警察庁は9月3日、「運転技能検査の見直しに関する有識者検討会」の報告書を公表した。
75歳以上の高齢運転者による事故の特徴や、運転技能検査合格後の事故を分析した結果を踏まえ、検査に新たに「方向変換」を追加する方針を示した。減点項目には「安全不確認」を加え、「一時不停止(大)」の減点基準も引き上げる。
◆検査に合格した後も事故リスクが高い
検討会は2026年7~8月に計3回開催した。現行の運転技能検査は、75歳以上で、免許更新前の一定期間に信号無視や通行区分違反、踏切不停止など一定の違反歴がある運転者が対象だ。新たに免許を取得する際の技能試験とは異なり、「安全運転が期待できないほど技能水準が低い場合」に不合格とする制度としている。
今回の見直しの背景には、検査に合格した後も事故リスクが高いという追跡調査の結果がある。運転技能検査の合格者10万人当たりの交通事故件数は、検査対象ではなく高齢者講習の実車指導を受けた75歳以上の運転者と比べて2倍以上、交通違反件数も約2倍だった。
2025年に発生した死亡事故の人的要因◆75歳以上は「操作不適」の割合が高い
事故の特徴は75歳以上と75歳未満で大きく異なる。
2025年に発生した自動車による死亡事故を人的要因別にみると、75歳以上では「操作不適」が33.1%(120件)を占めた。これに対し75歳未満では10.7%(169件)だった。
さらに操作不適のうち、アクセルとブレーキの踏み間違いは75歳以上で31件と約26%を占めたのに対し、75歳未満では15件、約9%だった。アクセル・ブレーキの踏み間違いによる死亡事故46件のうち31件、約67%を75歳以上が占めている。
事故類型にも違いがある。75歳以上の高齢運転者による死亡事故では、車両単独事故が47.1%と約半数を占めるのに対し、75歳未満では19%だった。免許保有者10万人当たりの死亡事故件数も、75歳以上は75歳未満の約2倍となっている。
年齢層別のブレーキとアクセルの踏み間違いによる死亡事故
◆なぜ「方向変換」なのか
こうした事故の特徴から、検討会が新たな試験課題として選んだのが「方向変換」だ。
方向変換では、後方や側方など複数の情報に注意を配りながら、ハンドル操作とアクセル・ブレーキのペダル操作などを同時に行う必要がある。検討会では、踏み間違いは複数の運転操作を同時に行い、慌てたりパニックになったりした状況で起こり得るとの指摘があった。このため、ペダルを正しく操作できるかを確認するには、複数の動作を同時に求める課題が有効と判断した。
候補には「S字」と「クランク」も挙がった。しかし、これらは方向変換と比べて車両感覚を養うことに重点があり、アクセル・ブレーキ操作の正確性を確認する課題としては充分ではないと判断された。
検査時間も理由の一つだ。約150人を対象に、方向変換、S字、クランクの3課題すべてを加えた実証実験では、検査時間が現行の約1.5倍になった。検査が長くなれば、受検後の安全指導の時間が短くなるおそれもある。このため、追加課題を方向変換だけに絞ることで検討会の意見が一致した。
課題「方向変換」の実施方法◆「安全不確認」も新たに減点
試験の採点方法も見直す。現行の運転技能検査には、安全確認の有無を直接評価する減点項目がない。そこで「安全不確認」を新たな減点項目に加える。
追跡調査では、検査合格後に事故を起こした運転者81人のうち26人、約3割が検査時に「一時停止」で減点されていた。また、合格者が受検後に起こした事故83件では、「安全運転義務違反」が53件と6割以上を占め、そのうち「安全不確認」が26件だった。安全不確認の88.4%は「前方・左右の安全不確認」だった。
さらに、交差点に進入するまで一時停止しない「一時不停止(大)」についても、現在の減点基準を引き上げる。検討会では、信号無視と同様に直ちに不合格となる基準に引き上げるべきとの意見も出た。
警察庁は今後、報告書を踏まえて道路交通法施行規則の改正など、高齢運転者による交通事故防止に必要な措置を講じる。検査対象者の拡大やサポートカー限定免許との連携、システムによる運転技能評価、繰り返し事故を起こす運転者への対策などについては、引き続き検討するとしている。










