【MaaS体験記】小さなモビリティが走る糸島半島の観光体験―よかまちみらいプロジェクトの取り組み

二見ヶ浦海岸の駐車場に停めた「C+pod」
  • 二見ヶ浦海岸の駐車場に停めた「C+pod」
  • my routeアプリ
  • 博多・糸島間を往復する高速バス「いと・しま号」
  • my routeアプリで乗車電子チケットをバスの運転手に提示
  • 筑前前原駅前でレンタサイクルを利用する観光客
  • 超小型BEV「C+pod」
  • TOYOTA SHAREアプリで解錠する「C+pod」
  • 芥屋海水浴場の近くのカーシェアポート

今回の取材は、昭和グループ企業など30社以上が結成したコンソーシアム『よかまちみらいプロジェクト』が、糸島半島(福岡県)を中心に展開しているMaaSの取り組みだ。

トヨタが提供するルート検索アプリ「my route」を基点に、高速バスからカーシェアの超小型モビリティ「C+pod」の利用まで、実際に糸島半島(福岡県)に訪れて体験してきた。

「よかまちみらいプロジェクト」とは

「よかまちみらいプロジェクト」とは、2020年10月に、北部九州で交通運輸事業を展開する昭和グループ企業14社とその他の企業27社がコンソーシアムを結成し、地域の魅力向上と活性化への貢献を目指す取り組みとしてスタートした。糸島半島での特長と課題から、北部観光エリア・九大学研都市エリア・高齢化進行エリアで展開している。

展開する移動サービスには、トヨタ「my route」アプリの提供のほか、オンデマンドバス「チョイソコよかまちみらい号」やカーシャア「TOYOYA SHARE」、レンタサイクル「よかチャリ」などと連携しており、サービスの企画開発・提供においては、プロジェクトパートナーとして福岡県、糸島市、福岡市、九州大学等の支援を受け、産学官連携によるMaaSの研究・実証も推進している。

my routeアプリmy routeアプリ

糸島半島での移動サービス利用体験

博多から糸島半島に行くためには鉄道か高速バスが利用できる。今回は、博多と糸島の往復に高速バスが乗り放題になる「糸島半島1dayフリーパス」を「my route」アプリから購入した。博多バスターミナル3階の高速バス乗り場から「いと・しま号」に乗車し55分ほどかけて糸島の筑前前原まで向かった。

博多・糸島間を往復する高速バス「いと・しま号」博多・糸島間を往復する高速バス「いと・しま号」my routeアプリで乗車電子チケットをバスの運転手に提示my routeアプリで乗車電子チケットをバスの運転手に提示

筑前前原に着くと、駅近くに糸島市観光協会がありレンタサイクルを貸し出している。筑前前原駅まで鉄道で来ても二次交通はコミュニティバスくらいしかなく、レンタサイクルを利用する観光客も多いとSEEDホールディングスモビリティ事業推進室の水本樹宏係長は説明する。この日も、レンタサイクルを利用した若い女性2人組が「糸島食堂」まで40分ほどかけて行くと言う。炎天下のなか自転車で40分はかなり辛そうだが、元気いっぱい話してくれた。

筑前前原駅前でレンタサイクルを利用する観光客筑前前原駅前でレンタサイクルを利用する観光客

今回は、超小型モビリティ「C+pod(シーポッド)」をカーシェアで予約しているので、筑前前原駅から糸島市商工会の駐車場まで向かい、スマホの「TOYOTA SHARE」アプリで解錠して乗り込んだ。昨年末に一般向けリース販売が開始されているが、まだまだ見慣れない2人乗りの超小型BEVだ。「これは電気自動車か?」と付近を通った方にも質問された。カーシェアを予約する際には、駐車ポートが決まっていたりするため、あらかじめ調べておく必要がある。

超小型BEV「C+pod」超小型BEV「C+pod」TOYOTA SHAREアプリで解錠する「C+pod」TOYOTA SHAREアプリで解錠する「C+pod」

「C+pod」を運転して、糸島半島西にある芥屋海水浴場と北側にある二見ヶ浦海岸をまわる。「my route」アプリはカーナビと連動するわけではないため、車載のカーナビを使用して目的地の芥屋海水浴場に向かった。車で20分ほどで着くが、水平線が見える砂浜の手前では夏に向けて海の家などが建設中だった。すぐ近くにカーシェアポートもあり、絵柄の違う2台の「C+pod」が駐車していた。

芥屋海水浴場の近くのカーシェアポート芥屋海水浴場の近くのカーシェアポート

そこから、北部にある二見ヶ浦海岸までは車で約30分くらい、近くの無料駐車場に「C+pod」を停めて砂浜まで下りて鳥居をくぐり夫婦岩を参る。付近に無料駐車場は1箇所しかないため、シーズン中に混雑することが容易に予想できた。平日日中で天気もよかったため観光客もチラホラいた。

二見ヶ浦の夫婦岩二見ヶ浦の夫婦岩

デジタル体験というハードル

観光体験と一口に言ってもさまざまだ。今回のように高速バスなどを利用して観光エリアへ行き、カーシェアを使って目的地に行く。車を駐車場にとめてレストランへ行くといった流れは比較的想像に難くないはずだが、これをデジタル体験という観点で見てみるといくつもハードルがあることがわかる。

