリッド車以外の中古車を輸入しづらい状況となった。2015年11月にスリランカの財務大臣が2016年予算でパーミットの見直しを示唆している。しかしながら完全な廃止になるかは未定であり、今後、ほかの特別な取り扱いがされるというのが大方の見方である。

◆スリランカ自動車ビジネスの魅力

多くの課題が残ってはいるが、スリランカ自動車ビジネスには魅力がある。拡大している市場とそれによって広がるアフターサービスビジネスの可能性だ。「アフタービジネスでリピーターを作ることができればスリランカでは魅力的なビジネス展開が可能だ」とサナス氏は考えている。

スリランカの自動車市場は2010年以降急激な拡大を続けている。スリランカの1000人あたり自動車保有台数は2010年に37台であった。2013年には46台へと拡大している(図表1参照)。3年で25%の増加である。各国の経済指標で見ればスリランカの発展レベルはインド・バングラデッシュよりもアセアンの国に近いことに気がつくだろう。IMFデータ(2014年)ではスリランカの1人あたりGDPは3558ドル(インドは1627ドル、バングラディッシュは1172ドル)で、インドネシア(3534ドル)やフィリピン(2865ドル)となっている。

経済発展レベルがほぼ等しいインドネシアの1000人あたり自動車保有台数は76台であり、スリランカの46台は拡大余力をまだ多く残しているといえる。更にアフターサービスの需要も年々高まってきている。2010年ごろより日本から大量に中古車が輸入されている。それら中古車の整備補修が必要となるのは、まさに今から、といえる。

◆思わぬ可能性が見つかる国スリランカ

内戦終了後の急激な日本からの中古車急増によって飽和状態となった。スリランカは環境問題や交通渋滞などの社会問題を抱えている。その打開策としてパーミット、そして輸入制度の改訂があるのは間違いない。将来的には、許認可ライセンス制による中古車輸入ビジネスも検討していると聞いたことがある。

しかしながら、安易な政策は長期的に見て自国の自動車ビジネスを縮小させる可能性がある。スリランカにおいては総量をコントロールするのも重要だが、それ以上にスリランカ国内に存在する中古車流通を整えることの方がより重要だと個人的に考えている。そのためには整備、部品などのビジネス、更に車検や定期点検などのしっかりとした法規制も重要だ。

また、日本から輸出された中古車はハンバントータ港に陸揚げされる。2014年は合計で20万台がハンバントータ入港し3万7000台がスリランカ国内で販売された。一方、残りはアラブ諸国を中心に再輸出されている。将来、スリランカが中東やアフリカなど第3国への輸出拠点として本格活用される可能もあるだろう。

多くの可能性がありながらまだ充分に活用できていないスリランカはセレンディピティ(Serendipity:思わぬ可能性が見つかる)の国である。そこが本当のスリランカの魅力なのかもしれない。

<川崎大輔 プロフィール>
大学卒業後、香港の会社に就職しアセアン(香港、タイ、マレーシア、シンガポール)に駐在。その後、大手中古車販売会社の海外事業部でインド、タイの自動車事業立ち上げを担当。2015年半ばより自らを「日本とアジアの架け橋代行人」と称し、Asean Plus Consulting LLCにてアセアン諸国に進出をしたい日系自動車企業様の海外進出サポートを行う。専門分野はアジア自動車市場、アジア中古車流通、アジアのアフターマーケット市場、アジアの金融市場で、アジア各国の市場に精通している。経済学修士、MBA、京都大学大学院経済学研究科東アジア経済研究センター外部研究員。

《川崎 大輔》

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