「好奇心が速さを追求させる」為末大とF1ドライバーが“最速”トークショー

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パストール・マルドナド選手(左)、為末大氏(中央)、ルノー・ジャポン代表取締役社長の大極司氏
  • パストール・マルドナド選手(左)、為末大氏(中央)、ルノー・ジャポン代表取締役社長の大極司氏
  • ルノー・ジャポンのフレデリック・ブレン氏(左)、パストール・マルドナド選手(中央左)、為末大氏(右)
  • ルノー・ジャポンのフレデリック・ブレン氏(左)とパストール・マルドナド選手(右)
  • パストール・マルドナド選手(左)と為末大氏(右)
  • パストール・マルドナド選手
  • ルノー・メガーヌRSトロフィーR(右)
  • ルノー・メガーヌRSトロフィーR(右)
  • ルノー・メガーヌRSトロフィーR

ルノー・ジャポンは、400mハードル現日本記録保持者の為末大氏と、現役F1ドライバーのパストール・マルドナド選手が“最速の哲学”を語る「“最速”ד最速”~ MEGANE RENAULT SPORT Special Edition アンベールイベント~」を開催した。

このイベントは、来年初旬に発売される『メガーヌルノー・スポール(以下RS)トロフィーR』などの限定3モデルを記念して、一部報道陣向けに開催されたものだ。

最速を目指すこと…その1「チームワーク」

----:自動車レースではピットワークなどを含めて、チームワークが大切ですが、陸上競技ではチームワークはどのように捉えているのでしょうか。

為末大氏:テレビ画面に出ているときは選手だけが走っていますが、そこに至るまでに、トレーニングではコーチや、試合の直前にはマッサージをするトレーナーと呼ばれる人たちが、選手の体をメンテナンスしています。

このトレーナーがやっていることは、実はクルマのメカニックに近いのです。人間の足の筋肉は緩みすぎると、スピードが出ないことにつながりますし、そのまま硬すぎたり、疲れが残っていると怪我のリスクが出てくる。そこをちょうどいい硬さに1か月くらいかけて仕上げていくのです。そういうことは選手だけではできなくて、自分の体を触ってもらう人、それを見ながらコーチングする人など、みんなが同じビジョンを共有しながら、ひとつの体に仕上げていくことが、すごく重要な点だと思います。

----:クルマの開発という点ではチームワークはどうですか。

ルノー・ジャポン フレデリック・ブレン氏:大事なことだと思います。ルノー・スポールの特徴として、開発の段階では、エンジニアとドライバーは同じクルマに乗ってテストをしています。両者が同じものを感じながら、ときには、エンジニアがドライバーになり、隣にテストドライバー乗って、お互いに厳密に連携を取りながら開発しているのです。

最速を目指すこと…その2「コーナリング」

----:さて、ルノーメガーヌRSトロフィーRは、6月にドイツのニュルブルクリンクサーキットにおいて、量産FF車最速となる7分54秒36を記録しました。このラップタイムを向上させるために特に取り組んだことは何でしょう。

ブレン氏:例えば、4リットル400馬力のV8エンジンをミッドシップに搭載すれば、タイムは縮まるでしょう。しかしそうすると、一般の方にはなかなか手の届かない価格になってしまいます。ルノーにとって重要なことは、市販車をベースにして開発することなのです。そうすることで、価格を抑え、より多くの人にクルマを楽しんでもらえるからです。

そこで、メガーヌの場合には、エンジンの特性を変えました。具体的には5000回転でのトルクを10Nmアップさせることで、コーナリングスピードを上げタイムアップにつなげています。
更に、路面によりパワーを伝えるために、外側がソフトコンパウンドで、内側がハードコンパウンドのハイグリップタイヤをミシュランと共同開発しました。また、ラリーのグループNで開発された、ダンパーも採用しています。

----:コーナリングといえば、400mハードルで曲がりながらハードルをクリアしていくのはとても難しく感じるのですが。

為末氏:人間は二本足で立っているので、左コーナーになると右足の方が浮いてきてしまいます。なので、左足と右足の役割が違ってきます。コーナーでは少し腰を落として、地面にへばりつくように走り、直線に出た瞬間に、そのまま前に飛び出ていくような、直線での走りにすぐに変わるという感覚の切り替えがとても重要なのです。そのイメージとして自動車レースの映像を見たり、クルマの動きを表現をしたりすることもあります。

