2 | 「自転車乗り」という飲み物 |
そんなボクに、あるとき一条の光が差した。『ラードラーRadler』という飲み物を発見したときである。簡単にいうと、ビールのレモネード割り、つまりビアカクテルだ。
レモネードの比率は、メーカーによって4 - 5割と差がある。しかしアルコール度はおよそ3%未満なので飲みやすい。そのうえビールの苦味は感じられない。今までこの一帯を旅行してもビールが飲めず、カッコ悪い思いをしていた人には、超おすすめである。
ところでこのラードラー、とくにドイツ南部やオーストリアで見かけることが多い。同時にradlerとはrad(自転車)に乗る人、つまりサイクリストのことだ。それらの理由は、歴史を紐解いてみてわかった。
舞台は1922年南独ミュンヘンだ。ある日フランツ・エグザビエ・クーグラーという人が自ら営む食堂で、サイクリストたちにビールを振る舞っていた。ところが、彼らの数があまりに多かったため、ビールが品薄になってしまった。クーグラー氏は急遽レモネードをミックスして提供したところ、それが大ウケしてしまったのである。
「原材料表示との相違」とか言われない、のどかな時代における、偶然の成り行きヒット作というわけだ。
現在はスーパーマーケットの酒類コーナーでも、さまざまなメーカーのラードラーを発見することができる。フランクフルトのヘンニンガー(1980年代の欧州ラリー選手権でアウディ・チームのスポンサーだった、『HB』ロゴが付いたブランドである)からもラードラーが発売されている。アルプスをはさんだイタリアのバールでも、「パナシェ」の名のもと提供している店を見るときがある。