ヤマハ発動機のグループ会社であるヤマハモーターエンジニアリング(YEC)とベビーカーメーカーの五十畑工業が共同開発した、保育現場向けの「電動アシストお散歩カー」が話題だ。8月18日にヤマハが公式サイトで情報を公開すると、販売する五十畑工業には通常の10倍以上の問い合わせが殺到している状況だという。
【詳細画像】問い合わせが殺到しているという「避難車兼用電動アシストお散歩カー“てくてくスワニー”」
電動アシストお散歩カーの正式名称は「避難車兼用電動アシストお散歩カー“てくてくスワニー”」。1~3歳の子どもを6~8人乗せることができるお散歩カーに、YECが持つ電動アシストの技術を組み合わせたもので、保育現場の負担軽減をめざし開発された。
◆電動アシスト技術で、現場の課題解決を
ヤマハモーターエンジニアリングと五十畑工業が共同開発した「避難車兼用電動アシストお散歩カー“てくてくスワニー”」YECは、バイクやマリン製品をはじめ、設計、実験評価、生産技術など多岐に渡りヤマハ発動機のものづくりを支える企業。技術開発だけでなく、社会課題へ新たな価値を創出する自社商材にも力を入れる。この自社商材を代表するのが、電動アシスト自転車や電動車いすなどで培った技術を活かした「電動アシストホースカー」で、消防の現場に採用されている。
この技術を保育現場に活かすことができないか、という発想から、お散歩カーの国内シェアトップの五十畑工業に声をかけ、保育施設のヒアリングや評価を繰り返しながら、およそ3年をかけ電動アシストお散歩カーを開発した。製品企画をおこなったYECの光主侑一郎さんは、「子どもたちとのお散歩を、“大変な仕事”ではなくて“楽しい時間”にしたいという思いから、この企画を膨らませていった」と話す。
五十畑工業には、かねてより保育現場から電動アシストお散歩カーへの要望があったという。10年ほど前には、受注生産をおこなっていた実績もあるが、高額であることや部品調達の課題から事業として成立せず廃盤となっていた。以来、確実に需要はありながらも、他社を含め電動アシストお散歩カーが販売されることはなかった。そこに目をつけたのがYECだった。
◆負担軽減だけでなく、保育に集中できるメリット
ハンドルの中央にセンサーがあり、押し引きの力を検知。モーターを駆動する
車体の基礎は五十畑工業が開発。中央の二輪それぞれにモーターが組み合わされ、ハンドルを押す力に応じて最適なアシストを得ることができる。加速しすぎたり、ブレーキが強すぎれば、乗っている子どもたちの怪我につながってしまう。開発にあたっては、従来のお散歩カーに近い自然な操作感を追求し、前進だけでなく後退、旋回、減速も違和感なく、かつ小さな力で操作できるようにした。これにより、単に負担を軽減するだけでなく、園児の見守りやふれあいに集中することが大きなメリットだという。
重量はオープンタイプで52kg、4・6シートタイプが54kg。アシスト上限速度は6km/hで、満充電での走行可能距離は15km。充電時間は約8時間となっている。
正式名称に“避難車”とある通り、万が一の災害時などにお散歩カーは子どもたちを安全な場所に避難させるための道具にもなる。シートは防炎タイプ、タイヤもノーパンクタイヤを装着している。五十畑工業 営業企画部の五十畑和徳氏は、「いざという時にしか使わない避難車ではなくて、普段からお散歩に使っていて、避難の時には避難車としても使える。そういった使い方をした方が、いざという時に使い方がわからないということがない」と、兼用であることのメリットを語る。
また、1歳児であれば最大8名、3歳児であれば最大6名と定員を決めているが、「万が一の際には、それ以上のお子さんが乗っても十分耐えられる設計にしています」(五十畑氏)と、長年培ってきたベビーカー、お散歩カーづくりの技術に自信を見せた。
◆先生たちが笑顔になれば、子どもたちも笑顔になる
下り坂でも押す力を弱めるだけで減速アシストしてくれる開発に協力した「ゆめの樹保育園 ほどがや」(神奈川県保土ヶ谷市)の保育士に、電動アシストお散歩カーを使ってみた感想を聞くと、「本当に快適にお散歩ができました」「保育士の負担だけじゃなくて、お子さんの負担も少ないんじゃないかな」「8人乗っているとは思えない(アシスト力)」など、絶賛の声が上がった。
JR保土ヶ谷駅から徒歩10分程度に位置する同園は、急な坂のちょうど真ん中あたりに立地する。普段から、お散歩カーでのお散歩には苦労しているといい、4人乗りや6人乗りのお散歩カーを使用する時でも安全のため定員いっぱいに乗せることはないという。それでも坂道では、保育士2人がかりで、1人はハンドル役、もう一人はブレーキ役として細心の注意を払いながら上り下りをおこなっているそうだ。
特に気を遣うのが下り坂だが、電動アシストお散歩カーではブレーキレバーを握ったり特別な操作をすることなく、押す力を弱めるだけでモーターの力で減速~停止をサポートしてくれるため、女性の保育士ひとりの力でも安心して坂を下ることができる。
ゆめの樹保育園 ほどがやの佐々木真由美 園長佐々木真由美 園長は、「できるだけ早く購入させていただきたい」とし、運営法人に2台程度導入できるよう話を進めているという。「先生たちが喜んでくれて、楽になれば、それだけお子さんたちにもさらにいい保育ができると思うんです。先生たちが笑顔になれば、お子さんたちも笑顔になる」と導入への期待について語る。
「(お散歩時の)安全と保育の両立は難しい。でもアシストがあることで、お子さんと一緒に風を感じたりとか、楽しいねっていう、本来の保育の部分に力を入れられる。平らな(土地の)ところの園さんも含めて、一度体験してみらえると良いのかなと思います」
また、今回の電動アシストお散歩カーの反響について佐々木園長は、「保育の中で、このバギーの重さや大変さ、必要性、そういうところに今回目を向けていただいて、こういったものが完成して。様々な意見、知ってる方も知らない方も含めて、“保育士は大変”と一言に言うけど、ピンポイントでこういう業務が中にはあるんだということを知ってもらえて、興味を持ってくださったというところが、私たちにとっても、今の現場だけでなく、将来のことを考えると大きいのかなと思います」と話した。
電動アシストお散歩カーがよほど楽しかったのか「もう一回!」とリクエストする園児たち「避難車兼用電動アシストお散歩カー“てくてくスワニー”」の希望小売価格は、6~8人乗りのオープンタイプが79万8000円、6人乗りの4シートタイプが81万8000円、6人乗りの6シートタイプが84万0000円(いずれも税別)。五十畑工業が販売する通常のお散歩カーは10万円~20万円程度。その価格差は小さくない。SNSでは、必要とする保育現場が導入できるよう補助金の適用を要望する声も多く上がっている。










