【BYD ラッコ 新型試乗】国産車には打つ手なし!? あとは足りないものを“伸びしろ”にすることができるか

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【BYD ラッコ 新型試乗】国産車には打つ手なし!? あとは足りないものを“伸びしろ”にすることができるか【BYD ラッコ 新型試乗】国産車には打つ手なし!? あとは足りないものを“伸びしろ”にすることができるか

BYDラッコ300プレミアム(FWD)【試乗記】

中国BYDの軽スーパーハイトワゴン「ラッコ」がいよいよ日本の道を走り始めた。価格の安さや装備の充実度はすでに報じられているとおりだが、やはり自動車の仕上がりは実際に動かしてみなければ分からない。高速道路やワインディングロードでの印象をリポートする。

売れ筋なのに手をつけなかった

1泊2日でラッコに乗った。高速道路を巡航し、ワインディングロードを駆け上り、市街地の路地を抜けて狭いパーキングに駐車した。ラッコは軽スーパーハイトワゴンなので、生活のためのクルマということになる。実用性、利便性、快適性が重要な要素だ。日本で売れ筋のジャンルだから、強力なライバルがひしめいている。具体的には「ホンダN-BOX」「ダイハツ・タント」「スズキ・スペーシア」「日産ルークス」などが思い浮かぶ。はたして対抗するだけの実力を有しているのかを検証した。

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「黒船襲来」などと騒がれているのは、軽自動車が日本独自の規格で、これまで日本の自動車メーカーの独占市場だったからだ。海外メーカーの参入はBYDが初めてである。小さなクルマをつくる技術は日本のお家芸で、長年かけてノウハウが積み上げられてきた。コンパクトなサイズにパワーユニットを詰め込み、広い居住空間と快適性を提供する。売れているからウチもつくってみよう、などという甘い考えでは手痛いしっぺ返しを食うことになるはずだ。そこに正面から切り込んできたのだから、BYDは本気である。

BYDはもともと電池メーカーで、世界トップクラスのシェアを誇る。ラッコは自社製造のバッテリーを搭載する電気自動車(BEV)だ。「日産サクラ」や「ホンダN-ONE e:」などの軽BEVがこれまでに販売されているが、いずれもハイトワゴンだった。両側スライドドアを持つスーパーハイトワゴンのBEVはラッコが世界初となる。スーパーハイトワゴンは一番の売れ筋ジャンルなのに、なぜ日本メーカーは手を付けなかったのか。

2022年にサクラが発売された際、商品開発担当者に疑問をぶつけたことがある。スーパーハイトワゴン版は登場するのかと聞くと、「将来的にはもちろん考えていければいいが、スライドドアだと重くなって航続距離に影響してしまうのでまずはオーソドックスなヒンジのクルマで」という回答が返ってきた。2025年にN-ONE e:のエンジニアに同じ質問を投げかけると、「走行抵抗が大きく違うので一充電走行距離295kmは難しい。次はどうするかというのは社内で検討している」との答えだった。考えてはいたのだ。しかし、BYDに先を越されたのが現実である。

2026年7月28日に発売された「BYDラッコ」。わざわざ日本専用に開発したという軽スーパーハイトワゴンタイプのBEVだ。

人文暖居でラッコ楽

ホンダのエンジニアが難しいと言った295kmをしのぐ一充電走行距離320km(WLTCモード)というスペックは驚きだ。これはバッテリー容量35.84kWhの「300」シリーズの数字で22.4kWhの「200」は210kmだが、それでもサクラよりは長い。初期受注では最上級グレードの「300プレミアム」が約8割を占めているそうで、35万円程度の価格差ならこちらのほうがお得だと感じられているのだろう。試乗したのはこのグレードである。

横浜で乗りだした時に表示されていたバッテリー容量は98%。残存航続距離は314kmとなっていた。これはあくまでもカタログ数値であり、実際には7掛け程度なのが普通だ。ラッコの航続距離表示は2種類あって、表示されていたのはカタログ電費とバッテリー残量を元に算出する「スタンダード」だった。「ダイナミック」では、直近50kmの平均電費で計算された数値になる。どのくらい減るのかなと意地悪な気分で切り替えてみたら、なんと320kmに増えた。走り方によって変動するが、この後も2つのモードで大きな差が生じることはなかった。

ラッコの開発にあたって、BYDはN-BOXをはじめとする日本の軽スーパーハイトワゴンを徹底的に研究している。ボディーの縦横は軽規格ギリギリなので、いずれも同じようなフォルムになっているのは仕方がない。ラッコのエクステリアは、「四角×角まる」というコンセプトでデザインされている。何だか聞いたことがあるような気がすると思ったら、ルークスの「かどまる四角」とほぼ同じだ。「トヨタ・シエンタ」は「シカクマル」である。四角い形でスペースを稼ぎながら角を丸めて温かみをトッピングする手法が、ファミリー向けの実用車では定番となっている。

インテリアのコンセプトは「人文暖居(じんぶんだんきょ)」。人の営みを大切にしたリラックスできる空間という意味だという。中国の悠久の歴史を感じさせるいい言葉だ。日本とは異なる文化がまぶされているのが輸入車の魅力である。しかし、クルマ全体を貫く理念として示されているのは「ラッコ楽」。日本の昭和オヤジ的ワードセンスだ。

駆動用バッテリーの容量は「200」が22.4kWhで「300プラス」「300プレミアム」が35.84kWhだ。

豊富な日本車オマージュ

ダジャレのデキはともかく、ラッコ楽な装備は便利でありがたい。感心したのは「足元投影ガイド付きハンズフリースライドドア」。キーを持ってスライドドアに近づくと、地面に丸い形の照明が当てられる。そこを足で踏むと、ロックが解除されスライドドアがオープンする仕組みだ。キックセンサーでドアを開ける機構は珍しくないが、はっきり位置を明示することで確実に作動させられるのはコロンブスの卵的発明である。

