【池原照雄の単眼複眼】窮地の金型業界、再編で復活を期す

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電子化の波と新興国の追い上げ

車体を成型加工する自動車用金型の国内2、3位メーカーが、企業再生支援機構の主導で事業統合することとなった。金型の熟練技術は日本のモノづくりの象徴でもあったが、メーカー各社は、ここ20年の製造プロセスの電子化や新興国企業の台頭など、環境変化についていけなかった。今後も日本企業の生き残りは困難が伴うものの、自動車製造を支える基盤技術であり、事業統合の成果に注目したい。

事業統合するのは業界2位の富士テクニカと3位の宮津製作所で、富士が再生支援機構の出資を受け、宮津の事業を買収する形を取る。両社は2年前のリーマンショック後の世界的な需要減や、中国、韓国などの競合メーカーとの価格競争により業績が悪化していた。国内工場の集約や人員の削減などにより、経営再建を進める。

◆80年代には黄金時代を迎えたが

金型はプレス加工によって車体部品を成型する設備であり、モデルチェンジや新モデルを起こす際の投資ではもっとも金額が張る設備のひとつだ。金型は1980年代までは手書きによる設計が主体であり、工作機による加工も手作業中心だった。プレス加工によって車体部品を成型する際も、金型の形状などを微妙に調整する熟練の技が不可欠だった。

いわば、金型技術者のカン(勘)やコツがものをいった時代であり、80年代に日本企業は当時の米ビッグスリーからも続々と受注し、黄金時代を迎えた。しかし80年代末から自動車メーカーによるクルマの設計そのものがCAD(コンピュータ支援設計)の導入による電子化が進展し、徐々に事態が変化する。

クルマの設計データをもとに、金型も部分的にNC(数値制御)工作機で自動加工されるようになっていった。90年代にはCADが2次元から3次元へと進化し、今世紀初頭には自動車メーカーによる金型の設計自体も紙の図面が不要な3次元設計へと発展していった。

◆熟練工のカンとコツをデータ化

クルマや金型の設計の電子化によって、自動車メーカーによる金型の内製化は進み、専業メーカーへの発注は細ることとなった。また、コンピュータによるプレス加工のシミュレーション技術も発展し、加工後の形状を高い精度で予測することが可能となった。こうした一連の電子化は金型の熟練工のカンやコツを取り込み、匠の技をデータ化していったのである。

これにより、新興国のメーカーが低コストを武器に台頭することにもなった。富士テクニカの糸川良平社長は、17日の記者会見で「金型業界は50年変わらず、周囲の変化に追いついていなかった」(日経新聞9月18日付朝刊)と発言しているが、その通りの展開だったのだろう。

内製化が進めやすくなったといっても、自動車メーカーや大手の部品メーカーですべての金型が内製できるわけではない。自動車製造の基盤技術のひとつを守るという観点からも、専業メーカーの体質強化と存続が欠かせない。日本企業は、品質や納期管理などでは外国勢にはまだ優位なので、要はコスト競争力だ。ハードルは高いが、80年代に世界で顧客を開拓したように英知を結集して復活してもらいたい。

《池原照雄》

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