カーボンニュートラルに向けた「CASE」の実装と求められるトランスフォーメーションとは…PwCコンサルティング 合同会社パートナー 川原英司氏[インタビュー]

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世界的にサステナビリティの重要性が経営課題として高まる中、自動車業界でも、温室効果ガス削減、資源の節約、人権などの課題感が高まっており、企業活動全般にわたってネットゼロに向けた経済性を含む施策の検討が必要となっている。

電動化もその中心的戦略課題であり、その収益化と有効性の最大化に向け、プロダクト、プロセス、ビジネスモデルの観点からイノベーションが不可欠であり、製品アーキテクチャを含めバリューチェーンの各機能全体に至るまでの抜本的革新の発想が求められる。PwCコンサルティング パートナーの川原英司氏に話を聞いた。

川原氏は、9月29日に無料のオンラインセミナー 「カーボンニュートラル・EVを中心としたCASEのグローバルメガトレンド」に登壇し詳説する予定だ。

サステナビリティへの対応

---:自動車産業においてもサステナビリティが非常に重要視されるようになりましたね。

川原氏:そうですね。特に自動車に関しては、大きく4つの課題があり、その中でも一番大きな課題がGHG(*)排出量の低減です。2つ目の大きな課題には、半導体の供給も含めた資源節約や持続可能な調達の在り方があげられます。3つ目には、コバルトの採掘などで問題になっているような人権リスク、4つ目にはSDGsの観点からアクセシビリティの問題などがあります。
* GHG グリーンハウスガス・温室効果ガス

図:自動車業界におけるサステナビリティへの取り組み

これまではCO2排出量削減や燃費の面がメイン課題でしたが、製品ライフサイクル全般まで含めて取り組まなければいけなくなってきているのが最近の特徴です。GHG排出量を削減するだけではなく、資源をいかに節約し、持続可能なものを使っていくのかという、一貫したサーキュラーモデルをつくる取り組みが広がってきています。

Scope1では、自社で燃料を転換したり、再エネを使うことなどが削減目標となっていますが、これだけでは限界があるので、事業自体を見直す動きがみられます。M&Aなどを通じて排出量の多い事業を切り離し、売却するなどの事業再編が、このカーボンニュートラルをきっかけに起こっています。

Scope2、Scope3では、コーポレート単位でパーチェスアグリーメントを取り、バリューチェーン全体で取り組んでいくようなスキームが出てきていたり、水素を利用する技術や、カーボンクレジットを使ってオフセットする市場が出てきたり、こういったものをすべて組み合わせないと削減が難しく、大きな課題となっています。

自動車会社は、これまでの電動化だけではなく、事業や国を超えてカーボンを取引することや、社内で(CO2の)バーチャル税制を適用し、どこに問題があるのか明らかにするといった取り組みを行っています。

図:企業のカーボンニュートラルへの取り組み

そして他業界との連携も必要になってきます。EVになると、バッテリーの製造工程や燃料や電力をつくる工程でCO2が出るので、これを低減するためのスキームや連携が大事です。その1つに、サーキュラーエコノミーという考え方があります。

特にバッテリーに関して、車が駐まっている間に使われていないバッテリーを電力グリッド向けに調整力として提供するようなエネルギービジネスで活用したり、稼働率を上げるためにシェアリングしたり、リサイクルやリユースなどを通じて、いろいろと使い回しをするという、この考え方が重要になってきます。

図:サーキュラーエコノミー(循環型ビジネスモデル)の適用領域

---:今は自動車メーカーや業界全体として、性能を上げることに関心が集まり、リサイクルやリユースはあまり考慮されていないような気がしますが、なぜでしょうか。

川原氏:リチウムイオン電池のリサイクルの技術開発があまり進んでいないため、リチウムやコバルトなどを取り出すコストが高く、今の状態ではコストの方が大きくなるからです。

