我が国におけるMaaSは、いわゆる地方型と観光型の展開が目立っている。世界初のMaaSと言われるMaaS Globalの「Whim(ウィム)」がフィンランドの首都ヘルシンキで立ち上がり、その後も欧米では都市型MaaSが普及しているのとは対照的だ。この連載でも過去に触れたことがある、欧米と日本の都市交通の運営体制の違いが大きく関係していると思っている。
MaaSを推進する上で知るべき欧米と東京の違い
欧米の都市交通は、ヘルシンキのHSL、フランスの首都パリのRATP、米国オレゴン州ポートランドのTriMetなど、複数の交通事業者をひとつの公的組織がまとめ上げ、周辺地域を含めた都市交通を管理するのが一般的だ。これに対して東京を中心とする首都圏は、鉄道だけで10以上の事業者が独立して運行に携わっており、欧米のような統率する組織がない。
MaaSの根幹である複数の移動サービスの連携には、各交通事業者が持つデータを出し合い、統合していくことが必須であるが、一方でデータは各事業者にとって財産であり、安易に他の事業者に出すのを躊躇する動きもあるという。一部の識者は、5Gなど最先端の通信技術がいち早く導入される大都市こそ、MaaSの推進にふさわしいと主張しているが、それ以前の課題が山積しているのが現状である。
ただしタクシーや自転車シェアリングなど、自分たちの事業と競合しない交通モードとの統合は進んでいる。JR東日本(東日本旅客鉄道)はそのひとつだ。

同社はMaaSやCASEなど、移動をめぐるさまざまな改革の波が押し寄せてきていることに対応して、「モビリティ変革コンソーシアム」を2017年9月に設立。さらに2019年4月の決算説明会で、新しい経営ビジョン「変革 2027」を打ち出した。この動きの中で、自身の鉄道ネットワークだけでなく、自宅から駅まで、駅から目的地までのラストマイルモビリティも一括して検索・手配・決済ができるようにする「モビリティ・リンケージ・プラットフォーム」を構築することを表明し、そのためのMaaSアプリ「Ringo Pass」を2020年1月から提供開始した。
当初から23区内および武蔵野市、三鷹市において、S.RIDE(当時は「みんなのタクシー」)がサービスを提供する一部のタクシーの空車車両が確認できる機能と、タクシー車内のQRコードを利用した決済機能が利用可能となっていた。自転車シェアとの連携も実現。こちらはNTTドコモが運営する「ドコモバイクシェア」が対象で、全国の直営ポートに対応。アプリ上でポートの位置と利用可能な台数が確認可能だ。
利用は事前にID番号をアプリに登録したSuicaをタッチするだけで、利用料金は毎月末にまとめてクレジットカードから引き落とされるしくみとなっている。