【池原照雄の単眼複眼】マツダ「モノ造り革新」の現場を見る

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マツダ・SKYACTIVエンジンのシリンダーブロック
  • マツダ・SKYACTIVエンジンのシリンダーブロック
  • マツダ・宇品第2工場組立ライン
  • マツダ・本社工場(宇品地区)エンジン組立ライン
  • マツダ・宇品第2工場組立ライン

増産のCX-5で活気づくライン

マツダが進める「モノ造り革新」(以下=モノ革)の一端を、同社がメディア向けに公開した本社・宇品地区(広島市南区)で見た。工場では、モノ革と一体的に開発してきた次世代環境技術「SKYACTIV」をフル採用した『CX-5』が、1分余りに1台のペースで次々とラインオフされていた。

自動車メーカーを活気づけるのは、やはりヒットモデルである。超円高による打撃で2012年3月期に、連結最終赤字が1077億円に膨らんだマツダだが、工場からはCX-5がもたらす熱気が伝わってくる。

12年2月にまず日本で発売した同車は、新開発したSKYACTIVシリーズのディーゼルエンジン搭載車を中心に好調なスタートを切った。6月末までの国内受注はすでに2万4000台と、年間販売計画の2倍に達した。海外販売分を含む生産能力は、当初の年16万台から2度の上方修正を行い、13年3月には同24万台へと増強する。

CX-5が売れているのは、SKYACTIVによる環境と走りの両立で商品力を支える一方、モノ革による原価低減が売価に反映されているからだ。円高抵抗力は高まり、山内孝社長は「1ドル77円、1ユーロ100円でも利益が出るクルマ」と言う。

コモンアーキテクチャーで柔軟・高効率の生産につなげる

06年に着手したモノ革は、年産120万台規模という「スモールメーカー」(山内社長)ならではのスケールを逆手に取った業務改革だ。モデル数はそう多くないので、5~10年先をにらんだ技術や商品を丸ごと「一括企画」し、設計段階からコンポーネントや部品の共通化を大胆に進める。これを汎用性のある設計概念という意味で「コモンアーキテクチャー」と呼んでいる。

その概念で設計されたプラットホーム(車台)や部品は、よりフレキシブル(柔軟)で効率的な生産システムに乗せることができる。というより、一括企画やコモンアーキテクチャーによる設計段階で、品質の確保や柔軟に安く造れるようにと生産のことも十分配慮するのだ。

今回は、車両組立とエンジン(機械加工および組立)のラインを見学した。車両組立ラインは、コンパクトカーの『デミオ』からCX-5、サイズの大きいSUVの『CX-7』、さらにミニバンまでを混流できるフレキシブルライン。ただし、こうした混流生産はモノ革以前に確立されている。

よく似た3つのシリンダーブロック

むしろ、モノ革の本質を端的に見ることができるのはエンジンラインだった。エンジンの骨格であり土台でもあるシリンダーブロックの機械加工ライン横には、3種類の直列4気筒ブロックが展示されていた(=別掲写真参照)。いずれもSKYACTIVエンジンとして開発された2.2リットルのディーゼル、2.0リットルおよび1.3リットルのガソリンである。

排気量だけでなく燃焼方式までも異なる3種のエンジンだが、写真で分かるように形状は相似形となっている。これが、製品の基本概念を共通化するコモンアーキテクチャーによる設計だ。もちろん共通化とはいっても、各シリンダー間の距離(ボアピッチ)などは、個々のエンジン特性を引き出すために自由に設定できるようにしている。

相似形の設計は、フレキシブル生産で威力を発揮する。機械加工では、これら直列式の3種類のみならずV6型(3.7リットル)も加えた4種類のブロックが同じにラインに流されている。各工程間の搬送や、それぞれの工程での加工に基準を設けて共通化することで、従来以上の混流加工を可能とした。

機械加工のリードタイムは8割短縮

その際、従来は多軸加工ができる専用機でラインを構成していたものを、1軸加工の汎用機を多用する構成とした。多軸専用機とは一度に複数の加工ができる高級機であり、一般的に生産性は高い。だが、生産機種を変える際の工具の付け替えなど、いわゆるリードタイムが長くなる難点もある。

マツダのモノ革ではそこに着目し、搬送および加工の基準を共通化することで、工程の簡素化と汎用機への切り替えを実現した。従来の専用機による混流ラインが45工程に細分化されていたのを、実に4工程までに集約した。これにより加工の準備や工具換えなどを合計した総リードタイムは、従来比で約8割短縮されている。また、安価な汎用機の利用などにより、シリンダーブロックの機械加工部分の設備投資は7割強削減できたという。

もっとも、モノ革の製品や生産現場への展開は、緒についたばかりでもある。モノ革と表裏一体で進めるSKYACTIV技術をフル採用したモデルも、現状ではCX-5のみ。技術部門を統括する金井誠太副社長は、「15年度末までにSKYACTIVの採用モデルは8割に広げる」としている。モノ革の真価は、年内に登場するSKYACTIVフル採用モデル第2弾の新型『アテンザ』で問われることになる。

《池原照雄》

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