BMWのPHVスポーツ『i8』とコミューターEVの『i3』。両車の企画はリーマンショック前、2007年にさかのぼる。日産『リーフ』をはじめとするEVの苦戦、ハイブリッドカーの躍進と内燃機関の効率向上など、自動車パワートレーンを巡る各メーカーの開発環境ははめまぐるしく変化している。このような状況の中で、BMWはi3・i8をどのように既存ラインナップの中に位置づけるのか。
iプロジェクトを統括するプロダクトマネジメント ヘッドのマクシミリアン・ケルナーDr.(Maximilian Kellner)氏とプロジェクト BMW i ディレクターの丸山英樹氏に聞いた。
エクストリームなところから始めようと思った
----:今回はまず「BMW i」がどのように生まれたか、そして「i」という文字に込められた意味を教えてください。
ケルナー:その話は、BMWグループ全体の将来的な戦略を立てた6年前(2007年)に遡ります。私たちは当時すでに、今後の社会を予測するいくつかのトレンドをつかんでいました。
一つは都市化です。大都市への人口流入は、日本では昔からありますが、中国、欧州、南アメリカなどでもその傾向が強まっています。ですので私たちは今後、市街地用のクルマが今以上に必要になると考えました。そしてもう一つが、厳しくなるCO2排出基準への対応です。同時に石油価格も上昇し、人々は高いガソリン代を払いたくないと思っています。
私たちはこうした世界的な潮流に対して、サスティナビリティ、つまり持続可能性を志向すべきと考えました。具体的には、燃費性能やエネルギー効率をもっと高めなくてはいけないということです。そして私たちはそれを、エクストリームな(最先端の)ところから始めようと考えました。それがBMW iだったのです。
私たちはBMW iというブランドに、どんな要素を入れるべきか検討しました。そこで出た1つ目の要素が「ビジョナリー モビリティ」、つまり未来志向型の移動手段です。2つ目が「インスパイアリング デザイン」、つまりクルマが持つ本質的な価値が一目で分かるデザインです。そして3つ目が「サスティナビリティ」です。私たちはこれらの要素が今のお客様だけでなく、将来のお客様にも重要な価値を持つと考えました。
「i」という名前に、明確な意味は込めていません。あえて言えばイノベイティブ(革新性)、インテリジェンス(知的)、インスパイアリング(感動を与える)といった言葉が連想されると思います。
i3は今の充電インフラで十分に満足できる
----:今回はi3とi8の2モデルを発表されました。i3に関してはEV(電気自動車)ですが、その場合によく問題になる充電インフラの整備についてはどうお考えですか。
ケルナー:私たちはBMW i で、これまでBMWにはなかった、市街地用に特化したクルマを作りたいと考えました。そしてそれにはEVが適していると考え、i3の開発が始まりました。充電インフラについてはおっしゃる通りですが、私たちは一方で、i3の航続距離なら今の充電インフラで十分満足できると考えています。
私たちは多くのお客様がセカンドカーとしてi3を購入すると考えています。その場合、私たちが世界中で行ったMINI EやアクティブE(1シリーズのEV)の実証実験から、自宅で充電するだけでも航続距離は十分であり、また実際に人々がEVに乗るようになると、人の方がEVに適応してゆくということが分かりました。それはスマートフォンに対して、今では人々が必要に応じて充電したり、人によっては充電ケーブルを持ち歩いたりして、自分たちの行動を変えてゆくのと似ています。
もちろん、将来的にEVの市場シェアが20~25%を超えたり、50%に達することになれば、インフラにも大きな変化が必要だと思いますが、今のところそういった必要はないと思っています。
ガソリンスタンドに行くより、家で充電する方を選ぶ
丸山:日本でもMINI Eの実証実験は大きな成功を収め、我々はそこから多くを学びました。例えば、MINI Eを5ヶ月間、使っていただいた日本のユーザーの(1ドライブあたりの)平均走行距離は26kmで、十分に航続可能距離内に収まるものでした。また、中には一回の充電で最高189km走った方もいました。つまりEVに慣れてくると、航続距離が伸びてくるという楽しみもあるわけです。
