【イタリアのデザイン・ラボラトリー】GFGレール…あのジウジアーロによる鉄道車両デザイン

日立レール「ブルース」のレンダリング 2019年
  • 日立レール「ブルース」のレンダリング 2019年
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イタリアを拠点に輸送機器のデザインに携わる企業・人物を紹介する本企画。第9回は「GFGレール」を紹介する。自動車デザインで長年活躍を続けてきたジョルジェット&ファブリツィオ・ジウジアーロ親子が主宰する鉄道車両専門のデザインスタジオである。

■主要顧客に日立レールも

イタリア各地では、2022年からローカル鉄道路線に新型車両が続々導入されている。その名は「ブルース」。非電化区間用のディーゼルエンジン駆動、電化区間でのパンタグラフ集電によるモーター駆動に加え、バッテリーからの電源供給によるモーター駆動も可能な“トリブリッド”車である。

システムがとくに活躍するのは非電化区間だ。駅で減速、停車そして出発する際、モーター駆動に切り替えることで、従来型気動車と比較して燃費・CO2排出量ともに最大で50%削減できる。この画期的な車両の内外装デザインを手掛けたのは「GFGレール」である。

日立レール「ブルース」 2019年日立レール「ブルース」 2019年日立レール「ブルース」 2019年日立レール「ブルース」 2019年
日立レール「ブルース」のレンダリング 2019年日立レール「ブルース」のレンダリング 2019年日立レール「ブルース」のレンダリング 2019年日立レール「ブルース」のレンダリング 2019年日立レール「ブルース」のレンダリング 2019年日立レール「ブルース」のレンダリング 2019年日立レール「ブルース」のレンダリング 2019年日立レール「ブルース」のレンダリング 2019年日立レール「ブルース」のレンダリング 2019年日立レール「ブルース」のレンダリング 2019年

GFGレールの母体は「GFGスタイル」という企業で、登記上の名称は「GFGプロジェッティ」という。同社は2010年から15年にかけて従来の「イタルデザイン」の株式をフォルクスワーゲン・グループに売却したジョルジェット・ジウジアーロが、長男ファブリツィオと新たに設立したデザイン開発企業である。GFGとは「Giorgetto & Fabrizio Giugiaro」の頭文字で、本社と開発施設をいずれもトリノ郊外のモンカリエリに構えている。

彼らは、中国の自動車ブランド「テックルールズ」のために制作し、2018年の電動ハイパースポーツカー「レン」をはじめ、公開されているものだけでも6種のコンセプトモデルを手掛けている。量産車では、中国「陸風汽車」による2019年のSUV「栄曜」の開発に参画している。

ファブリツィオ・ジウジアーロ(左)とジョルジェット・ジウジアーロ(右)。 2018年のコンセプトカー「シビーラ」と共に。ファブリツィオ・ジウジアーロ(左)とジョルジェット・ジウジアーロ(右)。 2018年のコンセプトカー「シビーラ」と共に。

GFGレールは鉄道車両専門のスタジオで、組織としては建築・住設機器デザインを手がけるグループ企業「ジウジアーロ・アルキテットゥーラ」の1ユニットと位置づけられている。顧客はフランスの鉄道製造会社「アルストム」をはじめ、10社を擁する。そしてプロジェクトも含めると、手掛けた領域は高速列車、ローカル線用車両、地下鉄、路面電車から空港のピープルムーバーにまで及ぶ。発足14年にしては好成績である。その背景には、イタルデザイン時代からの鉄道車両デザインの蓄積があることは明らかだ。参考までに1989年のフィアット製高速列車「ETR460ペンドリーノ」計画では、スタジオ内に先頭部分を巨大な1:1モックアップで実現して検討。工業デザイン業界で話題となった。

「日立レール(Hitachi Rail)」も、GFGレールの大切な顧客である。同社は日立製作所の鉄道システム事業におけるグループ会社で、2015年にイタリアのフィンメカニカ社から鉄道車両製造部門であったアンサルドブレダ社を買収し、発足した。実は冒頭で記したブルースも、イタリアの旧国鉄系鉄道会社「トレニタリア」の要請を受けて日立レールが開発し、製造している車両である。

日立レール「AT300イースト・ミッドランズ」。2018年日立レール「AT300イースト・ミッドランズ」。2018年日立レール「AT300イースト・ミッドランズ」。2018年日立レール「AT300イースト・ミッドランズ」。2018年日立レール「AT300イースト・ミッドランズ」。2018年日立レール「AT300イースト・ミッドランズ」。2018年

■自動車デザインとの共通性、そして違い

今回本記事のためにGFGレールのマネージング・ダイレクター、ゴッフレード・バドゥイーニ氏が対応してくれた。パドゥイーニ氏はトリノ工科大学建築学科を2004年に卒業。イタルデザイン、GFGスタイルを経て2022年から同職にある。以下は彼との一問一答である。

Q --- 鉄道のデザイン開発におけるGFGレールのアプローチ手法は?