---:ではリユースをもう少し考えても良いのではないでしょうか。

川原氏:大きく2つの問題があります。中古バッテリーが競争力を発揮できるようなユースケース・市場がまだ十分に形成されていないことと、リチウムイオン電池の中古と新品の価格競争があることです。バッテリーが中古になる間に、それ以上に新品のコストダウンが進む可能性があります。また他のエネルギー貯蔵技術との競合もあります。エネルギー貯蔵装置の需要が拡大すれば、その中で中古バッテリーが適する領域も拡大してくるとは思います。

EVが引き起こすビジネス構造の変化

川原氏:EV時代によってビジネスの構造が大きく変わろうとしています。カーボンニュートラルを実現するためにはEVを増やさなければいけませんが、EVで勝って収益を伸ばしていくには、ビジネスモデルを変えていかないといけません。ビジネスモデルが変わると競争の相手や構造が変わってしまうので、その変化に対応しなければなりません。

EVは、動力の電動化だけではなく、ソフトウェア化、IoT化などによって、製品やバリューチェーンの構造が変わり、また、他のIoT機器と同様にクラウドを介しサービスや他の機器と連携して新たな価値を提供することになります。

図:モビリティ領域の産業パラダイム変化

またEVはバッテリーのコストが十分に下がるまでは、これまでの作り方・売り方では収益性が厳しくなるため、違う発想が必要です。それには、3つのイノベーションが求められます。

1つはプロダクトイノベーション、商品自体の構造や価値の出し方を今までの車とは違う発想で変える。
2つ目にプロセスイノベーション、開発の仕方や作り方を変える。
3つ目にビジネスモデルも、儲け方を変える。

特にプロセスイノベーションは産業構造に大きな変化をもたらしそうです。今までのバリューチェーンは、企画開発から部材調達、製造、販売、サービス提供、中古車という一連の流れでしたが、EVにおいてはその流れを分断する方が有効な場合が多くなります。一方で、車両やプロセスに関する様々なデータがプラットフォームを通じて連携するため、一足飛びにバリューチェーンを飛び越えた連携も起こり得ますし、その結果、新たな構造の車両やビジネスが生まれたりもします。

図:デジタル化・電動化によるバリューチェーン分断・データ連携の進行と構造・関係性の変化

そのプラットフォームでは、セキュリティが担保されたうえで、決済や取引、部品とモビリティサービス、取引するマーケットや、サービスのためのアルゴリズムなども、プラットフォームの機能になっていくでしょう。

かつて、自動車と異業種が組んでバリューチェーン全体でのイノベーションに取り組んだ事例もいくつか見られました。企画・開発・購買・生産・物流・最終的には中古まで、異業種ならではの革新的な発想があり、自動車メーカーではなかなかそのようなイノベーションは起きないので、異業種参入によるイノベーションが期待されます。

しかしEVでは、既存のバリューチェーンでの取り組みだけではなく、EVのビジネス化、GHG排出削減、バリューチェーンごとの内製か外注化の判断、サーキュラーエコノミーなどの新しい取り組みが必要です。このような課題に対して、アイデアはあってもなかなか実現できないのが業界の課題ですので、事業化に向けて、事業モデルの構造化、定量化、ストーリー化が不可欠です。

たとえば、EVを使ったモビリティサービスの事業を推進していく際など、価値向上オペレーションドライバーを1つ1つしっかりと検討し作り込んでいく必要があります。課題をブレイクダウンして構造化することによって、どこのドライバーをどのぐらい向上させれば収益に結びつくのか、そのためには何が必要か、また、どのようなタイミングで何ができていないといけないのかなどもしっかりと設計していく必要があります。

図:EVモビリティサービスビジネスの構造化・定量化とオペレーション設計の考え方

---:いろいろ新しいビジネスが生まれてきそうですね。

川原氏:細かいオペレーションを積み上げていかないと、EVが儲かることには繋がらないので、構造を理解した上で、従来とは異なるKPIを設定し、高速で管理・進化していくことがとても重要です。

収入面だけでなく、もちろんオペレーションに関わるコストの最適化も重要です。電気代が安い国では、EVは走れば走るほどTCO (Total Cost of Ownership)がより有利になります。1回当たりの走行距離が短く、一方ライフタイムトータルでは走行距離の長い商用ユースにより向いています。1回あたりの想定走行距離が長いと航続距離を上げなければいけないので、多くのバッテリーを搭載する必要があり、バッテリーコストが高くなってしまうからです。

