三菱の新しい世界戦略車として開発されたコンパクトカーの『ミラージュ』は、『マーチ』と同様に日本で開発し、タイで生産され、日本に輸入される。実質的には『コルト』の後継モデルだが、新しい名前が与えられたのは、コルトよりもひと回り小さいクルマだからだ。
外観デザインは何とも平凡だ。多くのユーザーに支持されることを目指したデザインなのかもしれないが、個性に欠けるデザインで万人受けするのは難しい。インテリアは外装に比べたらまだましだが、いかにも低価格のコンパクトカーの内装である。
ミラージュは低価格・低燃費を実現するために、小さく軽く作られた。3710mmという全長は『パッソ』よりは長いがマーチよりも短いという関係にある。小さなボディに加えて高張力鋼板を多用したことなどが、軽量化のポイントだ。
軽いボディにすると、エンジンやブレーキなどを大きくする必要がなくなり、そのことが燃費を良くするといった具合に好循環が生まれる。登録車のガソリン車として最高のリッター27.2kmの燃費を達成できたのは、正に軽さの恩恵だ。エコカー減税は免税が適用される。
小さなボディの割には十分な居住空間が確保され、ラゲッジスペースも必要十分な広さだ。また小さなボディは小回りの良さにつながっていて、取り回しが楽なクルマである。
搭載エンジンは新開発の3気筒1000cc。動力性能はごく平凡なもので、特に不満は感じないが良く走るといった印象でもない。軽いボディだから1000ccエンジンでも何とか間に合っているという感じである。
副変速機付きのCVTとの組み合わせによってそれなりの加速を見せるものの、アクセルを踏み込んでいったときの加速の伸びには物足りなさを感じる。
それ以上に物足りないのは足回りで、柔らかめの乗り心地は良いものの、ハンドルの操作感やコーナーでの安定感などが確かさに欠ける感じだ。せめてフロントにスタビライザーを装着してほしい。
安全装備も、標準装備を義務付ける法制化が目の前に迫っていた横滑り防止装置を、規制前の駆け込みでオプション設定にとどめたほか、法規制のない後席中央のヘッドレストレイントに至ってはオプション設定すらしていない。
かつて三菱自動車は、法規制に先駆けて安全なクルマを作っていた。ほかのメーカーが部分強化ガラスで良いとしていた時代にフロントに安全な合わせガラスを採用したり、後席中央の3点式シートベルトを積極的に採用したりしていた。
なのに今回ミラージュではこの仕様である。かつての三菱車を振り返るまでもなく、安全の優先順位を下げたクルマ作りは何ともいただけない。
価格はアイドリングストップ機構のつかないベースモデル(燃費はリッター23.2kmに下がる)に100万円を切る価格が設定されるものの、中心グレードのMは118万8000円で特に割安な感じではない。
タイで生産するなら、そのことのメリットが日本のユーザーにはっきりと伝わるような価格設定をしてほしいところだ。
マーチをベンチマークに、3気筒エンジンの搭載からタイで生産することなどまで、マーチと同じ方法を踏襲している。後から登場してきただけに、燃費や操縦安定性など、マーチを上回っている部分が多いが、これで十分とはいえない。
■5つ星評価
パッケージング:★★★
インテリア/居住性:★★★
パワーソース:★★★
フットワーク:★★
オススメ度:★★
松下宏|自動車評論家
1951年群馬県前橋市生まれ。自動車業界誌記者、クルマ雑誌編集者を経てフリーランサーに。税金、保険、諸費用など、クルマとお金に関係する経済的な話に強いことで知られる。ほぼ毎日、ネット上に日記を執筆中。