自動車業界が変革期を迎える今、道路交通インフラの課題解決やモビリティサービスの向上が求められている。
昨年開催された「くるまからモビリティへの技術展 2022」において、筑波大学名誉教授 石田東生による「道路/モビリティ政策の挑戦」と題する講演が行われた。石田教授は都市工学の専門家だ。次期SIP「スマートモビリティプラットフォームの構築」のProgram Director(候補:講演時時点)でもあり、道路行政やスマートシティデジタル交通社会の検討会などでも有識者として発言・提言を行っている。
講演は、SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)が進めるモビリティプラットフォーム研究の成果と今後の方向性を紹介するものだったが、道路や都市開発の歴史や日本の道路行政、インフラ整備についての分析もあった。これらの指摘は、MaaSやスマートシティプロジェクトに限らず、現在の自動車業界が置かれている状況にも深く関係するもので、CASE革命とともに自動車産業に携わる全員が認識すべきものでもあった。
日本の危機的状況
石田教授は、日本の危機的状況を「劣化する日本・立ちすくむ日本」と表現し、日本が対峙する諸問題を次のように分析した。
「人口減少と超高齢化社会は、地域の壊死を引き起こしている。高齢化は大都市部でも進行し、それらの地域では基礎的な生活基盤が維持できなかったり、地域文化の崩壊も招いている。地域の衰退は景気にも影響を与え、投資意欲の減衰、プロダクトの減少へと連鎖する。結果、民間投資は大都市に集中しインフラやプロダクトの地方配分の問題が広がる。結果として国全体のインフラや社会基盤の脆弱性が増す。台風や大雪・地震などによる度重なる激甚災害が地域経済に致命的な打撃を与える。国民は目標や共通価値を喪失し日本人がグローバル経済の中で漂流する。政治・行政の劣化が国力もそいでいる」
これは、2014年に日本プロジェクト産業協議会(JAPIC)が日本創生国土計画の中ですでに指摘されていた問題点でもある。しかし、「日本はこの30年、人口減少と国債残高におびえ何もしなかった。立ちすくむ日本である」と石田教授はいう。しかし発想を変えれば、人口が減るからこそ効率を上げる、経済を活発化させる原動力にもなりうるはずだ。何がいけなかったのだろうか。
財政健全化の誤謬
日本の一人当たりの名目GDPは、1995年に世界3位だった。2015年には26位まで落ち込んでいる。1995年比でも0.76と主要国の中でも数少ない成長していない国だ。