自動車技術会が主催する自動車テクノロジーの見本市「人とくるまのテクノロジー展」。エンジン、電気モーター、シャーシなどの設計支援システムに関して、オーストリアのパワートレイン・エンジニアリング会社、AVLリスト・ゲゼルシャフトが興味深い展示を行っていた。
AVLは創業コンピュータによるエンジン設計のシミュレーションソフト開発・頒布から、レースカーや市販車のエンジン開発受託まで、エンジンビジネスを幅広く手がけてきた。直近では、ジュネーブモーターショー2010で姿を見せたレンジエクステンダーEVのアウディ『A1 e-tron』に採用された、発電用小型ロータリーエンジンとEVシステムを組み合わせた「AVL PURE RANGE EXTENDER」を開発したことで大いに注目を集めた。
そのAVLブースにおける展示の主役は、次世代のパワートレイン開発ソリューションだった。今日、内燃機関や電気駆動などの動力システムの効率化が非常に速いスピードで進んでいるが、それに伴って強度、燃焼、温度分布など、設計時におけるパラメーターの数々の制御点数も飛躍的に増えている。そこでAVLが提案するのは、エンジン内部の燃焼を最適化するためのECUマップを科学的モデリングの手法によってはじき出すソフトウェア「AVL CAMEO」をはじめ、複数の設計 - 試験ソフトウェアを統合した開発環境コンセプト「The True Efficiency」だ。
実際にデモンストレーションを見たが、この開発環境はなかなかすごい。CAE(コンピュータ支援設計)の完全なバーチャルデータによるシミュレーションだけでなく、試作したエンジン単体を仮想ECU(エンジン制御ユニット)で実機テストしたり、トランスミッションと組み付けた状態で仮想の車体に組み付けたりと、開発の様々な段階でバーチャルとリアルを結合して試験を行うことができるのだ。
「このシステムは、これまで膨大な工数がかかっていたエンジンのテスト作業を大幅に簡略化できるのが特徴です。また、エンジンのエネルギー効率が最高になるECUマップを探索できるだけでなく、1モーター、2モーターのハイブリッドシステム、ピュアEV、レンジエクステンダーシステムなど、クルマの種類を問わず、最適な設計値の探索やセッティングを行うことができます」(AVLのエンジニア)
エンジンやモーター、バッテリーパック、車体などの構造設計、熱分布、摩擦シミュレーションからクルマ全体の運動まで、シミュレーションの幅も非常に広い。デジタル設計の時点で、もし実車を作ったらニュルブルクリンクサーキットをどの程度のラップタイムで走れるかといったことも、かなり正確に予測できるという。エコカーをはじめ、クルマの進化はまだまだ止まらないが、クルマの設計の世界でもイノベーションが加速しているようだ。