1 | なにやら気になるワイナリー |
イタリア北部のクーネオ県は、トリノの南に位置する。かのジョルジェット・ジウジアーロの故郷でもある。この季節、ウィンドーを閉めきって走るのは惜しい。圧搾したばかりのブドウ絞りかすが、あちこちで濃厚な香りを発散させているからだ。
一帯は、ワインの名産地なのである。とくに県内のランゲ地方は、イタリア屈指の名ワインでDOCG(保証付き原産地統制呼称)のお墨付きももらっているバローロの産地だ。おすすめのワイナリーを聞き出すべく、ラ・モッラという小さな村の観光案内所を訪ねたが、ちょうど昼休み中だった。待っている間、聞こえてくるのは、遠くのトラクターのエンジン音だけ。限りなくのどかな地だ。
1時間くらいすると、ようやくひとりのおじさんがカウンターに現れた。彼いわく、「それなら、コルデーロ・ディ・モンテゼーモロあたり、どうヨ」 なぬ! フィアット会長と同じ名前だ。マリオ・ロッシ(イタリアにおける山田太郎である)などと違い、そうそうお目にかかれる苗字ではない。
なにやら面白そうだ。ボクは、おじさんに前もって農園に電話してもらってから、所在地のメモを頼りに山道を辿った。