フロントシートの背後には2つのフックが設けられており、センターに配置されているトレーと合わせて傘置きとして使用できる。助手席の下に収納ボックスがあるのは「スズキ・ワゴンR」と同じだが、後ろからも引き出せるのが新たな工夫だ。前後席とも収納スペースが豊富で、日本のスーパーハイトワゴンをパクっ……いやオマージュした成果が表れている。最も分かりやすいのは、チップアップとダイブダウンを組み合わせた後席のシートアレンジだ。誰が見てもN-BOXインスパイアで、BYDも否定していない。

意外だったのは、スマホのワイヤレスチャージャーがないことだ。USBのソケットはダッシュボードにタイプAとタイプCが備えられていてセンターディスプレイの裏にもう1つあるが、後席にはゼロだ。昨今は乗員全員分の電源が用意されていることが多いのに、不思議である。コストダウンのためなのかもしれないが、運転席は電動というぜいたく仕様。お金のかけ方に文化の違いが反映されているのだろうか。

各種設定はセンターディスプレイでやるようになっているが、物理スイッチも多く残されている。ステアリングやブレーキ、デイライトなどの設定はディスプレイでしか操作できないが、「エコ」「ノーマル」「スポーツ」「スノー」の4つのドライブモード切り替えは物理スイッチのみだ。面白いのは、画面を3本指でスライドするとエアコンの温度と風量を変えられるようになっていること。カタログには記載のない隠しコマンドである。

フロントアクスルに積まれる駆動用モーターは最高出力64PS、最大トルク160N・mを発生。これは全グレードで共通だ。

電欠の不安なく走れる

電動車らしからぬ存在感を放ちながらダッシュボードに鎮座するシフトセレクターでDレンジを選んで走りだすと、軽自動車とは思えない重厚感たっぷりの走行フィールだ。急激に加速するようなことはなく、ガソリン車からの乗り換えでも違和感を持たないように配慮されているように感じる。1230kgという重量はN-BOXより300kgほど重く、落ち着いた動きになる一方で軽快感は乏しい。ただし、高速道路では重量がプラスに働く。せわしないピッチングに悩まされる場面はなく、堂々とした走りだ。

62.1km走ってバッテリーは74%まで減り、残存航続距離はダイナミック表示で238km。少し減りが早いが、許容範囲だろう。ここからは高速コーナーが続く箱根ターンパイクを走る。上り坂ではアクセルを踏み込んでもなかなかスピードは上がらない。ガソリンターボ車に比べると、加速は緩慢だ。ラッコが真価を発揮するのはコーナーである。リン酸鉄リチウムイオンバッテリーを組み込んだ「X-PACK」を中央部の床下に置いている恩恵で重心が低く、背の高いボディーであることを忘れさせる安定感だ。

7%を超える急勾配はさすがにバッテリーへの負担が大きく、15.8km上るとバッテリー55%、残存航続距離は178kmとなった。近くの充電スポットまで走ってバッテリーが50%になったところで30分充電すると87%、281kmにまで回復。立ち寄った商業施設の充電器が空いていたのでさらに30分追加したら、見事に満充電を達成した。通常はワインディンロードを元気に走ったりはしないだろうから、もっと消費量は少ないはずだ。今は充電環境が整備されてきたので、日常使いで電欠の不安におびえることはないだろう。

ラッコは人気のスーパーハイトワゴンでBEVとしての性能が高く、価格は激安。日本車から学んだ成果を惜しげなく注ぎ込んで、優れた実用性と利便性を実現している。これは売れるに違いない……と言いたいところだが、ちょっとためらってしまう。完成度が高いようでいて、細かいところにモヤモヤが残ったのは否定できない。微低速でのコントロールが難しく、停止時のブレーキフィールにも違和感があった。滑らかな乗り心地だと感じていたのに、大きな入力があるとバタついてしまう。サクラやN-ONE e:の爽快な走りには届いていない。微妙でささいな違いだが、日本の軽自動車はスペックに表れない部分で細やかなチューニングがされていることにあらためて気づかされた。

当然だろう。ラッコはデビューしたばかりなのだ。わずかな期間で開発したことを思えば、多少のアラが見えるのは仕方がない。足りないところとは、言い方を変えれば伸びしろである。BYDはユーザーからの反応を分析し、猛スピードで改良を加えてくるはずだ。今のところ洗練度では一日の長があるとはいえ、日本の自動車メーカーがのんびり構えている余裕はない。危機感を持って精進するべきだ。

(文=鈴木真人/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝/車両協力=BYDオートジャパン)

ブレーキのタッチはいわゆるカックンタイプで、スムーズに操作するのが難しかった。走りの質感という面ではまだ国産モデルにアドバンテージがあるようだ。

テスト車のデータ

BYDラッコ300プレミアム

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3395×1475×1800mm
ホイールベース:2520mm
車重:1230kg
駆動方式:FWD
モーター:交流同期電動機
最高出力:64PS(47kW)
最大トルク:160N・m(16.3kgf・m)
タイヤ:(前)165/65R15 81H/(後)165/65R15 81H(サイルン・ツーリズモコンフォートCS21)
一充電走行距離:320km(WLTCモード)
交流電力量消費率:124Wh/km
価格:249万7000円/テスト車=249万7000円
オプション装備:なし

テスト車の年式:2026年型
テスト開始時の走行距離:1396km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(6)/山岳路(1)
テスト距離:265.3km
参考電力消費率:--km/kWh

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《webCG》

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