なんともややこしいBMWである。まずもって、名前がややこしい。中身は実質『7シリーズ』なのに、5。一説にはヨーロッパのフリートユースヒエラルキーを意識したと言われているが……。5なのに7だから、でかい。写真ではちょっと分からないと思うけれど、フルサイズLクラスサルーンの大きさ。もちろん、中は広い。後席VIPには最高だ。
そのくせ、走らせてみれば、これがもうちゃんとしたBMWである。曲がろうと思えばよく曲がるし、その曲がり方も自然で気持ちがいい。最近のBMWは昔の良さを現代風に取り戻しつつある。くわえて、GTと名乗るだけあって、高速走行もいい。視点の高さと安定感、そして見切りの良さが加わって、7シリーズよりいいかも知れない。間違いなく、BMWの中では最高の“グランツーリスモ”だ。
問題は、このクルマが果たして誰に受け入れられるか、ということ。BMWといえば、コアなファンに支えられながら、“走り”のイメージで売ってきたブランドだ。BMWに乗れば、きっと今までとは違う走り味を経験させてくれるはず、という漠然としたイメージが憧れを産み、購買欲をそそる。ベンツやアウディのライバルでは決してない。BMWだから欲しいという強い意志があったはず。
もちろん、このGTにはBMWらしさが詰まっている。それは確かだ。でも、このカタチといい、コンセプトといい、価格といい、BMWのこれまでのイメージにことごとく反しているように思えてならない。プロダクトが上出来ゆえ、そこが、少し心配だ。全く違う層を仮に引きつけたとして、BMWらしさをプラスに評価してもらえるか、どうか。そこも興味深い。
いっそ、こういうカタチこそハイブリッドで出せば良かった。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
オススメ度:★★★★★
西川淳|自動車ライター/編集者
産業から経済、歴史、文化、工学まで俯瞰して自動車を眺めることを理想とする。高額車、スポーツカー、輸入車、クラシックカーと いった趣味の領域が得意。中古車事情にも通じる。永遠のスーパーカー少年。自動車における趣味と実用の建設的な分離と両立が最近 のテーマ。精密機械工学部出身。