新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、住友電気工業(住友電工)、フジクラ、国際超電導産業技術研究センターの4社は5月28日、「イットリウム系」の高温超電導線材を用いた大電流・低損失の66kV超電導電力ケーブルを開発したことを発表した。
併せて、世界最大級である5kAの長期課通電試験および極低損失通電の検証を実施し、冷却効率を考慮した上での送電損失で、従来の電力ケーブルの1/3以下を達成したことも発表している。
超電導(超伝導)は、特定の温度以下になると電気抵抗がゼロになる現象のことで、大別して液体ヘリウム(-269度)を使って冷却する「低温超電導(金属系超電導)」と、液体窒素(-196度)を使う「高温超電導(酸化物系超電導)」の2種類がある。
高温超電導ケーブルは、その高温超電導の線材を使用した電力ケーブルで、低温超電導に比べて冷却に必要な設備が軽減され、コンパクトにできることから、冷却にかかるコストを低減することが可能だ。
またケーブルのサイズがコンパクトになるため、地中送電線の管路の小型化・少本数化につながり、実用化されれば、送電効率の向上に加え、電力流通設備の建設においても大幅なコストダウンを実現するものとして期待されている。
そしてイットリウム系超電導線材は、表面を結晶配向化した長尺金属テープやクロム・ニッケル基合金などのテープ状金属基板上に、IBAD(Ion Beam Assisted Deposition)法などによる中間層を介してレアアース(イットリウムなど)、バリウム、銅などからなる酸化物超電導材料を結晶成長させながら成膜した超電導線材のこと。高温超電導線材であり、その特性は電流密度が高く、磁場中でも特性低下が少なく、また交流損失も小さい。実用化された高温超電導線材の中で最も性能の高い材料だ。
今回、住友電工は、世界最大級の570MVAの送電容量を持ち、150mm管路に収納可能な世界最大の送電密度を有するコンパクトな15m長の66kV級三心一括型超電導ケーブルシステムを構築し、30年間の運用に相当する加速条件のもとで長期課通電試験を実施。システムの健全性を確認すると共に、その交流損失が5kA通電時に1相あたり2W/m以下という低損失であることを検証した。
また、その大電流接続部となる終端接続部の電流リード開発、および中間接続部の技術開発も行い、超電導ケーブルシステムの実用化に必要な要素技術開発を完成させた形だ。短尺ケーブルにより、交流損失低減のための要素技術を確立すると共に電力系統事故時の故障電流に対する健全性を検証した。
フジクラは、世界最大級の臨界電流(Ic=500A/cm以上)を有するイットリウム系超電導線材を用いて作製した66kV級の超電導ケーブルによる全長約20mの試験線路を構築。この試験線路に電力ケーブルとしては最大級である5kAの通電を行い、実環境に近い状態で交流損失を評価した。その結果、5kA通電時に1相あたり1W/m以下となることを検証し、これは現用の電力ケーブル(代表的には154kV600MVA級)と比較して冷却効率を考慮した上での送電損失を1/4以下にできるものである。
NEDOでは、これらの成果によって、第1世代といわれているビスマス系超電導ケーブルが実用化された後のさらなる電力系統の高効率化に資する基礎的な技術が確立したと考えているとした。
今後の予定としては、まず住友電気工業は、今回の成果をコンパクト・大電流容量が必要な電力ケーブルへ適用することを考えているという。そのためにはイットリウム系線材の長尺化・量産化の技術開発や、イットリウム系ケーブルの実系統での長期信頼性・安定性の検証が必要となるとしている。
ちなみに現在、「高温超電導ケーブル実証プロジェクト」にて、ビスマス系線材を用いた超電導ケーブルで、国内初の実系統での実証試験を実施し、長期信頼性・安定性を検証中だ。この先行しているビスマス系超電導ケーブルの早期実用化を計り、その成果も活用してイットリウム系ケーブルの実用化に向けた開発も進めていくとしている。
またフジクラは、今回、高い臨界電流を有する超電導線材は交流損失の低減に効果的であることを検証することができたことから、超電導ケーブルのさらなる大容量化・コンパクト化を図れるものと期待しているという。今後もイットリウム系線材の開発を進め、超電導ケーブルの低損失化を進めると共に、超電導ケーブルシステムの実用化に寄与していくとした。