生き残りをかけた車載電池事業と次世代電池の開発動向…名古屋大学 未来社会創造機構客員教授 佐藤登氏[インタビュー]

電動化シフトが急速に進むなか、車載電池のグローバル競争が激化している。自動車メーカーと電池メーカーの合弁が世界中で進む一方、火災事故が多発し、多額なリコール費用が発生。期待がかかる全固体電池も、コストや生産技術など解決すべき課題は多い。名古屋大学 未来社会創造機構 客員教授 / エスペック株式会社 上席顧問の佐藤登氏に聞いた。

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世界中で合弁が進む

---:車載のリチウムイオンバッテリーは世界中で取り合いになっていますね。

佐藤氏:激戦ですね。自動車メーカーはバッテリーメーカーとの繋がりを強固にしようと競い合っています。

---:自動車メーカーが電池メーカーを取り合っているという事ですか。

佐藤氏:もちろん逆もあります。バッテリーメーカーとしてもサプライチェーンを確保しなければなりませんし、顧客開拓しないと取り残され、成長できないと振るい落とされる危機感があるでしょう。

---:なるほど。自動車メーカーとの合弁も進んでいますね。

佐藤氏:活発ですね。トヨタ・パナソニック連合は2020年4月にプライム プラネット エナジー&ソリューションズ(PPES)を新たに設立しました。GSユアサは三菱自動車、三菱商事とリチウムエナジージャパン(LEJ)を形成していますし、GSユアサはホンダともブルーエナジー(BE)の合弁を形成しています。直近では、元々パートナー関係であったGMとLGエナジーは合弁計画を発表しました。日産はエンビジョンAESCとの合弁で日本とイギリスに2000億円を投資すると発しました。フォードはSKイノベーションと組み、フォルクスワーゲンはスウェーデンのノースボルトと合弁形成に舵を切りました。
合弁を組むと自動車メーカーに縛られますが、一定の供給量が保証されます。また、先行開発や信頼性の確保という意味では、お互いかなり初期段階から取組めるので、日本の状況を見てメリットがあると欧米系も判断したのだと思います。自動車メーカーとしても、太いパイプで繋がっておいた方が戦略上もやり易いということです。

---:中国勢はどうでしょう。

佐藤氏:中国は供給的なサプライチェーンですね。CATLはトヨタとアライアンスを組んでいますが合弁という形ではないです。

---:なるほど。いずれにせよ需給関係は世界的に見ても固まりつつあるんですか。

佐藤氏:だいぶ固まってはいますが、今後もそのまま続くかというと微妙です。車載電池の問題点は、火災事故とリコールが多発していることです。中国も2010年からEVのタクシーやバスで火災事故が断続的に起きています。

多発する出火と莫大なリコール費用

---:リチウムイオンバッテリーの出火のニュースは続いていますね。

佐藤氏:はい、2013年からは断続的にテスラが、そして19年半ば以降からは韓国の電池を搭載したヒュンダイとGMのEVでの火災事故とリコール(いずれもLGエナジー製電池)、フォードとBMWのプラグインハイブリッドの火災事故とリコール(いずれもサムスンSDI製電池)が発生しています。そこに供給されている電池はLGエナジーとサムスンSDIでした。車種ごとに1千億円単位のリコールに発展しています。ヒュンダイのコナEVのリコール費用は1000億円規模となり、LGエナジーが700億円、ヒュンダイが300億円の負担を強いられました。今後のヒュンダイのサプライチェーン戦略では、LGエナジーを抑えてSKイノベーションとCATLが浮上してきています。

ヒュンダイはもともとサムスンに警戒感を持っていましたが、ここ1年ほどの間に、会長がサムスンのイ・ジェヨン副会長とトップ会談をして急接近し、サムスンSDIからの供給も期待できるところまできているようです。

一方で、日系の電池を搭載した日系の電動車の火災事故は1件もありません。日本の誇りですね。

---:自動車メーカーとしては、リチウムイオンバッテリーの信頼性についてはどう感じているのでしょうか。

佐藤氏:実際に火災事故を起こしていますし、ブランドに傷がついています。GMもアメリカ国内でLGエナジーと合弁で投資をする計画ですが、内心は穏やかではないと思います。5月も火災事故が起きていますから。日系メーカーだったら、事故が起こった時点でサプライヤーを切ることにもなりかねません。

---:リチウムイオン電池の火災事故を減らすためには、何が必要なのでしょうか。

佐藤氏:まずは品質に対する基準が重要です。これは自動車メーカー各社で考え方が相当違います。電池に対する開発姿勢や安全性の基準をどのような高さにするのか、そのハードルの高さに大きな差があります。ホンダからサムスンSDIに移籍してから、日米欧韓の自動車各社と意見交換してきたことから実感したのです。

