【中田徹の沸騰アジア】HV競争が本格化する東南アジア、各国は投資誘致へ

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タイ/マレーシア:ハイブリッド⾞車車販売台数
  • タイ/マレーシア:ハイブリッド⾞車車販売台数
  • ホンダ・ジャズハイブリッド(日本名:フィットハイブリッド)
  • トヨタ・カムリハイブリッド
  • ホンダ・シビックハイブリッド
  • トヨタ・ヴィオス
  • 三菱・ミラージュ

東南アジアでは、ハイブリッド車(HV)をめぐる動きが加速している。

2012年7月、ホンダがタイで『ジャズハイブリッド』(日本名:『フィットハイブリッド』)を生産・販売開始した。さらに2012年内にマレーシアでもHVを組立開始する。東南アジアでは、トヨタがタイのゲートウェイ工場で『カムリハイブリッド』と『プリウス』の現地組立を行っているが、トヨタに続いてホンダも現地生産に乗り出した。カムリハイブリッドとプリウスは現地では中心価格が300万円を超えるが、ジャズハイブリッドは最低価格が189万円に設定されており、潜在的な購入者層が広がった。

アセアンにおけるHV販売のほとんどがタイとマレーシアに集中する。また、トヨタとホンダの2社がほぼ全てのシェアを持つ。アセアンのHV市場は2010年の6200台強から2011年の2.2万台に拡大。さらに2012年に3万台に迫ると筆者は予測する。HV需要は拡大基調だが、100万円前後の低燃費な新車(主にガソリン車)が相次いで投入されるなかで、今後どこまで伸びるかは現段階では未知数だ。しかし、自動車メーカーは新車投入を進めることで環境対応の姿勢をアピールするとともに、将来に向けた布石とし先行者利益という果実を期待している。

トヨタはタイ工場を軸にHV車を展開

東南アジア市場におけるHV販売トップはトヨタだ(2011年実績)。

「エコカー」(小型乗用車)の生産開始に向けた動きが加速していたタイ。トヨタは2009年7月、ゲートウェイ工場でカムリハイブリッドを生産開始。続いて2010年11月に同じゲートウェイ工場でプリウス(第3世代)を組立開始した。また、レクサスブランドのHVを輸入販売している。タイにおけるトヨタ/レクサスのHV販売台数は2010年に5864台に拡大。プリウス効果により、2011年には1万3119台へ伸ばした。1.3万台の内訳は、プリウス7785台、カムリハイブリッド5055台、レクサス車279台だ。

日本では大衆車となったプリウスだが、タイにおける最低価格は119.9万バーツ(約295万台)で、最量販クラスの『ヴィオス』(1.5リットル)などが50万~70万バーツであることと比較すると割高だ。東南アジアでは高級なイメージがあるカムリについてはHVの価格プレミアムが受け入れられているようだが、一方でプリウスは販売2年目に入り勢いが鈍化している。

マレーシアでは、トヨタはHVの組立・生産を行っていないが、プリウスとレクサスブランドのHVを輸入販売している。これらの販売台数は2010年に199台だったが、HVに対する物品税減税が実施されたことに後押しされ、2011年には3724台へ伸びた。

2012年も拡大基調だ。ただ、マレーシアのHVセグメントでは、2011年以降、トヨタはホンダの後塵を拝す状況となっている。

ホンダはタイとマレーシアで現地生産開始

今から遡ること5年前。ホンダは2007年にマレーシア、インドネシアなどに『シビックハイブリッド』を投入したが、販売台数は数十台にとどまった。販売価格が高かったことが売れなかった最大の理由だ。

2011年予算案でHVに対する物品税を50%減税から全額免除に変更したマレーシア市場。2010年11月にインサイトを販売開始したことで、ホンダのマレーシアでのHV販売は2011年に4596台となり、前年の129台から大きく伸ばした。2012年のHV販売目標を1万台に設定しているホンダは、2012年前半までに『CR-Z』、ジャズハイブリッドを製品ラインに追加。また、2012年7月19日にはマレーシア子会社がペゴ工場でHVを組立開始すると発表した。2012年末までに現地製ジャズハイブリッドを投入する計画で、トヨタなどの競合他社に先駆けて現地生産を開始する。

