【池原照雄の単眼複眼】新興3か国が先進3か国を逆転した2010年

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米日独市場を500万台近く上回る

世界の自動車需要は、新興諸国がリードする構図となった。2010年はそのターニングポイントであり、先進諸国の3大市場を新興諸国の3大市場が初めて上回った。最早、日本各社の収益源だった米国市場の回復をひたすら望むという待ちの姿勢では、この大競争時代を乗り越えられない展開となっている。

04年までのほぼ40年間、世界の新車市場は米国、日本、ドイツがトップ3を形成してきた。しかし、05年までに中国がドイツ、日本を抜いて2位のマーケットとなり、09年には世界最大の需要国へと躍進した。

昨年はブラジルがドイツを上回り、4位に浮上した。また、09年に9位だったインドは昨年、一気にフランス、イタリア、英国の欧州諸国を抜き去り、ドイツに次ぐ6番目の市場に成長したもようである。上位6か国のうち、先進諸国と新興諸国が3か国ずつを占めるに至った。

それぞれの3か国を合計した09年の市場規模は、先進諸国が1920万台、新興諸国が1900万台と、わずかに先進諸国がリードしていた。しかし、10年(一部筆者推計)には米日独の1980万台規模に対し、新興3か国は2450万台規模と500万台近く上回ったと見られる。

◆過去に執着すれば地位は危うい

05年時点の新興3か国の市場は910万台だったので、5年間で2.7倍の急成長となった。一方で先進3か国は、05年の2650万台から700万台近く後退し、08年秋の金融危機ショックが尾をひいている。

ただ、その先進諸国の落ち込みを補って余りある拡大を新興3か国で達成している。ロシアを含めたBRICs4か国の10年の新車市場は2640万台規模と推定でき、5年前の米日独のマーケットと肩を並べる市場が出現したのである。

新興3か国での日本各社のパフォーマンスは、インドでのスズキを別格とすると、総じて高くない。とくにブラジルでは伊フィアットなど欧米4社が7割強のシェアを占めている。また、新興諸国では欧米各社のみならず韓国のヒュンダイグループ、さらに各国の地場メーカーも日本車のライバルとして浮上し、大競争時代の様相となっている。

昨年末に中国の広州モーターショーを視察した日産自動車の志賀俊之COOは、同国の新興メーカーの勢いを肌で感じたとし「技術力や品質で日本車が支持を得た過去に執着していると、その地位は危うい」と強調する。

◆80年代を想起して攻める姿勢を

ホンダの伊東孝紳社長は、新年の従業員向け訓示で、新興市場に臨む同社の構えとして「ニーズを的確にとらえ、その国のお客様が本当に欲しいと思う商品を届ける取り組みを今まで以上に強化しなければならない」と訴えた。

トヨタ自動車は豊田章男社長が09年6月の就任時に、世界の市場構造の変化に迅速に対処するため「地域主導」の事業体制への転換をいち早く打ち出した。その方針を具現化する第1弾の商品として昨年末からインドの新工場で同国向け廉価セダン「エティオス」の生産が始まっている。

同モデルは12月1日に予約受注を始めたが、1か月で1万6700台に達した。今春に追加するハッチバックを含めたシリーズで年7万台の販売計画なので、今後は増産対応が課題となりそうな好スタートだ。インドでの乗用車シェアが5%に満たない同社に、ようやく攻めの態勢ができつつある。

日本の自動車産業にとっての新興市場の台頭は、かつて輸出自主規制の壁を乗り越えるため各社が一斉に北米へ工場進出した1980年代以来の地殻変動と見ることができる。北米への事業展開で、その後の円高や日本のバブル崩壊にも対処し得た。当時のように、不退転の決意で新興市場を攻める姿勢が求められている。

《池原照雄》

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