「C+pod」を借りるためには、「my route」アプリとは別に「TOYOTA SHARE」アプリのインストールと事前登録が必要だ。「my route」アプリでのルート検索時に、「カーシェア」が表示され「予約」をタップすれば、そこから「TOYOTA SHARE」アプリを開き予約できる流れだ。「ナビゲーション」も同様で「moviLink」アプリをあらかじめ登録しておかないとすぐに利用できないため、今回は断念した。

また観光中に、次の場所が知りたい場合はどうか。今回は、たまたま二見ヶ浦海岸の無料駐車場に停めることができたが、「my route」アプリでは駐車場の満空情報は得られない。近くのレストランは、アプリから探すことはできるが、駐車場の有無や充電ポートの有無などを知るには別のアプリかブラウザで検索する必要があった。

こうした一連の体験は、それぞれのアプリ利用を前提に、事前準備がしっかりできていれば楽しめる一方、観光地に行った先で調べたり、すぐに利用したい場合にはさらなるフォローが必要だろう。

レストラン駐車中のC+podレストラン駐車中のC+pod

小さなモビリティが人と地域コミュニティをつなぐ

今回の「C+pod」のラッピングカーは、「C+podコミュニティデザインプロジェクト」として九州大学が支援し、糸島市にある全小学校16校に募集をかけ、結果2,200枚の絵が集まり実現した。「ただの車のラッピングではなく、地域コミュニティの話」として、九州大学の芸術工学研究院准教授池田美奈子先生と同助教の工藤真生先生が参加し、ゼミ生や学部問わず学生たちといっしょに取り組んだ。

子どもたちが思い描く糸島の特長を、5つのテーマ(海の生き物、楽しい花、景色、町の地図、未来の車)にして選定し、九州大がデザインして「C+pod」5台分の車両ドアにラッピングした。A4ケント紙で2000枚以上を高解像度で取り込みデザインするため、作業用のパソコンが止まってしまうこともあったと工藤先生は回想する。

九州大でのコンセプト説明風景九州大でのコンセプト説明風景

デザインするドアを「山」として見立て学校ごとに分担しているのは、「博多祇園・山笠」からインスピレーションを得ていると言う。そのため、車のドアノブ付近には学校名が明記されている。

「この小さな車が、コミュニティやモビリティのあり方に提案性があるのではないか」「小さく低速なモビリティだが、地域社会に密着していくことで、人とハードをつなぐ、人々と社会を結びつけるインターフェースとしてデザインが貢献できるのではないか」と池田先生は語る。

事実、実際にラッピングされた車が設置された際には、近くの小学校が下校途中に見学に来たり、コロナ禍でふさぎ込みがちな当時の小学生たちも、この車を通して対話が生まれ、小学校の先生方や保護者たちからも好評だったとSEEDホールディングスの水本氏は話す。

C+podのドアノブ付近には学校名が明記されているC+podのドアノブ付近には学校名が明記されている

個別最適から全体最適の観光体験シナリオ

芥屋海水浴場付近で「C+pod」を停車していたとき、近くを通りかかった観光客から「これはすぐに借りられるのか?」というような質問を受けていたが、答え方がむずかしいと感じたことを覚えている。

今回のアプリに限らず、いわゆるブラウザ利用ではないアプリから利用する場合、インストールはもちろん登録手続きが必要なことが大きなハードルとなる。また、登録するためには各種証明が必要になり、今回の場合でいえば、免許証やクレジットカード等が手元にないとできない。観光地に行く前に、サービスを利用する前に、しなければいけないことがいくつもあることに気づくのだ。

アプリを普段利用している人であれば、こうした手続きは意識しなくてもある程度はすぐにできるが、今回のように遠方での観光利用ともなれば、きちんと事前に理解しておかないとあとで後悔する原因にもなり得るだろう。たとえば、観光中に別のアプリのインストールが必要だとわかれば、通信環境も整った場所で済ませたいと思うし、アプリの手続きに時間がかかるのであれば、急ぐ場合には利用は期待できない。

今回短い間での観光体験だったが、「my route」アプリでの乗車電子チケットの購入やカーシェア「TOYOTA SHARE」アプリでの予約、超小型モビリティ「C+pod」の施錠・解錠、レストランのルート検索や店舗情報まで、常にアプリを使って移動しているような観光体験だったと言える。

それだけに、個々のアプリではなく、複数のアプリの切り替えや使い分けをも念頭においたシステム連携を鑑みて、ストレスのないシームレスな観光体験を期待したい。

■3つ星評価

エリアの大きさ★☆☆
サービスの浸透★☆☆
利用者の評価★★☆
事業者の関わり★★☆
将来性★★★

坂本貴史(さかもと・たかし)
株式会社ドッツ/スマートモビリティ事業推進室室長
グラフィックデザイナー出身。

2017年までネットイヤーグループ株式会社において、ウェブやアプリにおける戦略立案から制作・開発に携わる。主に、情報アーキテクチャ(IA)を専門領域として多数のデジタルプロダクトの設計に関わる。UXデザインの分野でも講師や執筆などがあり、2017年から日産自動車株式会社に参画。先行開発の電気自動車(EV)におけるデジタルコックピットのHMIデザインおよび車載アプリのPOCやUXリサーチに従事。2019年から株式会社ドッツにてスマートモビリティ事業推進室を開設。鉄道や公共交通機関におけるMaaS事業を推進。

《坂本貴史》

【注目の記事】[PR]

編集部おすすめのニュース

特集