分解して見えた中国NEVの実力…名古屋大学 山本真義教授[インタビュー]

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来たる7月18日、オンラインセミナー「分解して見えたBEVのパワエレ動向にみる2030年xEV予測」が開催される。

セミナーに登壇するのは、名古屋大学 未来材料・システム研究所 教授 博士(工学) 兼 名古屋大学大学院 工学研究科 電気工学専攻 教授の山本真義氏。各社のEVのインバーターを分解し、SNSでシェアしていることをご存知の読者も多いことだろう。

セミナーのテーマは以下の通り。

1.2023年のxEV用e-Axleの現在地
2.日米欧中の各xEV分解解析
(現代自動車・IONIQ5、日産・アリア、NIO・EC6、テスラ・モデルY、等)
3.インホイールモーター応用技術最前線
4.2030年のxEVの市場とその新しい姿
5.質疑応答

セミナー当日はQAセッションも設けられ、山本教授の深い知見を聞くことができる機会となる。セミナーの詳細・申し込みはこちらから。

インタビューでは、山本教授の最近の活動やセミナーの見どころを聞いた。

■小型化が進むBYDのe-アクスル

上海モーターショーが開催されたこともあり、中国メーカーのEVに注目が集まっている。日本にも導入されているBYDのATTO3を山本教授も分解し、e-アクスルの小型化が進んでいることを確認したとのことだ。

「ATTO3のフロントに搭載されているe-アクスルは、かなり低い位置に設置されていて、駆動部がかなり薄くなっており、小型化はかなり進んでいる印象です。ジャンクションボックスと下側のインバーターの筐体を全部BYDがハンドリングして、一体成形がしやすいような形状にしていますね。」

分解して見えた中国NEVの実力…名古屋大学 山本真義教授[インタビュー]分解して見えた中国NEVの実力…名古屋大学 山本真義教授[インタビュー]

「これが例えばレクサスRZだと、一番上のジャンクションボックスはデンソーが作って、その下のオンボードチャージャーとDCDCを豊田自動織機が作って、デンソーがまたICを作って、というように作ると、全体的に大きくなってしまいます。」

「BYDの場合は、おそらく完成車メーカーがしっかりハンドリングしていて、小型化できています。エンジンルームもかなりスカスカですね。隙間から路面が見えるほどです。最近インバーターの小型化が話題ですけど、もうこれ以上は必要ないくらい小型化しています。」

「では次に何が必要かというと、軽量化です。e-アクスルではインバーターはそれなりに重いので、日産がインバーターを樹脂化していますし、モーターはもっと重いので、モーターコアの樹脂化が進む動きもあります。」

分解して見えた中国NEVの実力…名古屋大学 山本真義教授[インタビュー]分解して見えた中国NEVの実力…名古屋大学 山本真義教授[インタビュー]

「それはそのままインホイールモーターの軽量化にもつながります。このようにコンポーネントから樹脂化を進めるのは日本らしいアプローチですね。本来であれば、まず車全体のシステムから考えなきゃいけないんですけど、日本は細かい技術から積み上げるのが得意なので、そういった議論が日本では進んでいるという状況です。」

■NIOとトヨタでは思想が違う

中国メーカーに関してもう一社、新興EVメーカーのイメージリーダー的なNIOについても話を聞いた。現在のNIOのトップセラーであるミドルサイズSUV、EC6を分解したとのことだ。

「NIOのEC6を分解したのですが、正直言うとBYDのATTO3のほうがデキがいいな、という印象を受けました。まずメカの部分から言うと、駆動部は流用品を使っていて、NIOのラインナップでみんな同じものになっています。車体も汎用品のような設計です。ファブレスなのでそういうものしか流せないのかもしれないですね。」

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「他の完成車メーカーのように、ちゃんとしたオーダーメイドの駆動系ではないせいか、駆動の感覚がかなりラフですね。設計思想が欧州の劣化版みたいな感じになっているので、先日メルセデスのEQシリーズに乗る機会があったのですが、そこからNIOに乗り換えた時に、粗さが非常に際立っているという印象を受けました。」

「名古屋大学のある東山の、アップダウンのある道で試乗したのですが、加減速やモーターの付き、ハンドリングの粗さを感じました。」

「駆動系もそうですし、フレームも欧州のサプライヤーのもので、ジャガーのiペースのフレームを流用しているんですが、そういった流用品を組み付けているだけのように見えました。