バッテリーを減らして1回あたりの走行距離を短くし最適なタイミングで急速充電すると、トータルでは長く走ることができます。そういうユースケースをどのように作り、いかにTCOを有利にできるかというのがポイントになります。

---:そうやって移動のコストを極限まで最適化していくと、車を所有する意味がなくなるような気がしますが。

川原氏:そういう消費者も出てくるでしょう。事業者の方で最適化すれば、利用者も低コストで利用できます。しかし究極までこれをやったとしても、やはりピークの需要に対して供給量が足りない状況が起こり得ます。供給可能量をピークに合わせると社会的コストが高くなってしまうからです。従って、移動の自由を確保したい場合は、コストを払ってでも自分で所有するか、あるいはある程度自由はあきらめて、自らピークシフトをして供給のある際に移動することになります。また、地方部では事業の成立基準として、十分な需要密度が確保できるかというのも課題となります。

いずれにせよ、このようなビジネスは、データを活用してオペレーションを最適化しなければ成立しません。誰もがモビリティサービスやエネルギーサービスを最適化できるかというとそう簡単なものではないので、データをサービスプロバイダーがうまく使えるような、プラットフォーム的な仕組み・仕掛けが必要となります。

よって、データを提供できるプレイヤーにとっては、そのデータを使ってデータ提供先の業務効率を改善するというサービスを付加して売る、というビジネスが有効となります。更には、そのオペレーションまでまとめて引き受けてサービスを提供することによって、このデータの価値が高まります。

ハードウェア側でも同じように、データを使ってセンサーやアクチュエーターをうまく機能させるようソフトウェアを容易に実装できるような仕組みの提供が進みます。

---:スマートフォンのエコシステムを連想しました。スマートフォンは、プラットフォームはほぼ2種類しかなくて、GoogleやAppleがアプリを作りやすいAPIを用意しており、課金も代行して、コミッションはいただきますが自由に使ってください、というモデルだと思います。ただ、自動車メーカーがそこまでプラットフォームに振り切れるでしょうか。

川原氏:できる部分はあると思います。特にエンターテインメントなどの情報系は自由に開発してもらえる環境を提供する方が良いと思います。そうした領域では、自由な参入を促すため競争が発生し、部品や品質も向上しコストも下がっていく。使う人が増えると、データの価値も高くなっていく。そういう循環を回すのがプラットフォーマーの発想です。

---:なるほど。とすると、使い勝手のいいAPIを装備した車や、連携するプラットフォームのシェアが高い車、ということが価値になるという発想ですね。

川原氏:そうですね。こうしたプラットフォームを使って、いろいろなサービスを開発してくださいということです。最初は、デモンストレーションとして自分でサービスを作って世の中に示すのも良いと思います。例えばフリートマネジメントやバッテリーマネジメント、デジタルカスタマーエクスペリエンスなど、データを使って内部オペレーションを改善し、サービスオペレーションまでやるようなサービスです。

---:こういうところこそ、プロのサービスオペレーターに入ってきてほしいところですね。

川原氏:モビリティサービス用の車をフリートオペレーターが走らせ、車とメーカーが繋がることでノウハウが溜まれば、それを使ってサービスオペレーターに対しても更に良いサービスができるようになります。サービスレイヤー、製品レイヤーにオープンな競争を作り出すことで参入を促し、良循環が生まれるというオープンプラットフォームの世界です。

9月29日開催の無料オンラインセミナー 「カーボンニュートラル・EVを中心としたCASEのグローバルメガトレンド」はこちら。

《佐藤耕一》

日本自動車ジャーナリスト協会会員 佐藤耕一

自動車メディアの副編集長として活動したのち、IT企業にて自動車メーカー・サプライヤー向けのビジネス開発を経験し、のち独立。EV・電動車やCASE領域を中心に活動中。日本自動車ジャーナリスト協会会員

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