検察調書が間違っている!! 交通トラブル裁判で裁判長が検察官を叱る

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飲酒運転を注意しようとしていた男性をステップに乗せたままの状態でトラックを急発進させ、重傷を負わせたことで殺人未遂罪と道路交通法違反(酒気帯び運転)に問われていた55歳の男に対する判決公判が21日、名古屋地裁で開かれた。裁判長は殺人未遂罪成立の拠り所とした被告の供述が記載された検察調書そのものに矛盾があるとして、殺人未遂罪ではなく、傷害罪を適用した判決を言い渡した。

この事件は昨年8月10日深夜に起きた。名古屋市緑区の国道23号線で、運転方法を巡ってトラックの運転手(被告)と、クルマの運転手(被害者)が口論となった。被告が酒臭いことに被害者が気がつき、「お前、何で酒飲んで運転しとるんか、ふざけるな」などと怒鳴り、被告の顔を数度殴った。危険を感じた被告はその場から逃れようと、運転席ドアから半身を車内に乗り込ませようとする被害者を乗せたままトラックを発進させたところ、直後にトラックのステップから滑り落ちて転倒。頭などを打つ重傷を負った。

警察ではトラック運転手を傷害容疑で逮捕し、取り調べを進めていたが、当初から「飲酒運転は悪いことだが、トラブルの発端は相手側にあった」と主張していた。この主張は検察での取り調べの最中にも一貫して続けられていたが、拘置満期日の前日に「相手が死ぬかもしれないと思いながらトラックを発進させた」と供述したため、検察は「この供述によって未必の殺意が成立する」と判断。容疑を殺人未遂に切り替え、起訴していた。

21日の判決公判で名古屋地裁の片山俊雄裁判長は「被告がそれまで一貫して否定してきたにも関わらず、拘置満期日の前日に“相手が死ぬかもしれないと思った”という供述が行われるのはあまりに唐突としか言いようがない」と指摘。さらに「被告がそう判断するに至ったという点にも、これまでの供述を覆したという意味での変更点についても、検察調書では何ら触れられていない。そうした点を考慮しても、この供述は検察官の誘導によってなされたか、検察官によって誤って記載された可能性が大きい」と、検察の捜査と、調書の作成方法に不手際があると批判した。

そして「この部分によって未必の殺意が成立したとしている以上、この部分が誤りだとしたなら殺人未遂罪は成立しない。そして未必の故意を認める供述が記載された検察官調書こそ信用できない」として、殺人未遂罪ではなく傷害罪を適用。懲役4年の求刑に対し、懲役2年6カ月(保護観察付き執行猶予5年)の有罪判決を言い渡した。

刑事裁判で裁判官が検察調書の不手際を指摘するというのは異例だが、検察がこの判断をそのまま受け入れるとは考えにくく、舞台は高裁に移って続けられそうだ。

《石田真一》

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