バドゥイーニ(以下G.B.)鉄道車両のように複雑な業界では、設計アプローチに技術的、経済的、規制的、時間的そして認証上の制約を考慮する必要があります。 自動車は管理をユーザーに依存して完結するのと異なり、鉄道車両には製造業者、鉄道会社、そして多くの利用者が関わり続けます。それら全要素を考慮しなければ、ミスを犯す危険性が高くなります。

Q --- 創業者ジョルジェット・ジウジアーロの理念で、活かされているものは?

G.B. --- 機能性、技術、経済性、さらに規制の制約に焦点を当てて仕事を進めるメソッドです。常にコストや製造工程に目を向けながら、堅実かつ実現可能な創造的アイディアにつなげるのです。傍らで開発期間や新たなスタイル、素材に関する潮流の探求も忘れません。

Q --- 自動車デザインで培った、どのような手法が活用されているのでしょうか?

G.B. --- ファブリッツィオ・ジウジアーロ以下、鉄道車両デザインに携わる全スタッフが採用している設計プロセスは、私たちが自動車で活用してきたものと非常に近似しています。3Dモデリングを積極活用して実現可能性を示すことで、顧客が開発期間短縮と効率的な進行ができるよう支援しています。物理的検証も数多く実施しています。1/1スケールでモックアップを製作することで、形状、人間工学、機能性を完璧に評価できるようにしています。 美しさ同時に多くの具体性を提示するのです。

Q --- いっぽうで自動車デザインとの根本的な違いは?

G.B. --- 北部トレンティーノの鉄道会社と南部シチリアの鉄道会社では、車両に対する機能的要求が異なります。ただし実際のところは、鉄道は柔軟なモジュール化が可能です。高度にカスタマイズできます。自動車ほどプラットフォーム優先の概念はありません。私たちは、そのカスタマイズ性を駆使し、車両製造会社と鉄道会社の双方が十分満足できる解決策を目ざしています。デザイナーの理想は常に綿密なブリーフィング段階から生まれます。関係する全企業との継続的な協力関係の中でデザインの解を導いています。

Q --- 近年、視覚障害者にわかりやすい色を使うなど、ハンディキャップをもった人への配慮が必要になってきています。

G.B. --- 鉄道においては重要な要素です。 新たな開発計画に取り組むたび、改善や最適化を図らなければならない基準があります。触覚、視覚、寸法、聴覚などをさまざまな要素を、機能的観点から検証することで、単に美的なだけではない提案を考えています。

Q --- GFGレールにとって良質なデザインとは?

G.B. --- 優れた“デザイン”とは、機能性、人間工学、快適性、耐久性、使いやすさ、点検の容易性、など多くの要素が適正に融合されたものです。約30年間にわたって使われる鉄道車両のデザインを手がけるには、創造的であると同時にエンジニアリングの才能も必要なのです。

既存車両ボンバルディア「ヴォイジャー」のための改造デザイン既存車両ボンバルディア「ヴォイジャー」のための改造デザイン日立レール「トリノ市電」。2018年のレンダリング日立レール「トリノ市電」。2018年のレンダリング日立レール「トリノ市電」。2018年のレンダリング日立レール「トリノ市電」。2018年のレンダリング日立レール「トリノ市電」。2018年のレンダリング日立レール「トリノ市電」。2018年のレンダリング日立レール「トリノ市電」の1:1モックアップ日立レール「トリノ市電」の1:1モックアップ

■イタリア社会をも変えてゆく

「ブルース」に話を戻せば、2023年から筆者が住むイタリア地方都市の非電化鉄道路線にも同車両が導入された。ドア部分はノンステップ、かつ開口部が広いので、誰でも快適なアクセスが可能だ。車内は明るく、奥まで見通しが良く通路も広い。座席下の清掃も容易であることが窺える。

実はそれらは、この国の既存鉄道車両、とくにローカル線においてなおざりにされてきた部分ばかりである。利用者はホームとの間の乗降で転倒する危険や、見通しが悪く、暗い車内では不審者が死角に潜んでいるのではないかという恐怖に晒されてきた。

ブルースの導入が進めば、イタリア人の鉄道への認識が変わり、ひいては公共交通機関利用の増加に繋がることが期待できる。GFGレールのデザインは、自動車以上に社会を動かす可能性を秘めている。

《大矢アキオ Akio Lorenzo OYA》

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