端的に言えば、中国はそのハードルが低いために事故が起きるのです。日本は限界試験や過酷試験など相当に厳しく、電池メーカーも高い基準に合わせるので、火災事故に至らないのです。欧米・韓国の自動車各社の基準は、トヨタやホンダほどには厳しい要求をしてこなかったところに原因の一端があります。

---:日本は基準が高いということですね。

佐藤氏:最近はトヨタやホンダに習い、欧米系も過酷な限界試験を実施するようになってきました。その一方で、コストとの兼ね合いも当然あります。バッテリーのコストは部材が7割ほどを占めるため、部材を安くしない限りコストダウンは望めませんが、コストを追求するがあまり、品質で目をつぶって安い材料を使うという話も耳にします。品質とコストの兼ね合いをうまく見極めない限り、信頼性に乏しい電池はなくならないということです。

---:安い部材というのは、例えばコバルトを使わずに安くする、という意味ですか?

佐藤氏:そうではなく、正極材料、負極材料、電解液、セパレーターの各部材そのものの品質という意味です。セパレーターで言えば、2019年には首位だった旭化成を、中国の上海エナジーが抜いて1位になりました。両者を比べると旭化成は価格が倍だと言われています。それだけ違えば当然安いものを使いたいという心理が働きますが、安全性・信頼性という観点で本当に大丈夫なのか、どこまで見極めているのでしょうか。その点で日系電池メーカーは慎重で、信頼できる部材メーカーから優先的に調達します。その辺の考え方の違いがあります。

---:リン酸鉄系のリチウムイオンバッテリーはコストが低いと聞きますが。

佐藤氏:正極材がオリビン型のリン酸鉄ですね。コバルトを使っていないので、資源価格高騰の波に晒されることはないでしょうが、しかし三元系のニッケル・コバルト・マンガン(NCM)と比べると、作動電位が低い(前者の3.6~3.7Vに対し3Vに低下する)ので性能的には間違いなく落ちます。

---:テスラの上海のギガファクトリーで作っている「モデル3」にはLFPが載っていますね。

佐藤氏:モデルによって正極材をNCMとLFPで使い分けています。LFPを使ったものは航続距離が短いと割り切っていますね。コバルトもニッケルも高くなっているので、安いのは確かにそうですが、LFPの方が進化形だということではなく、目的によって使い分けているということです。

---:LFPのバッテリーは火災が起こりにくいという話を聞いたことがあります。

佐藤氏:条件が揃えばオリビン型リン酸鉄も中国で火災になっていますよ。今のリチウムイオン電池は充電で4.3ボルトを超えると非常に危ない方向に向かいます。LFPを採用している電池では、もともと作動電位が低いので危険な充電電位まで落差があるため安全性に対する幅が大きいことが利点になります。

---:なるほど。ではLFPは未来の技術、ではなく…

佐藤氏:既存技術そのものですね。それからリサイクルという意味では非常に劣等生です。鉄とリンはリサイクルしてもペイしません。

コバルトを減らすとバランスが崩れやすい

---:この先は三元系NCMが進化していくのでしょうか。

佐藤氏:用途に応じて使い分けすればいいということです。LFPは電位が低いので、NCMと同じエネルギー容量にしようとすると、大きく重くなるわけですが、EVバスであればそれでも良いということで、中国のバスはほとんどがLFPです。
村田製作所の定置型もリン酸鉄で、CATLの定置型でもリン酸鉄が適用されており、間もなく日本にも入ってきます。スペースさえあれば問題ないわけです。同じ理屈で言うと、東芝のSCiBも電位が低いタイプ(2.5V)です。三菱のEVはLEJの電池とSCiB を併用していますが、SCiBは航続距離が短い商品という割り切りにしています。

---:適材適所ということですね。

佐藤氏:最近のトレンドでは、NCMは安全性や性能のバランスが取れていましたが、コバルトの高騰や調達上のリスクがあることから、電池メーカーはできるだけコバルトを減らす方向です。その代わりに、逆にニッケルが増えています。ハイニッケルと呼ばれるものです。

このタイプは限界試験をやるとかなり危険ですし、むやみに作ると事故が起きると警告しているのですが、コバルトを避けるという大きな力が働き、安全性も大丈夫だろうという憶測で動いているようです。CATLは既に採用しているとのこと、韓国の電池各社も積極的に開発を進め、一部、供給しているようですが果たして安全性は担保されているのかどうか、そして最近の火災事故との因果関係は如何にというところで疑問点が出てきます。その点、日系電池各社はNCMのハイニッケル化には慎重です。

