【デトロイト現地レポ】UAWの集会で見た光景…「アメリカの製品を買い、あなたの愛国心を見せよう」

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デトロイトモーターショーの開催期間のまっただ中に、近郊のWarrenではデトロイト市長の呼びかけによるUAWの集会が開かれた。そこではGM、フォード、クライスラーそれぞれのUAWの地元代表が代わる代わる壇上に立ち、講演を行った。 UAW集会の取材を通じて、労働組合側からの声に耳を傾けてみたい。

1935年に設立され、飛行機や自転車、農機具などを含む産業機器の製造に従事する労働者によって組織されている巨大労組がUAW(全米自動車労働組合)だ。50年代から60年代にかけて米国の自動車産業の繁栄とともにUAWも巨大化。UAWの活動により、組合員本人だけでなく家族も含めた退職者向け医療費補助や年金などの手厚い社会保障(ベネフィット)を自動車メーカーに認めさせ、労働者層の生活レベル向上にも寄与した。

マイケル・ムーアが映画『シッコ』で描いたように、米国には公的な医療保険制度は存在しない。クリントン政権時代に国民医療皆保険の制度化に動いたが中途で頓挫。現状ではカリフォルニアなど、州レベルで医療保険制度創設に向けて動いているところもある。民間の保険会社による医療保険はあるものの保険料が非常に高額で、加入者は富裕層のごく一部にとどまっている。

従業員当人から見れば“工場で働いていれば(自身のみならず家族も含めて)老後の生活が保証される”、従業員以外から見れば“老後の心配をしなくてもいい”という点で“UAWの特権”であった。ビッグ3、とりわけGMは退職者約30万人そして現役従業員15万人弱におよぶ莫大なベネフィットコストが経営の重荷となっている。


◆「今はあなたの愛国心が必要な時だ」

ビッグ3の中でもとりわけ経営の危機が騒がれているクライスラーグループ。そのUAW地元代表は語る。「国内の自動車産業は、数十年前に比べ国民の生活水準を引き上げ、中流階級(Middle Class)の育成を助けてきた。我々のメッセージを国中に伝えるのはホワイトカラーではなく産業の中心として働いてきたブルーワーカーだ」。“アメリカの産業を育ててきたのはブルーカラーである”という誇りが彼らにはある。

GMのUAW代表も口を揃える。「ビッグ3のクルマが売れなくなってきた? そんなことはない。GMはアメリカやその他の国において、ホンダや日産よりも総じて売り上げは高い。ビッグ3は退職者を手厚い年金や健康保険などで保護してきた。今アメリカの労働者が求めているものは、国内の企業やサプライヤーをサポートできる消費者だ」。アメリカの産業を育ててきたのがブルーカラーならば、その危機を救うのもブルーカラーというわけだ。

別の論者の言い分はこうだ。「オンラインで“American worker”と検索すると2910万件もヒットする。だが、あなた達は数で測れるものじゃない。あなたたちはアメリカという国に住んでいて、その生活はみなアメリカの産業の成功と失敗に大きく左右される。アメリカの産業に関して私達は基本に立ち返らなくてはならない。私達はもう一度創造し発展する必要がある。私達の前途には困難が待ち受けているが、今はあなたの愛国心が必要な時だ」(フォードのUAW地元代表)。


◆20年前とは違う“Buy American”

ここでいう“愛国心”とはなにか。GMのUAW代表が言う。「もっとアメリカの製品を買い、あなたの愛国心を見せよう」。“Buy American”を声高に叫ぶその姿に、日本人であるわれわれは少し恐怖を覚えた。このBuy American運動は、国外製品の排斥、ひいては日本製品の不買運動につながるのではないか。

講演終了後、壇上に立っていたひとりの黒人男性に話を聞いた。地元地区のUAWを束ねる代表だという。「日本メーカーは悪くないよ。その物作りの姿勢はリスペクトしている。(80年代におこったような日本車排斥運動は)ありえないね」。

だが、UAW組合員すべてが一枚岩ではない。集会に参加していたある女性は「日本メーカーの多くは米国での現地生産をすすめています。アメリカ車を買えと言っているが、ビッグ3以外のメーカーだってアメリカ製でしょう。また、デトロイトに住む人の半数はクルマを買える収入がありません。半分の人はバスか自転車で移動しています。そこで言うBuy Americanに意味なんてあるのかしら」。

