JR九州が肥薩線の復旧に懸念…地元は「稼ぐ路線」を目指し理解を求める

『SL人吉』が運行されていた時の肥薩線。復旧後の同線は稼ぐ路線とする地域の取り組みが課題に挙げられている。
  • 『SL人吉』が運行されていた時の肥薩線。復旧後の同線は稼ぐ路線とする地域の取り組みが課題に挙げられている。
  • 令和2年7月豪雨で流された球磨川のトラス橋を渡る『SL人吉』。
  • JR肥薩線検討会議で論点として示されている復旧費用の見込み(左)と被災前の収支。

国土交通省は12月6日、第3回「JR肥薩線再生協議会」(JR肥薩線検討会議)の内容を公表した。

令和2年7月豪雨による大規模な被災により、八代駅(熊本県八代市)と吉松駅(鹿児島県湧水町)との間で運行を見合わせている肥薩線をめぐっては、2022年3月に国土交通省と熊本県が共同で復旧へ向けた「JR肥薩線検討会議」が設けられ、復旧へ向けた検討が開始された。

令和2年7月豪雨で流された球磨川のトラス橋を渡る『SL人吉』。令和2年7月豪雨で流された球磨川のトラス橋を渡る『SL人吉』。

5月に行なわれた2回目の会議では、鉄道単独で復旧する場合、費用負担が最大で国4分の1、地方自治体4分の1とされている改正鉄道軌道整備法の適用により235億円とされているJR九州の負担額を、並行する国道219号線の災害復旧事業や河川事業といった国の事業との連携による復旧を加味した場合に25億円程度まで圧縮できるとの試算結果が示されている。

とはいえ、肥薩線は被災前の2019年度の輸送密度が八代~人吉間で414人/日、人吉~吉松間で106人/日と、旧国鉄再建法に基づく廃止基準を大きく下回っており、JR九州が発足した1987年の2割弱にまで落ち込んでいる。赤字額も八代~吉松間でおよそ9億円にのぼることから、JR九州は復旧後も赤字額が増えることを懸念しており、復旧費と復旧後の持続可能性をセットにして慎重に検討することを要望している。

JR肥薩線検討会議で論点として示されている復旧費用の見込み(左)と被災前の収支。JR肥薩線検討会議で論点として示されている復旧費用の見込み(左)と被災前の収支。

これを受けて12月3日に開かれた3回目の検討会議では、地域が肥薩線復興へ向けたビジョンとして鉄道の具体的な利活用策を示し、JR九州に鉄道復旧を決断してもらうことが必要とされ、その方向性として、自治体や地域住民が主体的に取り組み、地域の近代的遺産群や文化財を最大限に活用することなども視野に入れて、肥薩線を稼ぐ路線として再デザインすることが挙げられている。

その上で、今後は少子高齢化や技術革新など、2040年頃までの社会構造の変化や自動車社会を前提にしながら、将来における地域の全体像や地域交通のあり方、鉄道の位置付けや利活用策の検討、鉄道がもたらす広域的な便益についての定量的な検証、費用便益比による検証などを行なう必要があるとしている。

《佐藤正樹(キハユニ工房)》

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