「例えばクラッシャブルゾーンの考え方として、フロントを潰して生存空間を守るような設計になっているのが普通なんですが、そうなっていないように見えます。全部潰れそうなオールアルミボディです。ただ安全性としては、EURO NCAPファイブスターなんですね。」

「だからこれは思想が違うんだと思います。トヨタはぶつかっても大丈夫、という思想。NIOはぶつからないという思想で、運転支援機能のNIOパイロットによって、ぶつかりませんよということを前提にした車作りをしているんですね。」

「NIOという会社は、車そのものより、いかにバッテリーをビジネスにしていくかという思想の会社なので、その思想ありきで車作りがなされる。」

「日本では、良いものを作ろうとして頑張っていますけど、中国や、北米でもテスラみたいな企業は全然違った思想で車作りをしているんだよというところをお話ししたいと思います。」

■インホイールモーターと48Vシステムの組み合わせ

さらに技術的な動向について聞いたところ、注目すべきトピックとして山本教授はインホイールモーターを挙げた。

「東風汽車が今年にもインホイールモーターのモデルを発売する計画です。実はアウディとテスラが2025年に出す予定だったんですけど、それよりも2年早く中国で発売されることになります。」

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「インホイールモーターの長年の課題として、ばね下重量が非常に重くなるというものがあります。ばね下が1kg増えると、車体が10~20kg増えるのと同じくらい影響があると言われています。これを解決するのが48Vシステムです。」

「2016年にアウディのSQ7 TDIが、48Vで動作するアクティブスタビライザーとアクティブサスペンションを搭載しました。これをインホールモーターと組み合わせることによってデメリットを払拭することができます。」

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「バネ下が暴れるのをアクティブサスペンションで抑制しつつ、ロール制御をアクティブスタビライザーで抑制します。特にバッテリーEVは、床下に重量を抱えているので乗り心地は良いんですけど、足元が重いとそこに引っ張られるので、それを抑え込むものです。」

「こういった足回りを動作させるために10kW級の出力がいるので、48Vの電圧がマストです。12Vでは足りない。かといって400V系にぶら下げると、今度は絶縁のために大きくなって重くなってしまいます。ということで48Vが適切なんです。欧州では48Vで動作する部品がある程度規格化されていますので、それを利用してコストを抑えることもできます。」

「我々もテスラがインホイールモーターをやっていることを知っていたので、あとは彼らがいつ出すかなんですけど、ここに来てテスラが48Vを提唱してきたので、辻褄が合ったということですね。」

■EVではある程度のシェアになる

インホールモーターは果たしてメインストリームになるのだろうか。山本教授は、すでにその兆候が見えてきていると示唆する。

「なぜインホイールモーターかというと、自動運転に使うからです。デファレンシャルギヤは遊びが5%-10%あるので、加速するときにタイムラグがあるんですね。これが搭乗者にとっては、高速道路の合流時などでとても怖いんです。デフのロスを排除して航続距離を伸ばすという目的もありますが、それよりもタイムラグの問題が大きいです。」

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「インホイールモーターで機械損失を少なくし、瞬間的にパッと加速できることがとても重要で、だからこそテスラのモデルS Plaidも、トリモーターといってリアの左右に1個づつモーターを載せているんです。これがインホイールモーターの前段階のような形になっていますね。同じ形式をアウディ e-torn S スポーツバックも採っています。」

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「EVのうち、ある程度のシェアはこのインホイールモーターになっていくのではないでしょうか。日本でも三菱自動車がかなり前から試作をしていると思いますが、技術的には48V系のシステムと自動運転、それからインバーターの小型化という要素が揃ってきて、今やっと形になろうとしているところですね。」

「実は、BYDが富士急バスに提供しているEVバスには、インホイールモーターが搭載されていて、すでに走っています。K9というハイエンドモデルです。このような技術がこれから乗用車に降りてくることになります。」

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このインタビューで取り上げた話題のほかにも、セミナーでは山本教授の幅広い見識を聞くことができそうだ。QAセッションも行われるので、興味のある方はぜひ参加の検討をされたい。

セミナーの詳細・申し込みはこちらから。

《佐藤耕一》

日本自動車ジャーナリスト協会会員 佐藤耕一

自動車メディアの副編集長として活動したのち、IT企業にて自動車メーカー・サプライヤー向けのビジネス開発を経験し、のち独立。EV・電動車やCASE領域を中心に活動中。日本自動車ジャーナリスト協会会員

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