先ほどの黒人男性は、「日本メーカーのクルマだってたしかにアメリカ製だ。でも我々はユニオンだが、彼らはユニオンじゃない。賃金だってベネフィット(年金や医療費などの社会保障)も違う。(ビッグ3も日系メーカーも)扱いを平等にすべきなんだよ。この危機は経営の失敗によるものなのに、なぜ我々が(サラリーやベネフィットのカットで)そのツケを払わせられるんだ? ビッグ3の労働者の時給は70ドルを超えると言うが、それはすでに引退した人に払う医療保険と年金を含んだ人件費だ。実質的な時給は28ドルで、日本メーカーと変わらないんだ。新規雇用に関しては時給12 - 14ドルで、しかもノーベネフィットという待遇だ」。

彼らの論旨はこうだ。われわれ(UAW)はメーカーに対してじゅうぶん譲歩したのだから、政府は一刻も早く資金を投下してGMとクライスラーを破産から救うべきである、と。

日本メーカーでは、工場労働者に対して多くの場合、UAWへの加入を認めていない。もっとも、企業側に労組の創設を拒否する権限はなく、労働者による投票で過半数の賛成を得られれば代表権が獲得でき、実質的に労組として活動が可能だ(労組創設のための投票でUAWの活動が注目を浴びることが時々ある)。ただし、メーカー側は従業員に対し組合に入らないことを条件に雇用維持や昇進・昇給を保障するといった手法で組織化を抑制している。

また日本や欧州のメーカーはUAWの活動が活発な北部地域への進出は避け、中南部地域の産業枯渇地帯へ重点的に工場を建設している(トヨタはケンタッキー、アラバマ、テキサスなど、日産はテネシーやミシシッピなど、ホンダはインディアナ南部、アラバマなど)。

UAWは日系工場での労組設立に向けて活動してはいるものの、組織化できたのはトヨタとGMの合弁会社「New United Motor Manufacturing, Inc(NUMMI)」などごくわずかに過ぎない。なおUAWのウェブサイトでは、UAWワーカーの製造した車名がリストで掲載されている。

◆Buy Americanは手段であって目的ではない

平日と言うこともあり、今回の集会に参加していたのはリタイヤ世代やベテランが大多数だった。GMの破産申請が秒読みになっている講演の中で、壇上に上がったあるGMのベテランUAWワーカーが、こう語った。「わたしはGMで働いて32年になる。私には妻と子供がいるが、GMの手厚いベネフィットのもとですばらしい生活を送ってきた。このベネフィットこそ、全ての労働者をGMに引き付けている源だ」。

この労働者が語るように、年金・医療保険を含む“ベネフィット”と呼ばれる手厚い生活保障は労働者のロイヤリティの中枢だった。それが“すでにあるもの”として生まれ育った人々にとって、ベネフィットが失われることは大きな不安である。この集会で見る限り、彼らの目的はあくまでもこれまでのベネフィットを守ることであり、アメリカの自動車産業を救うための行動であるBuy Americanはそのための手段にすぎない。20年前の日本車排斥運動と根本的に異なっているのはこの点だ。

従って批判の対象はライバルである日欧の自動車メーカーというよりも、多額の報酬を得ている経営陣と、シティバンクやゴールドマン・サックスには資金を投入しながら、自動車産業の救済を渋る米国政府だ。

講演のさなか、ある論者が“Chapter11”(日本の民事再生法に相当)と“911”(2001年の米国同時多発テロ)を(わざと?)言い間違えて会場内の笑いを誘っていたが、すかさず「どちらも同じことだ」とフォローした。つまり、Chapter11の申請はUAWワーカーにとって、医療保険も年金も失われることを意味し、壊滅的な打撃を被ることである意味においてだ。


◆労務コスト圧縮の切り札VEBA

ビッグ3は90年代半ばから労務コスト圧縮のためにUAWと交渉を続けてきた。その妥結の結果が、自動車メーカーとUAWで交渉が続けられているVoluntary Employees' Beneficiary Association(VEBA)である。

VEBAとは、メーカーによる継続的な医療費負担を終わらせる代わりに、UAWが約500億ドルの医療費給付基金を設立し、この基金にメーカー側が60 - 70%の資金を拠出するというもの。基金は2010年設立で労使間の合意ができているが、企業側の出資比率をめぐって労使の交渉が続いている。この交渉如何ではビッグ3の再建計画は大きく左右されるため、米国内では大きな関心がもたれている。なお、厳密にはUAWが代表権を握る=過半数を占めている職場でベネフィットが与えられるため、すべての従業員がUAWに加盟しているわけではない。

先日、VEBAの出資比率について、メーカーが出資金の半分を株式で支払うという形でフォードとUAWの交渉がまとまった。おそらくGMおよびクライスラーも同様の決着を取ると見られている。

《取材:三浦和也 北島友和 通訳:大野慎也 Ono Shinya》
《北島友和》

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