【トヨタ 安全技術 体験会】統合安全コンセプト…交通事故死者ゼロをめざす

自動車 テクノロジー 安全
常務役員 チーフセーフティテクノロジーオフィサー(CSTO) 吉田守孝氏
  • 常務役員 チーフセーフティテクノロジーオフィサー(CSTO) 吉田守孝氏
  • 日本の交通事故死者は歩行者と高齢者が多い
  • HMIに関する基礎研究拠点
  • 世界最大規模のドライビングシミュレータ
  • バーチャル人体Thums
  • 交通事故対策の課題は歩行者保護と走路逸脱回避
  • 次世代ADBのモデル図
  • 走路逸脱回避のモデル図

トヨタの東富士中央研究所にて、安全技術に対する取り組みの体験・発表会が行われた。発表の目玉は、実車によるオフセット衝突の公開実験と、前日に発表されたPCS(プリクラッシュセーフティ)をさらに進めた走路逸脱回避システムの同乗体験などだ。

これらの公開に先立ち、同社 常務役員 チーフセーフティテクノロジーオフィサー(CSTO) 吉田守孝氏、同補佐 葛巻清吾氏によるプレゼンテーションが行われた。

◆交通事故の死傷者は世界的に見ると増え続けている

吉田氏は、先進諸国では車の安全性が高まり、交通事故による死傷者は減少傾向にあるが、世界的にみると増え続けており、2010年でおよそ130万人の人が交通事故で亡くなっていると述べ、さらに、2020年には190万人に達するとの予測があり、2030年にはマラリアやHIVでの死者を超えるともいわれていることを示し、安全対策の重要性は変わっていなことを強調した。

続けて日本における交通事故に目を向けると、死者の総数は減ってきているが、自動車乗車中の死者が減った分、歩行者の死者の比率が高くなっている。また、65歳以上の高齢者だけは死者が横ばいを続け、全体ほぼ半数を占めるようになってきているとした。

そのため、トヨタでは、歩行者や高齢者の保護、交通事故死者ゼロを目指し、さまざまな技術開発や環境整備に取り組んでいるという。安全技術と人・人体との関わり(HMI:Human Machine Interface)についての基礎研究は、日本だけでなく北米、ヨーロッパ、中国で各地の大学や研究機関とともに進めており、2011年1月には北米に先進安全技術研究センターも設立している。

具体的な取り組み内容については、CSTO補佐である葛巻氏が説明を引き継いだ。

◆シミュレータ機能の向上が安全性にも寄与

葛巻氏は、トヨタの安全技術は1971年のABSから始まりトラクションコントロール、各種エアバッグ、GOA、PCSなどと多方面に進化を続けているが、冒頭で吉田氏が述べたように、近年は、歩行者および高齢者保護に重点を置くようになってきているとした。

まず、事故の解析について、実車では危険でできないような実験や、同じ条件を繰り返し再現できるドライビングシミュレータ(直径7.1mのドーム内の360度スクリーンと内部に実際の車を設置し、6軸および縦横20m×35mの範囲で制御する)が活用されている。ドライビングシミュレータは、主にドライバーの操作や反応の解析に利用されるが、PCS開発においては、ブレーキアシストの効果や最適化のシミュレーションでも効果を挙げているという。アシストの介入具合や警告のタイミングなど、実車をそのつど設定せずともシミュレータによってかなり正確なデータ得られるそうだ。

歩行者事故は夜間に多いという統計もあり、次世代アダプティブドライビングビーム(ADB)の開発にも力を入れている。これは、ハイビームでも対向車や先行車を眩惑しないように部分的な遮光をコンピュータ制御で行うものだ。これによって、対向車がいても、先行車がいても(その両方も)、ハイビームのまま道路両脇の歩行者などへの光量を確保できるというものだ。

◆特定の技術やマーケティングに頼らない、全方位で臨む安全性の向上

トヨタが着目しているもうひとつの交通事故対策は、歩行者事故に次いで高い割合で死者が発生している走路逸脱の回避だそうだ。この技術は、従来のPCS(警告+ブレーキアシスト)とレーンキープのための自動操舵を、さらに進化させ、対向車と衝突回避やガードレール・側壁・歩行者との衝突回避のため、ブレーキの介入と回避操舵をより高度に行い、完全停止まで行うものだ。

他にもステアリングに取り付けたセンサーにより心不全など体調急変を察知し、ドライバーへの警告、救急車手配、停止制御を行う研究や、歩行者へのダメージを計測するダミー人形、骨折や外傷・打撲だけでなく脳や内臓へのダメージをシミュレーションするバーチャルダミー人体(CGシミュレーションによって事故のダメージを解析するプログラム)など、トヨタの安全技術に対する取り組みのいくつかを紹介した。

CTSO吉田氏は最後に、「車の安全は、車体の安全性や技術だけでなく、駐車中から走行中の予防安全から衝突安全、救護、さらにはITSのような周辺インフラの整備も含めて対策をとる必要があり、ピンポイントの技術などで分かりやすく安全性をアピールすることが難しいのですが、特定の技術やマーケティングに頼らない、それがトヨタの統合安全コンセプトです」と語ってプレゼンテーションをまとめた。

《中尾真二》

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