【中国 次世代トヨタ】これが販売統合物流管理 SLIM の全体像だ

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自動車ビジネスはもとより、あらゆる産業でマネージメントに関わる人ならば、「トヨタ生産方式」の概念を学んだことがあるだろう。"7つのムダ削減"、" ジャストインタイム"、"自働化"を柱とするトヨタ生産方式は、豊田喜一郎らが提唱し、大野耐一らが体系化したものである。

現在、中国で構築されている新ビジネスモデルは、このトヨタ生産方式の思想を背景に、最先端のICT技術を用いて生み出された「次世代トヨタ方式」とでも言うべきものだ。本誌における2007年のレポートでは主に販売支援やCRMを担当する「e-CRB」を軸に紹介したが、構想はそれだけにとどまらない。自動車メーカーのビジネスにおいて"心臓部"ともいえる生産管理や物流管理にまで、e-CRBと同様の“視える化”やジャストインタイムの視点は浸透してきている。

◆生産管理と物流を販売現場と結ぶ「SLIM」

顧客情報管理を担当するe-CRBと双璧を成しているのが、販売戦略管理システムの「SLIM」である。これは自動車メーカーの生産・物流過程と、各販売会社の在庫・販売状況すべての情報をシームレスに結ぶというもの。クルマが作られるところから、顧客に納車されるまでの過程がリアルタイムかつ一元的に「視える化」されるというものだ。トヨタ生産方式における"かんばん方式"は工場内のみのものだったが、SLIMがめざしているのは自動車販売すべての領域での可視化とジャストインタイムの適用といえる。いわば、21世紀の「新かんばん方式」である。

「我々がSLIMの開発でめざしたのは、(クルマの製造・物流・販売過程を)コンビニエンスストア並の管理レベルにまで向上させるということです。トヨタ生産方式の構築により、工場内は『乾いた雑巾を絞る』と言われるほど徹底してムダ・ムラがなくなりました。しかし、いっぽ“工場の外”に出たらどうか。そこには合理化・効率化すべきところが、とても多く存在したのです」(広汽トヨタ総経理助理・トヨタ自動車 e-TOYOTA部主査の友山茂樹氏)

広汽トヨタのオフィスにあるSLIMの管理ボードは圧巻だ。広汽トヨタの生産状況と在庫状況、中国各地に輸送中の在庫状況、そして中国内の広汽トヨタ販売店171ヶ所の在庫と受注状況がリアルタイムで表示・一望できる。また、すでに生産・割り当てずみの発注がキャンセルされたり、一部の店舗で長期在庫や過剰在庫が発生した場合はすぐに警告がでるようになっており、そうした販売現場での状況変化が工場内での生産や販売店への在庫割り当てにフィードバックされる仕組みになっている。

「クルマの製造・販売で鑑みますと、(生産したクルマが)26日でキャッシュ化されるのが理想的です。SLIMではこうした理想的なパターンになるように、常に生産現場と在庫状況、物流、販売状況をリアルタイムで把握していきます。これにより自動車メーカーと販売会社ともに、過剰生産や在庫のリスクを抑制し、一方で(在庫不足による)販売機会の逸失も防止します」(友山氏)

さらにSLIMのデータは、販売店向けの発注支援システム「TOSS」(Total Order Support System)とも連動している。TOSSの詳細は別記事に譲るが、これはSLIMのリアルタイム情報と過去の統計分析データをもとに「各車種のどのような仕様・カラーを在庫すべきか、いま何を発注すべきかの情報を各販売店の発注担当者に提示する」(友山氏)ものだ。セブン=イレブンなど日本のコンビニが導入するPOS(Point Of Sales system)の発注支援システムに似たものだと考えると、イメージしやすいだろう。

「SLIMは昨年6月から導入していますが、システム上にデータが蓄積することで、長期在庫しやすいものとそうでないものが(統計データから)わかるようになってきています。さらにSLIMでは、発注や在庫のリアルタイム情報も把握されていますから、それらの情報を用いることで、メーカーと販売会社の両方が在庫のリスクを極小化できるのです」(友山氏)

他にもSLIMでは、広汽トヨタがクルマを卸す先である各販売会社との取引口座の状況を確認する機能も用意されている。取引口座に残高が足りないと車両の引き渡しは行われず、これも流通在庫になってしまう。場合によっては他のディーラーに付け替えることにより在庫リスクを減らし、同時に販売店のキャッシュフロー状況までわかってしまう。

このようにSLIMを用いることで、クルマの製造・流通・販売まで一貫した効率化と合理化が可能となり、ビジネス全体の健全性が向上する。実際、SLIM を導入していた広汽トヨタでは、「リーマンショック以降の過剰在庫のダメージから、(他地域より)いち早く脱却できた」(友山氏)という。

◆SLIMが「広州で先駆けた」理由

SLIMは21世紀の自動車ビジネスにおいて、トヨタ生産方式の登場に匹敵するイノベーションになる可能性がある。今後は工場内の生産過程だけでなく、部品の調達段階まで適用範囲を広げて、リアルタイム情報管理のメリットを増大する計画だ。

ところで、この「SLIM」は、なぜ中国の広汽トヨタで開発・運用されているのだろうか。そこには中国をはじめとする新興国市場の有望性も当然ながら存在するが、それ以上に理由となったのが、広汽トヨタの素性にあると友山氏は話す。

「まず大きな理由として、広汽トヨタが『製販一体』であることがあげられます。製造から物流、販売会社との関係まで一体的に行っている。e-CRBと SLIMは製販が一体で動くことで効果を発揮します。そして、中国市場と広汽トヨタが『新しかった』こともe-CRBやSLIMの開発・導入で有利でした。日本や北米市場のように、すでに仕組みができあがっていると導入が難しいですし、効果測定がしにくいですから」(友山氏)

中国大陸で誕生し、着々と成果を上げる「SLIM」。i-CROPなど他のシステムとともに、次世代トヨタ方式の根幹を支えるものになるのは間違いないだろう。

《神尾寿》

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