----:今週末に走る鈴鹿サーキットはコーナーワークを含めてとてもテクニカルなコースだと聞いています。マルドナド選手はどのようなイメージを持っていますか。

マルドナド選手:鈴鹿サーキットは素晴らしく、とてもチャレンジングなサーキットだと思っていて、世界のドライバーもとても敬意を表しています。チームにとってもクルマにとっても、そして、ドライバーにとってもチャレンジングで、体力も要求され、集中力が必要とされます。特にファーストセクターは一連のハイスピードのコーナーがたくさんあるので、精密さが要求され、また、バランスも重要なところです。

最速を目指すこと…その3「レベルアップのために」

----:では、なぜルノーは最速を目指すのでしょう。

ブレン氏:今回のタイムアタックの目標は、“アンダーエイト(8分を切る)”でした。なぜここまで努力をするかというと、その技術を市販車、例えばメガーヌハッチバックやワゴン、つまり、普段我々が乗っているクルマにも反映できるからです。楽しいクルマを作るというのがルノーの使命ですから。

----:タイムアップとはレベルの向上につながるわけですが、為末さんが陸上競技の選手だったころ、レベルアップしたのはどんなときでしたか。

為末氏:新しい環境で、そこに適応しなければいけないなど、自分に負荷がかかるときです。僕は23歳のときに、何もわからない中で初めて海外のグランプリに行きました。しかも、世界のトップエイトで戦いながら、何とか生き残るしかないというときに、自分が伸びたなと思いました。

もうひとつは、選手の中でブレイクスルーが起きるということがあります。例えば昔、陸上競技で、“マイルレース”という1.6kmのレースがありました。当時、4分を切れないという時代が10年、20年続いたのですが、そのうち一人のイギリス人の選手が4分を切るのです。そうするとその翌年には23人の選手が4分を切った。誰かが限界を突破すると、それが常識になり、みんなが挑んでくるのです。従って、先頭で居続けるということはすごく重要で、その人がずっと限界を作っていき、その人がブレイクスルーを起こし続けることが、全体のレベルを引き上げるうえでも、すごく重要なことなのです。

最速を目指すこと…その4「その意義」

----:最後に皆さんにお伺いします。最速を目指すことの意義について教えてください。

マルドナド選手:最速はドライバーにとって最も重要なことです。常にそれを実現しなければならず、そのための才能や、技術的なことも要求されます。また、そのためにチームに対してもサーキットにマシンを適応させなければならないという要求にもつながります。つまり、制限がないということです。常により速くスピードを出すということに対して、ベストを尽くさなければならないということなのです。

為末氏:子供のころ、隣の町に行っただけで全然知らない風景に出会ったりして楽しかったと思いませんでしたか。つまり、自分でも知らなかったようなものに出会うということは、僕は感動するのに一番大事なものだと思うのです。感動する前に必ず驚きがある。こういう未知の領域に向かっていこうとすることは、結局は冒険なのです。人間の好奇心が速さを追求させ、そこに身を任せることへの喜びがあるのではないかと思います。おそらく普通にクルマに乗る人たちは、(レースや最速ラップで)それを疑似体験したり、僕らの場合は、見ていただいている観客の方々が疑似体験しています。誰かが何かを追求していくということ、その冒険が、すごく好奇心をかき立てられるのではないかと思っています。

ブレン氏:記録というのは、そこを超えることに意味があります。それを超えたときに初めて、そのチャレンジが量販車にフィードバックされ、毎日乗っているクルマが楽しいかどうかが決まってくるのです。

最近クルマ離れといわれていますが、それは運転の楽しさがなくなったからです。しかしルノーは、F1を1970年代から35年以上取り組んでおり、その開発をしているルノー・スポールから市販車が販売されます。ただ量販車を作るのではなく、常に目標となるターゲットを目指して、そうした楽しいクルマを作るメーカーがルノーなのです。

《内田俊一》

内田俊一

内田俊一(うちだしゅんいち) 日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員 1966年生まれ。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を活かしデザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。また、クラシックカーの分野も得意としている。保有車は車検切れのルノー25バカラとルノー10。

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