また、実証実験に参加した方は、MINI Eを最初はセカンドカーとして乗り始めたわけですが、結果的には月曜から金曜までMINI Eに乗り、週末にはエンジン車に乗るという具合に、使用頻度ではMINI Eがファーストカーになるという現象が起きました。これは毎日、通勤などで同じ距離を走るなら、MINI Eが一番経済的だったからです。また、特に女性の場合、セルフのガソリンスタンドへ行くより、自宅で充電するのを好む傾向がありました。
ケルナー:EVの実証実験で分かったのは、人々がガソリンスタンドに行くことを嫌がるようになるということでした。理由の一つは、ガソリン代を払いたくないからで、もう一つはガソリンスタンドへ行くのが面倒だからです。そして自宅で充電するだけで済むのなら、もうガソリン車には乗りたくないと考えるようになると分かったのです。
すべてはお客様のニーズに応えるため
----:とはいえ日本の一般ユーザーには、まだEVに対して消極的な面もあります。また、i3にはオプションでレンジ・エクステンダー(航続距離を延長するための発電用エンジン)が用意されています。
丸山 :1997年にトヨタからプリウスが登場した時、ハイブリッド車はあまり売れませんでした。その要因の一つは、同じハイブリッド車の仲間がいなかったからです。その後、ホンダからインサイトが出たり、トヨタからも他にハイブリッド車が出て、徐々に増えてきました。EVに関しても、三菱の『i-MiEV』があり、日産の『リーフ』が出て、さらに我々やVWが参入し、選択肢が増えることで、盛り上がっていくと考えています。
ケルナー:レンジ・エクステンダーはあくまでもオプションで、i3は基本的にEVとして設計されています。ですので、それほど長距離を走らない人であれば、レンジ・エクステンダーの必要はなく、純粋なEVとして乗ることが可能です。それでもレンジ・エクステンダーを用意したのは、たまには150kmを超える長距離を移動すると考えた場合、それもあった方がいいだろうと考えたためです。また、現在のバッテリーの開発状況を考えた場合、それが(航続距離を伸ばすには)一番いい選択だと考えたわけです。
丸山:何を選ぶかは、お客様本位です。長距離を走るのであれば、例えばクリーンディーゼル車もありますし、アクティブハイブリッドもあります。BMWとしてはお客様のニーズに合ったものを用意し、あとはお客様にチョイスしていただくことになります。
----:i8にはエンジンと電気モーターを併用するプラグイン・ハイブリッドを採用しました。
ケルナー:i8は非常にシンプルなコンセプトのクルマです。市街地用のクルマではなく、スーパースポーツの現代版です。言葉を換えれば、i3と共通する遺伝子を持ったスーパースポーツを作った結果、i8が生まれたわけです。
i8でもう一つポイントになるのは、BMWが世界各国の事情に合わせてクルマを作る必要があるということです。例えばドイツでは、高速道路に速度制限がない区間がありますが、そこをEVで長時間、250km/hで走り続けるのは、エネルギー効率が悪く、非現実的です。私たちは電気モーターをフロントアクスルに搭載し、小型の内燃エンジンをリアアクスルに積む方法が、スーパースポーツのi8にはベストだと判断しました。
i3とi8は、いわばブックマーク
----:BMWはトヨタと燃料電池車で技術提携しています。今後、燃料電池がこのBMW iに積まれる可能性は。
ケルナー:燃料電池は明らかに将来、重要な技術ですが、燃料電池をどのモデルに展開するかに関しては、まだ明確な将来像を私たちは持っていません。また、私自身、燃料電池の専門家ではないので、私からコメントはできません。
----:今回はi3とi8という2モデルを発表したわけですが、今後i3より大きなモデルや、多人数が乗れるモデルをiブランドで追加する予定は。
ケルナー:今とりあえず言えることは、i3とi8は、iのモデルレンジを「ここ」から「ここ」まで展開するという、いわばブックマーク(しおり)だということです。つまりその間には、新しいモデルを展開する余地が十分にあるわけです。また、今後のモデル展開については、i3とi8で大きな技術的変革を行った今回の第一段階から学ぶ必要があると考えています。
----:以前、ベルリンでMINI Eに、また米国でアクティブ Eに試乗しましたが、運転するのがとても楽しいことに驚きました。ですから、今回のi3にも期待しています。
ケルナー:i3はアクティブEと同じモーターで、車重が600kg近く軽いのです。それによってドライビングがどれほど違ってくるか、想像してもらえれば分かると思います。楽しみにしていてください。
《聞き手:宮崎壮人 まとめ:丹羽圭@DAYS》