【シンガポール、タイ】キリンホールディングスは1日、保有するシンガポールの不動産・飲料大手フレイザー・アンド・ニーブ(F&N)株のすべて(発行株式の約15%)をタイの富豪ジャルーン・シリワタナパクディー氏(68)傘下のTCCアセット社に売却すると発表した。売却額は約20億シンガポールドル(約1500億円)で、約470億円の売却益を見込む。
キリンホールディングスは2010年にF&N株の約15%を取得、F&Nに取締役1人を派遣し、東南アジアの飲料事業で協働の機会を模索、協議してきた。しかし、TCCが1月30日までに、株式公開買い付け(TOB)でF&N株の過半数を取得し、経営権を取得したことから、F&Nとの提携を断念した。
F&Nは総資産約146・5億シンガポールドル。2012年9月期は売上高約36億シンガポールドル、営業利益約5・4億シンガポールドルだった。
ジャルーン氏は2012年7月、F&N株の一部を取得。その後、F&Nの買収を目指し、オランダのビール大手ハイネケン、インドネシア資本の不動産会社オーバーシーズ・ユニオン・エンタープライズ(OUE)と争ってきた。ジャルーン氏は今年1月18日に買収提示額をつり上げ、OUEが買収合戦から撤退。ジャルーン氏によるF&N買収が決まった。
〈ジャルーン・シリワタナパクディー〉
1944年、バンコクの中華街生まれの中国系タイ人。中国名は「蘇旭明」。小学4年で中退して物売りを始め、酒造会社勤務などを経て、酒造業に参入。蒸留酒、ビール、不動産、金融、消費財などを手がける巨大財閥を一代で築いた。傘下企業はタイのアルコール飲料最大手タイビバレッジ、不動産大手TCCランド、消費財大手バーリユッカーなど。不動産ではニューヨークの高級ホテル「プラザアテネ・ニューヨーク」を筆頭に、タイ、ベトナム、中国、英国、日本などでホテル数十館、バンコクのITモール「パンティッププラザ・プラトゥーナム」、バンコクの大規模コンベンションセンター「クイーンシリキット・ナショナル・コンベンションセンター」、オフィスビルの「エンパイアタワー」、マンション、ゴルフ場などを所有。米経済誌フォーブスがまとめた2012年版の「タイの富豪40人」では、資産総額62億ドルで3位だった。
ジャルーン氏(写真中央)