広がる無線式の列車制御システム…海外鉄道では都市部の主流に

鉄道 テクノロジー
このほどJR西日本が走行試験を公開した無線式の列車制御システム。同種のシステムは世界的に広がりを見せている
  • このほどJR西日本が走行試験を公開した無線式の列車制御システム。同種のシステムは世界的に広がりを見せている
  • JR東日本は2011年から仙石線で無線式のシステム「ATACS」を導入している
  • 海外では無線式制御システムの普及が進んでいる。新交通システムを除く一般の鉄道としては世界で最も早く2003年にCBTCを導入し、完全無人運転を行っているシンガポールのMRT北東線の車内
  • 海外では無線式制御システムの普及が進んでいる。フランス・アルストムのシステムをベースにした「Urbalis 888」を使用している北京地下鉄1号線の電車
  • JR東日本が開発した無線式列車制御システム「ATACS」の仕組み。無線で車両~地上間の双方向通信を行う
  • CBTCシステムの基本的な構成

既に一部路線で導入しているJR東日本に次ぎ、JR西日本も実用化に向けた開発を進めている無線式の列車制御システム。国内での普及はこれからだが、世界的には普及が進み、現在の鉄道技術の一つのトレンドとなっている。

鉄道の信号・列車制御システムの重要な役割は、列車を追突・衝突させずに安全に運行することだ。このためには、各列車が路線上のどの位置を走っているかを把握する必要があるが、従来のシステムでは、レールに電流を流して電気回路とする「軌道回路」を使用して列車の走行位置を検知している。この方式は長い実績があり信頼性も高いものの、軌道回路をはじめ、信号機や自動列車停止装置(ATS)のための装置やケーブル類など、地上に多くの設備を必要としてきた。

これに対し、無線式のシステムでは列車の走っている位置を、走行距離などをもとに車両自身が算出し、無線で地上側にリアルタイムに送信。地上側の装置は各列車から送られる位置情報に基づき、それぞれの列車がどこまで走ってよいかを判断して列車に無線送信する。列車側の装置は、受信した情報に基づいて安全に停まれる制限速度を計算し、その速度を超えないように制御する。

このシステムの場合、軌道回路や信号機、ケーブル類など地上の設備が大幅に削減できるほか、無線によってリアルタイムで列車と地上側が情報をやり取りできるため、速度のきめ細かい制御や列車間隔の短縮などが可能になる。これらのメリットから、ICT技術が高度化した21世紀に入ると、無線式制御システムの開発・導入が世界各国で本格化した。

中でもメジャーなのは、地下鉄など都市部の鉄道を中心に、すでに世界の100路線以上で使用されている「CBTC」だ。CBTCは特定のメーカーの製品名ではなく「Communication Based Train Control」の頭文字をとった、無線によるシステムの略称。列車の制御だけでなく、運行管理までを含む一元的なシステムのことを指しており、欧米の鉄道関連メーカーが開発・受注にしのぎを削っている。

このほか、ヨーロッパの鉄道では統一的な列車制御システムとして、無線方式が含まれる規格「ERTMS/ETCS」が策定されており、列車の位置検知には軌道回路を使うものの、制御の信号を2G携帯電話と同じGSM方式で送る「ETCSレベル2」が高速鉄道などで普及。完全に無線化した「レベル3」も運用が始まっている。中国でも、これらの技術に準拠した「CTCS」が高速鉄道などに使用されている。

一方、日本国内の鉄道では無線式のシステムは広がっておらず、現時点で実用化されているのはJR東日本が2011年から仙石線(宮城県)に導入している「ATACS」のみだ。日本では既存のシステムで高度な信頼性と安全性がすでに確立していることもあり、無線式システムではやや出遅れた感があった。

だが、このたびJR西日本が無線式システムの試験を公開するなど、ここ数年で状況は変化している。JR東日本は埼京線でも2017年度に「ATACS」を導入するほか、2020年頃には常磐緩行線でフランス・タレス製のCBTCを導入する予定だ。メーカーによる開発や海外での受注も進み、日本信号のCBTC「SPARCS」は海外の新路線などで導入が広がっている。さらに、日立が買収手続きを進めているイタリアの鉄道信号メーカー、アンサルドSTSはCBTCの分野では世界的に知られる大手だ。無線式システムの世界で日本勢の存在感は徐々に高まりつつあるといえる。

このほど試験を公開したJR西日本は、2017年度までに実用化のめどをつける方針だ。今後、国内でも既存のシステム更新などの際に、無線式システムの導入が広がっていくかどうかが注目される。

《小佐野カゲトシ@RailPlanet》

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