【川崎大輔の流通大陸】タイ新車市場を活性化させる、トヨタの認定中古車

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TOYOTA SURE 1
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  • 資料1 各メーカーの認定中古車制度

高い認知度のメーカー認定中古車

タイでの中古車流通市場のメインプレーヤーは“テント”である。ビニールの屋根を張っただけの簡易な作りの中古車販売店が多くテントと呼ばれ始めたようだ。タイの中古車購入者は値段にセンシティブである。安い15万バーツ(50万円程度)以下の中古車を探している人が多く、消費者は安いテントに中古車を求める。

そのようなタイの中古車市場において、メーカーの中古車認定基準に基づいた、高い品質の中古車需要が高まってきている。中でもトヨタの認定中古車ブランドTOYOTA SURE(トヨタシュア)の存在は大きい。タイにおける認知度は97%と非常に高い。市場価格よりも5%から7%高い価格帯にもかかわらず消費者は安心と信頼のブランドを求めSURE販売店を訪れる。

トヨタSUREは中古車市場が有望なマーケットであると考え2004年に営業を開始した。TOYOTA SUREの中古車はテントと比較してレベルが高い。一般の中古車販売店からもTOYOTA SUREの事業運営がベンチマークされるような存在になってきている。2011年にはTOYOTA SURE全体で年間2万台の販売台数を超えた。2015年には5万5000台の認定中古車の販売を目標としている。

確かに中古車流通市場のメインプレーヤーのシェアから見れば少ない台数ではある。しかし市場内の中古車の価格を維持し健全な自動車流通の発展に向けての重要な取り組みの1ステップであると私は考えている。

◆TOYOTA SUREビジネスの目的とは?

トヨタがタイで認定中古車ビジネスを立ち上げた目的は大きく3つある。その内の1つがトレードインのサポートである。つまり、新車ディーラーでの下取り台数を増やしていくことだ。下取りの活性化が新車販売をサポートし、結果的にトヨタ全体の車販売台数を拡大させることとなる。さらには、新しい収益チャネルとしても期待されている。

タイの新車ディーラーはまだ、中古車の下取り比率が低い。新車ディーラーは新車販売から得られるインセンティブで経営が成り立つと考えている。誤解を恐れずに言えば旨味(うまみ)の少ない中古車の販売は、新車販売の結果として否応(いやおう)なく発生する廃物処理のように見られていた。しかし、拡大する中古車市場を考えると、中古車ビジネスを新しい収益源に育てていく可能性がある。

新車販売と中古車下取り、及び中古車販売のバリューチェーンを構築することでディーラー全体の収益向上を目指そうとしている。最後の目的は顧客の囲い込みである。顧客管理を行って顧客満足度の向上を期待している。

◆認定中古車ビジネスの大きな課題

トヨタでは認定中古車に明確な条件を定めている。1つ目に5年落ち以内(12万km以内)のトヨタブランドのみ、2つ目に無事故車両であること、3つ目に210箇所のトヨタ基準でのチェックポイント、である。これらの条件を満たす中古車のみが認定中古車として販売される。顧客へ提供されるプログラムもテントとは差別化された内容で、具体的には、1年又は2kmまでの保証、24時間ロードサイドサービス、2回まで無料車両チェック、ファイナンスキャンペーンなどが利用できる。

認定中古車ビジネスの1番大きな課題は仕入れだ。SUREの認定車になるにはメーカーによる厳しい条件をクリアする必要がある。現在のTOYOTA SUREの仕入れの90%がトレードインと中古車の自社買い取り。SUREで販売する20%から30%ほどの中古車が現在認定中古車条件をクリアしてSURE ブランドとして販売されている。それ以外の中古車はSUREブランドをつけることなく普通の中古車としてSUREディーラーで販売をおこなう。

2014年のタイにおけるトヨタの新車販売台数は約32万台。そのうち10%がトレードインとして戻ってきた認定車レベルの中古車であったとしても、3万台ほどの中古車台数である。TOYOTA SUREの販売店数が増え、販売台数が増えたとしてもSUREブランドの供給には限界があるというのが現状のようだ。

◆中古車・アフターマーケットを制することは新車ビジネスを制す!

大きな課題がありつつも、タイにある各メーカーは果敢に認定中古車ビジネスにチャレンジをしている。タイにあるトヨタ以外の各メーカーも中古車認定基準に基づき、若しくはそれに近いレベルのチェックを行い販売している(資料1参照)。

アジアの新車ディーラーが、中古車の販売を拡大していくことは私は重要だと思っている。確かに日本でも70年代はれらに関心がない時代があった。しかし、中長期的な視点で見れば新車ディーラーの収益安定が図られ、経営母体が安定することで新車販売数の拡大につながる。また中古車を通じたバリューチェーンが構築されることで、新車の販売につながる。タイの認定中古車ビジネスの健全な発展は、新車市場の拡大に大きな影響がある。

<川崎大輔 プロフィール>
大手中古車販売会社の海外事業部でインド、タイの自動車事業立ち上げを担当。2015年半ばより「日本とアジアの架け橋代行人」として、Asean Plus Consulting LLCにてアセアン諸国に進出をしたい日系自動車企業様の海外進出サポートを行う。アジア各国の市場に精通している。経済学修士、MBA、京都大学大学院経済研究科東アジア経済研究センター外部研究員。

《川崎 大輔》

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