【井元康一郎のビフォーアフター】内燃機関で最も高効率、ディーゼル

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E350ブルーテック アバンギャルド
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エンジン車の効率上げるディーゼル、そのメリットデメリット

アメリカと並んで世界で最も厳しいディーゼル車の排ガス規制が敷かれている日本に、新しいクリーンディーゼル乗用車が投入された。2月24日に発売されたメルセデスベンツ『E350ブルーテック』である。

ディーゼルエンジンは内燃機関のなかでは最も熱効率が高いという特徴を持つ。昨今、EV(電気自動車)が大きな話題となっているが、道路交通全体を見れば今後も当分の間、エンジン車が主流であり続けるとみられる。そのエンジン車のエネルギー効率を上げる、非常に手軽なソリューションがディーゼルなのだ。

一方、ディーゼルには弱点もある。まずは排出ガス中に、簡単に処理できない有害物質が含まれていること。そして、その処理装置も含めたコストがガソリン車に比べて格段に高いことだ。その2点がクリアされれば、ディーゼル乗用車は良好な燃費性能や中間加速の強力さなど、本来の利点が光るようになる。日本やアメリカなど、ディーゼル比率が低い国で普及する可能性も高まるものと思われる。

メルセデスベンツE350ブルーテックは、尿素SCR(選択還元触媒)という後処理装置で、排気ガス中の有害物質の中でも最も厄介とされるNOx(窒素酸化物)のレベルを大幅に低減しているのが特徴。現在、日本では日産『エクストレイル』のみがクリアしているポスト新長期排出ガス規制、アメリカのTier2BIN5、ヨーロッパの将来規制(2014年 -)であるユーロ6の、世界3大規制をクリアしてみせた。

日本法人社長のハンス・テンペル氏は、「ディーゼルはハイブリッドのような大がかりな装置を使うことなく、エネルギー使用量を抑制できる。日本にもクリーンディーゼルの良さを広めたい」と胸を張る。

◆ディーゼルエンジン、課題は「重量」

ディーゼル車の排ガス規制強化は、ディーゼル車作りが得意な欧州メーカーを含め、世界の自動車メーカーにとって悩みのタネだったが、技術的に対応できないようなものではないことはすでに実証されつつある。欧州ではメルセデスベンツ E350 ブルーテックだけでなく、BMWのブルーパフォーマンスシリーズ、フォルクスワーゲンのブルーモーションシリーズなど、ユーロ6に認定もしくは対応可能なモデルが続々と登場している。

しかし、ディーゼルエンジン、およびそれを搭載したディーゼル乗用車が、課題をあらかた克服できたというわけではない。尿素SCRや、排気ガス温度の低いディーゼル車でも機能するNOx吸蔵還元触媒などの高価なハイテク装置を使い、力技で排気ガスをクリーンにしているようなものだ。

軽量化も今後の大きな課題。3リットルターボディーゼルのベンツE350ブルーテックの重量は1910kgに達する。同排気量のV6ガソリンエンジンを搭載するベンツE300に比べて、実に200kgも増加していることになり、いかにも重量過大である。

この車重でもJC08モード燃費はリッター12.6kmと、同じEセグメントの環境対応モデルであるトヨタのハイブリッドサルーン、レクサス『GS450h』の同リッター12.8kmと比べて遜色ない。軽油はガソリンに比べて含有炭素量が1割強多いとはいえ、ディーゼルの高効率の威力が発揮されている格好だ。しかし、それでもハイブリッドカーと大して変わらないくらいの重量増を来してしまうのはコストアップ要因でもあり、次世代ディーゼルを本格的な普及技術にするうえでは要改良であろう。

これらの問題は、いずれも解決不能というわけではない。ディーゼルエンジンを軽く作る研究はかなり進展しており、フォルクスワーゲンの最新ディーゼルのように、ガソリンターボと大して変わらない重量のものも出はじめている。軽量化が進めば燃費はさらに向上し、コストも下がる。

◆クリーンディーゼル、“ポジション”を得るには

排気ガスの後処理装置も、ユーロ6やポスト新長期規制、Tier2BIN5レベルであれば、尿素SCRやNOx吸蔵還元触媒などの装置を使わずともクリアできる燃焼技術の研究が盛んに行われている。先般発表されたマツダの次世代ディーゼル「SKY-D」は現在明らかになっているものの一例だ。

日本の石油エネルギー消費を見ると、ガソリンが足りず軽油が余るという傾向にある。そのため、軽油をさらにエネルギーを使ってガソリンに改質したりしている。軽油を軽油のまま使えば、エネルギー効率を上げることができるのだ。現状では1割程度がディーゼル乗用車に置き換わるのが、最もバランスが良いという。バイオ燃料や天然ガス由来の合成燃料など、ディーゼルと相性の良い非石油系の新燃料が普及すれば、ディーゼルの社会的ニーズはさらに高まる。

少し前までは世界の自動車メーカーが厳しすぎると難色を示していた次世代排出ガス規制だが、技術的には早くも乗り越えるメドがつきつつある。だが、それらを高級車ばかりでなく、ファミリーセダンクラスにまで広げるには、ディーゼルエンジンや浄化システムを軽く、シンプルに作ることが不可欠だ。それができたとき、初めてクリーンディーゼルは日本でもある程度メジャーなポジションを得ることになるだろう。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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