三浦 いま、大型4社のなかで気を吐いているのは日野だけです。新たにアメリカ進出を計画したり、スウェーデンのスカニア社と提携したり、動きがあります。それに比べて、残る3社、いすゞ、三菱、日産ディーゼルは防戦一方という感じがします。
安田 もともと、日本の大型トラックメーカーは国内市場だけで何とかなってきたんです。しかし、それでは立ち行かないから海外に出ざるを得ないという状況なんです。ただ、海外展開ではいすゞのほうが早かったんですよ。ただ、成果が出るまでに時間がかかっているからあまり評価されていないのですね。日野といすゞに関して言えば、株価を見てもわかるように、市場の評価が低すぎる。
牧野 ただ、日本の大型車市場がここまで落ち込んでしまう前に、何か手は打てなかったのでしょうか。その典型的な姿が日産ディーゼルじゃないですか。
安田 不思議なことに、日デの株価はいすゞより高い。決算も単年度で黒字なんです。相当にリストラをやったのかもしれない。
牧野 あまり外部にそういう話が聞こえて来ませんね。東京を引き払って上尾の工場に本社機能が移転されたから、あまりマスコミが取材に行かない。記事を書かれないと株価は上がるのかもしれません(笑い)。
安田 それはあるかもしれない。決算発表も大宮でやるから、熱心なアナリストじゃないと出かけないし。
牧野 それにしても、日デの場合は進展がありません。
安田 不良債権は5000億円と言われています。銀行側が債権放棄でもしないかぎりは。外資とくっつくという道もない。しかし銀行もいまは大変で、債権放棄はできない。富士銀行と日本興業銀行ですから、現在は「みずほ」です。いずれにしても不良債権を何とかしないと、結婚相手も探しに出られない。
牧野 まさか、現在でも不良債権が膨らんでいるのですか?
安田 いや、さすがにそれはないでしょう。日デの不良債権は販売代金を回収できなかったものが多いですからね。販売は正常化されたと思います。ただ、利幅は薄いし販売台数もバブルのころに比べれば各段に少ない。日デに限らず、大型車メーカーは大変です。
三浦 商品もあまり進歩がないのでしょうか?
牧野 進歩していますよ。エンジンはクリーンになったし、とにかく排ガス規制は厳しくなる一方ですから。それに、物流そのものが変わりつつあります。
安田 トラック営業を提案型に変えてゆく努力は各社で見られます。たとえば日野の蛇川社長なんかはトヨタ出身ですから、従来のトラック業界が常識としてきたことに対して、かなり疑いを持っています。開発期間から、機種設定から、見直さなければならないことはたくさんある、と。ユーザーに対しても「日野としては物流をこう考えている。おたくのトラックはこのように代替するべきだ」とか、トラック業界の商売を変え始めた。
牧野 こういうクルマをこれだけ値引きます、メンテナンスもやります、という商売ではなく、システムとしての物流、ロジスティクスを提案する方向に行くのでしょうね。だから、いすゞは中型トラックと小型トラックのプラットホームを統合して、物流ニーズにあった商品に切り替えるわけです。“大は小を兼ねる”ではなくなった。大型は規制緩和で長距離主体、積載量も増加。中型は小口輸送か多量輸送かに別れ、使われ方は小型に近づいてきたようです。
安田 そこで、日野の蛇川社長はトヨタで生産畑をずっと歩いてこられたエキスパートですから、生産方式にもメスを入れるんでしょう。
牧野 日野はトヨタ生産方式を忠実に継承していて、トヨタも見習う部分が多いと言いますからね。
安田 大型4社が抱えている雇用というものも大事です。日デにしてもそうです。「たら、れば」の話をしてもどうにもならないのだけれど、ずいぶん昔の話ですが、いすゞと日産ディーゼルの合併がかなりの部分までまとまりかけていたこともあるんです。日産といすゞの間では話がまとまった。しかし、日産出身の日デの社長が反対した。それでご破算になって、いすゞはGMと提携した。もし、そのときに合併が実現していれば、日本のトラック業界の歩みは違ったものになったでしょうね。
三浦 それにしても、日デはこの現状を何とかしなければならないのですね。
安田 日デは自動車業界では最大の不良債権を抱えています。たとえば金融庁あたりから銀行がつつかれたらどうなるか。会社更生法になるのか民事再生法になるのかわかりませんが、処理するという選択肢だってないわけではない。ただ、銀行が再建放棄した会社が立て続けに破綻したいますからね。
牧野 国内の残り3社にしても、他人の面倒を見る余裕はないでしょう。大型車の危機はまだ続きそうな気配です。
安田 世界的な大型メーカーの再編も、まだ続きがありそうだから。