---:コバルトを減らすとバランスが崩れるということですか。

佐藤氏:はい。熱暴走しやすくなるんです。充電する際に発熱の仕方が他の材料系よりも早くなり、急激に上がります。パナソニックがテスラのギガファクトリーに供給している電池は、ニッケル・コバルト・アルミ(NCA)で、いわゆるハイニッケルですが、テスラに供給しているのは円筒型のモバイル用のものが進化した小型のセルなのでまだ良いのですが、例えばトヨタやホンダなどが使っている角型の金属缶の数十アンペアのセルになれば、火災事故に繋がりかねません。

---:なるほど。とはいえEVの課題は充電時間なので、800Vのものも出てきていますね。

佐藤氏:どこまで満充電に近づけるかにもよりますが、急速充電すると熱の出方が活発になりますし、劣化が早まります。急速充電をすればするほど劣化が加速されることになります。

---:しかし最近はバッテリー容量が大きくなってきて、100kWhは当たり前、200kWhのものも出てくるようですが、そうなると充電に何時間もかかりますよね。

佐藤氏:容量を大きくすれば急速充電の頻度は逆に減ります。極端な話、1回の充電で1000キロも走れるようなEVであれば急速充電をする必要がかなりなくなるわけです。そもそもフルチャージを繰り返すと寿命が短くなります。

だからこそ全固体電池やリチウム空気電池やリチウム硫黄電池などが期待されているわけです。しかし、現行の液系のリチウムイオン電池では進化したとしても残念ながら2倍にはならないからです。ただし、全固体電池はいつ出てくるのか、この回答はなかなか難しい局面があります。

リチウムイオン電池は、ソニーがモバイル用に商用化したのが1991年。三菱の『アイミーブ』が出たのが2009年なので、車載できるようになるまで20年近くかかりました。化学のメカニズムを理解しない人は、時間がかかりすぎだと言うでしょうが。

---:民生用と車載用の違いは大きいですよね。

佐藤氏:2006~7年に、モバイル用のリチウムイオン電池の発火事故や爆発事故が起きたり、生産工場の火災事故も起きました。容量競争が激しかったのが理由です。携帯電話やノートPCを長く使うには、より大きな電池容量が必要ですが、競争が行き過ぎてどこかに歪みがあると火災事故に至るということです。車載電池の場合は人命に関わるので、相当慎重にやらなければならない。トヨタもホンダも日産も、想定外も意識したかなり厳しい試験法や基準をもっています。

---:温度や振動や衝撃性などですね。

佐藤氏:そのほかに過充電・過放電などにより、電池が最終的にどんな死に方をするのかなど、自動車メーカーが独自に考える最悪のシナリオで想定した試験法や基準でやらなければなりません。

全固体電池は液系を超えられるのか

---:全固体電池が市販されるタイミングはいつ頃でしょうか。

佐藤氏:まず市販に漕ぎつけられるのかが問題です。市販するにはコストの問題を避けて通れません。電池を安くするには、7割を占める部材のコストを下げる必要がありますが、液系のリチウムイオン電池では、この10年で1/5ほどまで下がりました。

しかしそれが現在開発中の全固体電池では安くなる論理がありません。まず正極は今の液系と同じなのでコストは下がりません。負極も同じ。電解液とセパレーターがセラミック材料の固体電解質に代わるので、ここの比較になります。

電解液系は、どんどん安くなってきましたが、固体電解質はそもそも材料の量産すら始まっていません。それに製造プロセスもまったく違うので新たに設備投資が必要です。これで安くなるわけがありません。

---:技術的な問題ではなくて、製造コストの問題だと言うことでしょうか。

佐藤氏:いえ、技術的な問題もたくさんあります。生産技術的な問題、固体と固体間界面の低抵抗化、さらには有毒な硫化水素ガスの問題もあり、社会的合意形成も必要です。このように問題は山積みです。

全固体電池や次世代電池の関係者とよく議論しますが、いまの液系のリチウムイオン電池は、技術的にもこなれてきて、歩留まりもよくなってきており、コストや性能も含め、あまりにもバランスが取れていて、超えるのが難しいという話をよく聴きます。

---:それでは液系のリチウムイオンがこのまま進化して、それがファイナルアンサーになってしまうとお考えですか。

佐藤氏:必ずしもそうは言っていません。今の第一世代の全固体電池は、正極と負極の組み合わせが液系と同じですから、性能もコストも液系を超えるのが難しいでしょうが、次の世代で新しい材料、正極には高電位材料、負極には究極の金属リチウムが使えるようになれば、性能が2~3倍になる可能性もあるわけですから、その可能性に挑戦しているわけです。

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《佐藤耕一》

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