今秋以降、日本でもディーゼル乗用車の販売が徐々に復活する見通しだが、日本市場ではATは販売政策上、絶対に必要な装備だ。
欧州系部品メーカー、シェフラーグループは、人とくるまのテクノロジー展に出展。ブースで、パワートレイン系エンジニアの関心を引いていたのは、ターボディーゼルエンジン向けに開発した新発想の「LuK MFTC(マルチファンクション・トルクコンバーター)」だ。
ターボディーゼルはもともと、トルコン式ATとの相性があまりよくない。ディーゼルは低回転域でとくに効率が高く、その特性を最大限に生かすためには、できるだけ低い回転数でエンジンと変速機を直結状態にする必要がある。
が、トルコン式ATの場合、あまり低い回転数でロックアップさせると、シャフトがエンジン振動と共振してしまい、車内の騒音振動が増してしまう。シリンダー内の爆圧が大きいディーゼルはとくに低回転を使いづらく、“美味しい領域”を積極的に使うのが難しい。
実際、ディーゼル乗用車のトルコン式ATとMTの間の燃費差はガソリンよりもかなり大きめに出ることが多い。
MFTCは、ディーゼル乗用車の燃費を向上させるため、アイドリングプラスアルファの領域から許容回転数まで加速、減速両方向で、必要なときに幅広くロックアップさせることを可能とする新機軸が盛り込まれている。
通常はエンジン側にかかっているATのポンプの重さをインプットシャフト(変速機への出力軸)側にかける構造へと変更。インプットシャフトの重量をロックアップ時に仮想的に重くすることで、ロックアップ時に不快なノイズを引き起こす原因となる共振周波数をエンジンのアイドリング回転以下に下げたという。
ニュートラル時の動力切断をトランスミッション側ではなくトルコンの前で行なう機構となっていることも燃費向上には有用。通常のトルコンはニュートラル時にもトルコン内部の羽根車は空回りしており、つねに損失を生んでいるが、MFTCはニュートラル時にはトルコンは完全に停止した状態となるという。
これまでは自動クラッチを用いた機械式ATのDCT(ダブルクラッチトランスミッション)を使うか、燃費の悪化を承知で通常のトルコンATと組み合わせるしか選択肢がなかったが、MFTCのような特性を持つトルコンが増えてくれば、生産に慣れたトルコン式ATでじゅうぶんに好燃費をマークするディーゼル乗用車を作ることができそうだ。