日本では30年近く前に流行したが、とっくに廃れたのがスタイリッシュな4ドア車。その人気が、今ヨーロッパで盛り上がっている。
メルセデスベンツCLSが2代目になり、パサートCCがマイナーチェンジでフォルクスワーゲンCCに変わり、アウディがA5やA7のスポーツバックをラインナップする中に、遅ればせながら参戦してきたのがBMWの『6シリーズグランクーペ』だ。
特徴は6シリーズのクーペが先にあって後から4ドア車を設定したこと。ほかの各車が4ドア(5ドア)車が先にあってそれをベースにスタイリッシュな4ドア車を作ったのと異なっている。
カッコ良いクーペが先にあるので、6シリーズグランクーペはセダンとしては相当にカッコ良いのに、クーペほどではないというつらい立場にある。
競合車より低い1400mmを切る全高ながら、室内への乗降性は特に悪い印象ではなく、乗り込んでしまえば十分な空間がある。インテリア回りの仕様は本革シートや木目パネルなどによってラグジュアリーな雰囲気が演出されている。
いただけないのは、後席には実質的に2人分しか乗れる空間がないのに、5人乗りの設定にしていること。しかも後席中央には3点式シートベルトは装備されているが、ヘッドレストレイントは装備されておらず、無理やり5人乗りにしたことが見え見え。BMWがこのような下手な日本車みたいなクルマを作っちゃダメだ。
試乗車は直列6気筒3.0リットルの直噴ターボ仕様エンジンを搭載する『640iグランクーペ』と同『Mスポーツパッケージ』仕様の2車種。
エンジンはこれまでにBMWの幅広い機種に搭載されているものだが、チューニングが変更されて動力性能が235kW/400N・mにまで高められている。なので、グレード名も635iではなく640iになっている。これに8速ATが組み合わされる。
この直6直噴ターボはとても良いエンジンで、今回も余裕十分で気持ち良い走りが楽しめた。ただ、かつてほかのモデルで感じたほどの感動ではなかった。このエンジンの良さに慣れてきたことや、大きくて重いボディに搭載されていることなどが、感動が薄れた理由だだろう。
だからといってこのエンジンの性能が劣っているわけではなく、基本的にとても良く回るとともにトルク感にあふれた好印象のエンジンであるのは変わらない。
走行モードは燃費を重視したエコプロモードから横滑り防止装置の機能を切るスポーツ+まで5段階の切り換えが可能で、その日の気分や走行シーンに応じて選択できる。
足回りの味付けもモードによって変わるが、19インチで前40/後35偏平のランフラットタイヤを履く割には乗り心地もけっこう快適。軽快感があって操縦安定性に優れた走りだ。
ボディサイズは全幅が1895mmもあって日本で乗るにはいかにも大きい。また価格も相当に高い。本体価格ベースでは1000万円を切っているが、オプションを装着した試乗車はそれぞれ1100万円前後の仕様になっていた。
■5つ星評価
パッケージング:★★★
インテリア/居住性:★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★
オススメ度:★★★
松下宏|自動車評論家
1951年群馬県前橋市生まれ。自動車業界誌記者、クルマ雑誌編集者を経てフリーランサーに。税金、保険、諸費用など、クルマとお金に関係する経済的な話に強いことで知られる。ほぼ毎日、ネット上に日記を執筆中。