【土井正己のMove the World】 今、モノづくりに必要な政治とは

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安倍晋三首相
  • 安倍晋三首相
  • マツダ防府工場 組み立てライン(参考画像)

これまでも政治はモノづくりに大きな影響を与えてきた。例えば、江戸時代に入って、政府が鎖国を決定したため、それまで、南蛮貿易などに使っていた外航船の製造が禁止され、マストが1本しかない内航船のみとなった。その結果、日本人の造船技術は世界に後れを取ったという。

一方、国内の交易は栄え、菱垣廻船や樽廻船が日本の津々浦々の名産品を江戸や大坂、京都に運んだ。このように鎖国を契機に地方のスモールビジネスが栄えたことで、日本人の「読み、書き、そろばん」(基礎学力)とモノづくり基盤が構築されたと司馬遼太郎氏は述べていた。

11月21日に衆議院が解散され、12月14日が投票日と決まった。私たち有権者にとっては、これからの日本の政治を決める重要なイベントだ。今回は「モノづくりにとって、今、どんな政治が必要か」ということを考えてみたいと思う。

◆なぜ円安でも輸出が伸びないのか

アベノミクスでは、「金融緩和」、「財政投資」、「成長戦略」を「3本の矢」と位置づけ、日本をデフレ経済から脱却させようとしてきた。しかし、本年4月に行われた消費税増税が、景気の足を引っ張り、2四半期連続で前期比マイナスの経済成長となった。安倍首相が解散総選挙を決めたのは、そのマイナス成長のデータが公表された翌日である。

メディアや野党からは「アベノミクスは失敗だった」と揶揄する声も多い。その失敗の理由として、必ず言われるのが「金融緩和で円安になっても輸出が伸びなかった。大きな誤算があった」というものである。しかし、これは誤算でもなんでもない。

企業は、昔のように為替の変動で、価格を極端に上げ下げしないので、輸出の量に変動が少ないのは当然だ。円安だからといって、価格を下げてしまっては、次に値上げする時に大きな販売減を伴う。お客様からの信用も失うことになる。また、自動車の場合、海外では現地生産と輸出車両の両方で、ラインナップを組んでいるケースが多く、輸出品だけ値下げすることなどできるわけがない。よって、円安の効果は、輸出量が増えるのではなく、企業の利益となる割合が大きい。

◆輸出企業だけが儲かっていいのか

では、「円安効果を享受する輸出企業だけが儲かっていいのか」という疑問がわく。しかし、これは、前回もマツダの例で述べた通り、2009年のリーマンショック以降の超円高時代に、為替の大波(円高差損)を一手に引き受けていたのが輸出企業である。部品・素材メーカーは、例え自社製品が自動車の一部として輸出されても、為替の波とは関係ない。輸出企業が「為替の防波堤」になっているわけだ。よって、円安になった時には、輸出企業に利益が上がり、部品・素材メーカーには関係しない。今のあいだに輸出企業は体力を養い、次に円高になった時に国内産業を守る準備をしておく必要がある。

◆モノづくりにとって必要な政治とは

モノづくりにとって必要な政治を定義するなら、「現場の声をよく聞いているかどうか」が最も重要なポイントであろう。経済は生き物であり、過去の理論や経済学者の理論どおりにはならない。金利や法人税、消費税などは、「日本のモノづくり力」に大きな影響を与える。政策立案者は、現場に足を運び、現場の声を聞く姿勢、そして「(弱者救済ではなく)どうすれば日本の競争力を向上させることができるか」を真剣に考える姿勢が重要だ。

次に重要なポイントは、政策立案者の「グローバル感覚」だ。日本の企業は、その多くが世界との競争に晒されている。他国との比較で、「モノづくり環境」が可能な限りイーブンな条件でなければ、いくら努力しても負けてしまう。もしくは、日本から企業が出て行ってしまう。その観点から、法人税減税は必要な政策と言えるだろう。

そして、3つ目のポイントは「イノベーション・マインド」だ。企業は、収益に少し余裕が出てきたところだ。これから、投資すべき分野を考えるだろう。政策立案者は、その方向性を上手くリードしてかなければならない。特に中小企業におけるイノベーションや若手の起業家を後押しする政策が望まれる。

◆必要な「官民一体」

「官民一体」という言葉は、最近あまり使われなくなった。しかし、これまで述べてきたとおり、「モノづくり」の発展にとって政治は重要なファクターである。よって、「官民一体」で日本のモノづくりを考えなければならない。そして、その主体は「民」である。

次の選挙で誰を選ぶか、主体である我々が考え、選ばなければならない。読者の皆さんも、是非、興味をもって選挙に行って頂きたい。

<土井正己 プロフィール>
クレアブ・ギャビン・アンダーソン副社長。2013年末まで、トヨタ自動車に31年間勤務。主に広報分野、グローバル・マーケティング(宣伝)分野、海外 営業分野で活躍。2000年から2004年までチェコのプラハに駐在。帰国後、グローバル・コミュニケーション室長、広報部担当部長を歴任。2010年の トヨタのグローバル品質問題や2011年の震災対応などいくつもの危機を対応。2014年より、グローバル・コミュニケーションを専門とする国際コンサル ティング・ファームであるクレアブ・ギャビン・アンダーソンで、政府や企業のコンサルタント業務に従事。山形大学工学部 客員教授。

《土井 正己》

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