【池原照雄の単眼複眼】ブランド力もつくり込むマツダの「モノ造り革新」

自動車 ビジネス 企業動向

マツダ防府工場 組み立てライン
  • マツダ防府工場 組み立てライン
  • 【池原照雄の単眼複眼】ブランド力もつくり込むマツダの「モノ造り革新」
  • 新型マツダ3( アクセラ )の4ドアセダン
  • マツダ CX-5
  • マツダ 菖蒲田清孝常務執行役員
◆SKYACTIVと一体推進で成果

マツダが先進環境技術の「SKYACTIV」と一体的に推進している「モノ造り革新」(以下=モノ革)の現場を、防府工場(山口県防府市)で見た。昨年11月に全面改良した『アテンザ』や、間もなく北米から市場投入が始まる新型『アクセラ』という主力モデルの生産拠点だ。

モノ革によるコスト低減効果が同社の業績回復にも顕在化しつつあるが、単なるコスト改善策ではなく、商品価値を高めるための活動という視点が生産現場にも浸透してきたとの印象だった。2008年のリーマン・ショック後は12年3月期まで4期連続の最終赤字に苦しんだ同社だが、SKYACTIVとモノ革による再生へと、全社のギアががっちり咬み合ってきた。

マツダのモノ革は06年に着手した業務改革策で、09年にコンセプトを対外発表したSKYACTIV技術による新商品群の投入と表裏一体で進めている。モノ革ではまず、5~10年先をにらんだ技術や商品を丸ごと「一括企画」する。設計段階から部品の共通化を大胆に進める一方で、個々のモデルの個性や特徴を際立たせるための独自の仕様(部品)も認めるという手法だ。

こうした企画・設計により、商品の多様性と生産ボリュームの追求によるコスト低減という、一見相反するテーマを両立させていく。マツダの生産規模は年130万台レベルと、決して大きくない。一括企画は、トヨタ自動車のような巨大なフルラインメーカーには難しく、マツダならではのスケールを逆手に取った手法といえる。

◆モノ革でデザインの忠実な再現も

モノ革による開発・生産改革とSKYACTIV技術を全面採用した第1号として12年2月に発売した『CX-5』は世界的なヒットとなった。環境と走りの両立で商品力を高める一方、コスト低減で競争力ある売価を実現した。同車を発表する際、山内孝社長(現会長)は「1ドル77円、1ユーロ100円でも利益が出るクルマ」と、モノ革がもたらす円高抵抗力をアピールしていた。

モノ革の現場は、ほぼ1年前にも本社工場宇品地区(広島市南区)で取材する機会があった。この時はまだSKYACTIVのフル装備車がCX-5のみということもあって、モノ革との相乗効果は緒に就いた段階だった。今回の防府工場では、主にアテンザの生産ラインでの革新ぶりをプレス、車体、塗装、組立とすべての主要工程で見ることができた。

マツダは「魂動(こどう)」と呼ぶデザインコンセプトを展開しているが、各工程ではデザイナーが求める意匠をできるだけ忠実に量販モデルに再現する取り組みも、モノ革の一環として行われていた。たとえばフロントフェンダーなどのプレス成型では、デザインに基づいた「張り出し感」のあるラインを出すため、成形シミュレーションの精度を向上させて金型を製作した。成形後に鋼板が元の形状に戻ろうとする「スプリングバック」も精緻に解析し、金型に反映している。

◆顧客の期待を超え得るような価値を追求

その一方、プレスで打ち抜いたあとの廃棄鋼板を抑制する「歩留り向上」策も各パーツで並行して進め、車体のサイドパネル外板では旧モデルで52%だった歩留りを61%に高めた。魅力的なデザインと材料費の削減を両立させているわけだ。

意匠の忠実な再現という点では、アテンザの象徴的なカラーである赤い専用色の塗装技術も、モノ革の成果という。鮮やかだが陰影もある独特のカラーリングであり、同社はこの赤を「ソウルレッド」と呼んでいる。もともとはショーの展示車両のために熟練工が13回の塗り重ねで仕上げたものを、メタリック用素材の制御などにより、3層塗りの量産工程で再現したものだ。アテンザではソウルレッドの受注比率が約2割。セダンやワゴンでは通常、数%にとどまる「赤」が異例の人気を得ている。

グローバル生産部門などを担当する菖蒲田清孝常務執行役員は、今後のモノ革の方向について「お客様の期待を超えるようなブランド価値を実現するための生産革新」と強調する。効率とコストの追求で超円高にも対抗しうる生産から、ブランド価値の「つくり込み」も成しうる生産である。アテンザでは尖ったデザインを量産モデルにも再現するという取り組みなどで、そうした方向へ一歩踏み出したといえる。
《池原照雄》

編集部おすすめのニュース

特集