スマートフォン盗難被害激増 |
パリおよび近郊の公共交通機関で強盗被害が増えている。
パリ都市担当警察のデータとして2010年12月29日に『ル・フィガロ』紙が報じたところによると、パリおよびその近郊のイル・ド・フランス圏を走る地下鉄と近郊電車で発生した強盗事件の2010年被害件数は9501件だった。09年に比べ、なんと39.3%も増えたという。
被害のうち、1395件は携帯電話の強盗被害である。なかでもスマートフォンは890件で、うち776件は『iPhone』だった。さらに詳しく述べると、iPhoneのうち297件は最新型の「iPhone4」だった。そのような背景から警察では「iPhone現象」と名づけて、一般市民に警戒を呼びかけている。
犯行の手口としては、電車内でスマートフォンの保持者に近づき、駅で発車間際に手から機器を奪い取って逃げるというものだ。直後にドアが閉まってしまうので、所持者や周囲の人は駅を逃走してゆく犯人を捕まえられない。スマートフォン強盗の大半は、転売が目的である。
警察は対策として、バックやポケットの奥深くに入れておくことを勧めている。だがパリの地下鉄では、人気のない駅通路でいきなり殴るなどの暴行を受け、スマートフォンを奪われる被害も報告されている。したがって、単にポケットの奥に入れるだけでは防げないと思われる。
パリ交通営団(RATP)は、2010年1月からバスや市電の停留所に二次元バーコードを貼り、携帯電話の所有者にリアルタイムの運行情報サービスの提供を開始した。対応の携帯電話やスマートフォンを停留所の時刻表脇に貼られた二次元バーコードにかざす仕組みだが、こうした行為さえも周囲に気をつけないとできないのは残念だ。
過去を振り返れば、パリは欧州都市のなかでいち早く『iPod』ユーザーが現れた都市だった。にもかかわらず、今日安心してスマートフォンが楽しめなくなってしまったのは、その本体に何の非がないだけに悲しい事態である。パリではないが、以前ミラノで旅行中最新の携帯電話を盗まれ、途方に暮れた経験のある筆者としては、つくづくそう思う。
あとは、iPhoneはじめスマートフォンが普及価格で提供されるようになり、ブラックマーケットの存在意義が消滅するのを待つしかないのかもしれない。
盗まれてナンボの20ユーロ(2200円)のプリペイド携帯電話と日本で買った大安・仏滅入り手帳を愛用し、「音楽はときどきゲリラ的に車両に乗り込んでくるアコーディオン弾きで充分」と言う、お気楽な我が女房が羨ましく見えてきたのも事実である。
大矢アキオの欧州通信『ヴェローチェ!』 |