長崎で展開進む、観光型MaaS「STLOCAL」…地図会社の豊富なデータを活用【MaaSがもたらす都市変革】

眼鏡橋(長崎市)
  • 眼鏡橋(長崎市)
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  • 稲佐山からの夜景(長崎市)
  • ゼンリンがプロデュースした観光型MaaS「STLOCAL(ストローカル)」
  • ゼンリンがプロデュースした観光型MaaS「STLOCAL(ストローカル)」
  • ゼンリンがプロデュースした観光型MaaS「STLOCAL(ストローカル)」

MaaSは九州においても、多くのオペレーターが参入し、各地で実証実験やサービス導入が進んでいる。今回はその中から、長崎県で展開が進んでいる事例を紹介する。地図でお馴染みのゼンリンがプロデュースした「STLOCAL(ストローカル)」だ。

◆ゼンリンの財産を活かした「マイクロMaaS」

今回は同社ビジネス企画室MaaS担当の藤尾秀樹氏に、導入の頃から今後の展開まで話を聞いた。

まず、なぜゼンリンがMaaSに挑戦したのだろうか。

「弊社には『Mobility based Network』と呼んでいる、道路をネットワーク化したデータベースがあり、すでに日本全国の整備が終わっています。このデータベースはAPIを通じた提供を進めています。しかしMaaSを推進する公共交通事業者様などのオペレーターに向け、具体的な地図の活用事例を提案してくために、ショーケースのように見せる場が必要と感じ、自らMaaSを立ち上げることにしました」

Mobility based Networkには自動車だけでなく歩行者や鉄道の動線も組み込まれており、駅の構内やペデストリアンデッキまで網羅している。そこで同社では、この財産を活かせるフィールドとして、「マイクロMaaS」というテーマを掲げた。駅周辺のバリアフリー対策、狭い地域の観光コース作成など、狭い地域ならではの移動に関する課題を解決するために、多様な交通モードをつなげた空間情報を提供したいとしている。

こうした考えを形にしたのが、2021年12月から長崎市で実証実験を始め、翌年3月に本格導入に至った観光型MaaSアプリ「STLOCAL」で、名称にはStreet(道)・Station(駅)からStroll(散歩)し、Stay(滞在)することでStory(旅物語)につなげるという意味が込められている。

ゼンリンがプロデュースした観光型MaaS「STLOCAL(ストローカル)」

ゼンリンが九州で創業し、現在も本社を福岡県北九州市に置いていることを、知っている人もいるだろう。しかしSTLOCALが長崎市でスタートしたのは、それだけが理由ではない。

ゼンリンは2020年、長崎県および長崎市と立地協定を締結し、長崎市に「長崎R&Dブランチ」を開設した。同社初となる産学官連携の研究および新規事業開発拠点で、県内の大学や高専などが持つシーズや研究成果、地元企業や長崎進出企業が持つ技術力を活用し、研究開発と新規事業の創出に取り組んでいる。この施設が生まれたことで、MaaS挑戦の機運が盛り上がったという。

同じ年、長崎県では「長崎県MaaS導入推進協議会」を設置して協議や検討を始めた。翌年にはこの協議会が「長崎県MaaS導入指針」を定めており、長崎県における広域MaaSにいくつかの狭域MaaSがつながるという形が示されている。その狭域MaaSのひとつがSTLOCALなのである。

ゼンリンと長崎市とは2021年7月に包括連携協定を締結している。連携分野としては、安全・安心な暮らしの実現、教育環境の充実、交流人口の拡大、快適な移動環境の実現、デジタル化の推進の5つを挙げており、このうち交流人口の拡大と快適な移動環境の実現のための取り組みとして、長崎市観光マイクロMaaSを出している。STLOCALは、新型コロナウイルス感染症の動向を見ての導入となり、2021年12月にWebサイト、翌年3月にスマートフォンアプリでのサービス開始になった。

◆アプリ形式を採用した理由

観光型MaaSは住民対象ではないので、同じ人が何度も利用する可能性は低い。そのためアプリではなくウェブの形を取る事業者が多い。その中でSTLOCALがアプリを選んだ理由についても尋ねた。


《森口将之》

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