東京理科大学大学院理学研究科化学専攻の藤井勇生氏、同大学理学部第一部応用化学科のザカリー・T・ゴセージ助教、駒場慎一教授らの研究グループは、ナトリウムイオン電池の負極材料のハードカーボンで、ナトリウムがリチウムよりも優れた拡散性を示すことを実証した。
研究グループは希薄化したハードカーボン電極の電気化学測定により、ナトリウムの挿入反応速度がリチウムより速く、黒鉛電極に対するリチウムの挿入反応と同等の性能を持つことを実証した。
ナトリウム挿入の活性化エネルギーは約55kJ/molで、リチウム挿入の約65kJ/molより低く、その結果、低温環境でも性能が保たれ、急速充電に適していることを解明した。
研究では希薄電極法という新たなアプローチを採用し、電気化学測定を実施。5vol.%に希釈したハードカーボン電極を用いた急速充電試験において、ハードカーボンへのナトリウム挿入速度がリチウムよりも速いことが確認された。
電極への挿入速度の指標となる見かけの拡散係数は、ナトリウムでは10の-10乗から10の-11乗cm2/s、リチウムでは10の-10乗から10の-12乗cm2/sであり、ナトリウムの方がハードカーボン中を速く移動できることが示唆された。
さらに、ハードカーボンへのナトリウム挿入速度は、現行のリチウムイオン電池で負極材料として用いられる黒鉛へのリチウムの挿入速度と同等であることが示された。
5vol.%の希薄電極は1000mA/gで全容量の80%を達成し、さらに2500mA/gという極めて高い電流密度でも全容量の40%を維持することが明らかとなった。特に注目すべきは、高速充電時でも低電圧領域で発現する電位平坦部が利用可能であったことで、これはナトリウムがハードカーボンの細孔内部まで高速で到達できることを意味している。
一方、リチウムイオン電池では希薄電極の効果は限定的だった。わずか200mA/gという比較的低い充電速度においても、容量が約60%まで急速に減少し、ナトリウムイオン電池で見られたような劇的な改善は観察されなかった。
温度依存性の評価から得られた活性化エネルギーは、リチウム挿入より約10kJ/mol低く、ナトリウムイオン電池の方が温度変化の影響を受けにくいため低温環境でも性能を維持しやすいことが示された。
さらに、希薄ハードカーボン電極では、電解液とハードカーボン界面での電荷移動反応が充電速度を制限する主な要因となり得るが、低電位領域ではハードカーボン細孔内における擬金属クラスターの核生成が充電速度に大きく影響することが明らかとなった。
本研究成果は、2025年12月15日に国際学術誌「Chemical Science」にオンライン掲載された。また、本論文はChemical Science誌において特に注目される「ChemSci Pick of the Week」に選出されている。