一方、タイでは2012年7月26日、ジャズハイブリッドを販売開始した。タイ初のコンパクトHVとされるこの車種は、アユタヤ工場で組み立てられる。バッテリーやモーターなどの基幹部品は日本から供給される。最低価格は76.8万ルピー(約189万円)で、年間販売目標は1万台。プリウスの最低価格より40万バーツ(約100万円)以上安く設定されており、新たな顧客の開拓が期待される。ただ、ジャズのガソリン車(59万~71.5万バーツ)と比較すると割高感は否めない。

アセアン主要国は誘致競争を展開

トヨタに続いて、ホンダも現地生産を始めたことで、いよいよアセアン主要各国はHVなどの環境車生産のための投資誘致に動き始めた。

タイでは、既に環境車優遇策がいくつか導入されている。2012年現在、HV(排気量3.0リットル以下)と電気自動車(EV)に対する物品税を10%(通常税率17~50%)に引き下げているほか、バッテリーや変速機など一部のHV用部品に対する輸入関税を免除している。しかし、「アジアのデトロイト」を標榜するタイは、1tピックアップトラック、エコカー(小型乗用車)に続く第3の戦略車としてHVを視野に入れており、HV分野でも東南アジアにおける中心的生産拠点になりたい考えだ。今後、2012~2016年を対象とする第3次自動車工業基本計画が発表されるとみられるが、これにはHV生産のための投資優遇策が盛り込まれる可能性が高い。

乗用車ではタイに大きく水をあけられたが、環境車ではタイとインドネシアに対して優位に立ちたいマレーシア。2008年にHVに対する物品税と輸入関税の減免を開始した。

2010年からはHVおよびHV部品の生産に関して法人税免除や投資税額控除などの恩典を付与している。また、前述のように2011年予算案ではHVに対する物品税の全額免除を決め、2013年末まで適用される予定となっている。こうしたなかでマレーシア政府は2020年までにHVと電気自動車(EV)の販売比率を10%に引き上げる方針を示している。一方でHVの市場全体に占める割合は2011年1.4%(実績)、2012年2.5%(予測)だ。今後、国民車メーカープロトンがHVを投入するとみられ、需要喚起が期待されるが、同時にHV普及策の追加導入も予測される。

また、HVの販売実績がほとんどないインドネシアとフィリピンもHV生産を目指している。インドネシアでは、現地政府がトヨタとホンダにHVの現地生産を打診したとされる。これを受けてトヨタが2014年にMPVタイプのHVを生産開始するとみられ、このためトヨタは税優遇などのインセンティブを求めていく考えだ。一方、自動車組立産業が低迷しているフィリピンは、EVやHVなどの製造企業に対する税優遇策を含む法案を審議しているところだ。

アセアンのHV市場の将来性

HV生産・普及拡大をめぐって自動車メーカーと現地政府の双方が動きを活発化しているが、東南アジアの消費者はHVを買うのだろうか。

モータリゼーションの入り口に差し掛かっているアセアンでは、排気量1~1.5リットルクラスの小型車需要が膨らんでいる。この典型的が、タイの「エコカー」であり、インドネシア政府が導入を目指している「LCGC」である。これらの車種には燃費が20km/リットルを超えるものも多く、三菱『ミラージュ』は27.2km(日本モデル)だ。こうしたなかで価格の高いHVがプレゼンスを獲得するのは容易ではなく、環境イメージをアピールするツールとしての役割が中心となるだろう。

世界を見渡したとき、エネルギー問題は大きな問題だ。そして自動車産業がとりうる対応策のひとつが燃費性能の良い環境車を市場に供給することだ。しかし、消費者が何を選ぶかは国・地域によって異なる。欧州の主流はディーゼル車、過給器(ターボチャージャー)を積んだダウンサイジングエンジンだ。インドでは最近ディーゼル車の人気が高まり、ブラジルではバイオエタノール車が圧倒的に多い。世界最大市場の中国では、HVに傾きつつあるようだが、今のところVWが得意とするダウンサイジングエンジンなどのシェアが高い。日本メーカーが得意とするHVは、日本以外では伸び悩んでいる。

東南アジアのHV市場は2012年に3万台程度に増えるが、短期的には数万台にとどまる、と筆者は予測する。中長期的には未知数だが、今後導入される政策に左右されるだろう。いずれにせよ、日本車シェアが80%を超えるこの地域で日系メーカーがプレゼンスを維持するためにも、早い段階からHVユーザーを育てることが必要なのかもしれない。

《中田徹》

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