自分が10点を投じたクルマが賞を取れないのは、ちょっと寂しい。私の場合、それがけっこう多いんですよ。今回もそうだった。選考委員を拝命して以来、ずっと心掛けてきたのは「自分らしい投票をする」ということ。カーデザイン評論家として、COTYもデザイン視点で考えたい。
1年を代表するクルマを選ぶにはやや偏った視点かもしれないが、COTYには多くの選考委員がいらっしゃる。それぞれの自分視点が総合された結果は客観的なものになるはずで、そこがCOTYの良さだと思っている。だから結果は満足。私も『iQ』がイヤーカーになると予想していたしね。おめでとう、iQ!
振り返ると、最終選考に残った11車から4車を選ぶまでは迷わなかった。特異なサイズとプロポーションで存在感そのものが新しいiQ、無駄のないスタイリングで大人の味を醸し出す『アテンザ』、ジャガーの伝統を革新した『XF』、そして『C6』より親しみやすいフォルムにシトロエンらしさを上手に盛り込んだ『C5』。
付け加えるとこの4車は、外観や内装を見て抱いたイメージが走り始めた後もブレない。商品コンセプトをきっちりデザインに表現しているからで、その意味でも優れたデザインだと思う。
ただ、昨今のデザイントレンドで気になるのは、必要以上にラインを入れたり、面を捩じったりして、カタチが複雑になってきたこと。まるで競い合うように複雑化している。それってホントに消費者のため? デザイナーの自己満足じゃないの? カタチに気持ちを込めるのは結構だけど、デザイナーの手垢が残ったようなカタチは嬉しくない。
そんな日頃の思いがあって、アテンザを10点とした。シンプルに研ぎ澄まされたデザインの、これぞお手本だ。iQ、XF、C5はちょっと複雑なカタチだが、そのメーカーとして新しい領域のデザインにチャレンジした意欲を買ってiQとXFは5点ずつ配点。C5のデザインはC6の延長上にあるので3点にとどめた。
残る1車は、迷った末にダイハツ『タント』。成功作のモデルチェンジは保守的になりがちだが、そこをBピラーレスの大開口ボディで突破した積極性がすごいと思う。
デザイン視点ならタントよりフィアット『500』だろうと思う人もいるだろうが、VW『ニュービートル』や『MINI』を見てわかるように、この種の「リバイバルもの」はモデルチェンジでデザインを進化させることができない。つまり、カーデザインの進歩には何も貢献しない。個人的に500も好きだけど、デザイン評論家としては評価できないんだよね。
それでも500を「Most Fun」に投票しようと思っていたのだが、気になるのが1.4リットルの乗り心地や変速ショックの粗さ。デザインに抱いたFunな気分が乗ると半減してしまう。そこでiQが浮上した。存在感そのものが「オモロー!」なクルマだと思うんだけどなぁ……。
「Most Advanced Technology」もiQ。日産『GT-R』と最後まで迷ったけど、クルマを小さく作るための技術がこれから大事になる、という時代性を重視した。「BestValue」は「お買い得感」を軸に考えてホンダ『フリード』。このサイズと価格で3列目席まで大人がちゃんと乗れる価値は高い。結果的にBest Valueだけは私の投票が授賞につながって、ちょっとホッとしました(笑)。
千葉匠│デザインジャーナリスト
1954年東京生まれ。千葉大学で工業デザインを専攻。商用車メーカーのデザイナー、カーデザイン専門誌の編集部を経て88年からフリーのデザインジャーナリスト。COTY選考委員、Auto Color Award 審査委員長、東海大学非常勤講師、AJAJ理事。