自動車整備士の人材不足がますます深刻化しており、全国のカーディーラーや中古車販売店、整備工場の事業計画に深刻な影響を与えている。外国人やシルバー人材など、多様化も進むなかで、どのように人材を獲得すべきか。具体的なノウハウを、船井総合研究所で人材獲得のコンサルティングに携わるシニア経営コンサルタントの藤木晋丈氏に聞いた。
正規ディーラーでも人が集まらない実態
---:自動車整備士の人材が不足しているそうですが、現在どのような状況なのでしょうか。
藤木晋丈氏(以下敬称略):自動車整備といってもいろいろな業態があります。自動車メーカーの正規ディーラーから中古車販売店、民間整備工場など事業形態は様々です。
その中でも比較的人材を獲得しやすいのは正規ディーラーです。例えばトヨタや日産、ホンダであれば、整備士の専門学校を持っていますので比較的人材を確保しやすいのですが、それ以外の自動車メーカーでは人材不足に困っているところもあります。例えば軽自動車中心のディーラーになると、言い方は良くないですが、「軽自動車を整備するために整備士になったんじゃない」ということもありますね。
---:となると、ディーラーでないところは人材確保はもっと難しいということですか。
藤木:その通りです。外国人も含めて考えていかなくてはなりません。メカニック人材は多様化しており、現在のところ、高卒・専門卒・大卒・中途採用・シルバー・外国人と幅広くなっています。戦力という意味では専門卒が一番ですけど、大卒でも1年経験を積めば立派な戦力になる可能性があります。そもそも専門卒の人材は、正規ディーラーから順番に決まってしまうので、採用するのがとても難しい。高卒人材の採用もかなり厳しくなってきています。その点、外国人は比較的採用しやすいです。
---:中途採用はどうですか。
藤木:中途の整備士を採用しようとして、いわゆる求人媒体に募集を出すと、1回50万から60万円もかかってしまいます。そのような予算は何度も用意できません。人材を効率的に採用していくためには、新卒を加えながら考えていかなければいけないことは明らかです。
専門学校では半分が外国人という例も
---:外国人をたくさん採用することもあるんですか。
藤木:外国人ばかり採用してしまうのはオススメしません。いまはハイブリッドカーや電気自動車などで整備が高度化しており、自動運転も普及してきますので、今後はシステムエンジニア的な資質も必要になります。そのためには、最低限日本語がきちんと理解できる、あるいは大学卒で知識や教養がある層を採用しておくという考え方もあります。
---:外国人ばかりでも良くないということですね。しかし外国人の整備士人材はそんなにいるのでしょうか。
藤木:最近は整備士の専門学校に外国人がたくさん入っているんです。3割から5割が外国人と言う学校もあります。ミャンマーやベトナムなど東南アジアの人たちが多いですね。
---:そういう人たちはなぜ日本の整備士学校に留学するのですか。
藤木:昔は日本に来て、稼いで母国へ帰るというイメージでしたが、最近は、日本で取得した資格を活かして母国で仕事をするという目的の留学が多いですね。
---:日本人が海外でMBAを取得するような感覚なんでしょうか。
藤木:それが近いかもしれませんね。そういった外国人のなかには、日本の大学生よりもよほど質が高い人材もいますよ。専門学校側も外国人を積極的に採用しています。学校見学のイベントを外国人向けにやっていることもありますね。
---:外国人の整備士人材はすでに一定の存在感があるということですね。
藤木:そうですね。日本語を話せる人も結構いますし、そもそも整備士の試験は日本語で行われますので、読み書きの能力もあります。そもそも勉強意欲は外国人の方が高いです。日本に来て整備士の資格を取って、母国で仕事したいと言う目的がはっきりしていますので。
それに比べて日本人の生徒は、大学に行けないから、とか、手に職をつけたいから、といった消極的な理由が多いように思います。整備士学校で学生に講演をする機会があるのですが、「整備士になりたい人!」と聞いても、手が上がるのは3割程度ですから。そういう人たちに聞くと、よくわからないけどとりあえず整備学校に入った、親に言われたから、と。
---:整備士人材の確保の難しさが分かってきました。
藤木:それに最近は、整備士人材が期間工に移行するケースもあります。整備士は、期間工の採用要件にも合致しますし、期間工の月収は非常に高いです。30万円から35万円です。一方で整備士は30歳で30万円に届いていれば良いほうなので、整備主任だけどあまり稼げないという場合や、整備士はもともと職人気質な世界なので、良くない環境に陥ってしまうと、いじめられたり、仕事を教えてもらえなかったりして、社会人のスタートでつまずいてしまうケースもあります。つまり、働く環境も収入もあまり良くないことがあるんです。
整備士人材を確保する具体的なノウハウ
---:そういった厳しい環境の中でも、いい人材を獲得するノウハウはあるんですよね。
藤木:はい。いろいろな方法があります。有料紙媒体や有料ウェブ媒体の活用方法、会社のホームページの整備、ハローワークなどで応募率を高めるための工夫などです。
まず最初に準備していただきたいのは、会社のホームページを充実させることです。今どきは、就職先を探す時には必ずと言っていいほど会社名をウェブで調べるはずです。ところが、中古車整備工場の名前を検索すると、表示されるのは中古車の在庫情報ばかりです。これでは就職希望者が見たい情報とは言えません。採用情報がきちんと掲載された採用のページをきちんと用意することが重要です。
---:なるほど。整備士人材の採用に限らず重要なことですね。
藤木:それから、一番大事なのはハローワークの活用です。私の顧問先でも、年間通じてハローワークの採用実績が多いです。
---:それは、公的機関で安心感がある、という理由ですか。
藤木:それだけではありません。まず、ハローワークはローカルエリアに強いということ、それから、失業手当ての窓口でもあるという点が重要です。失業手当ての受給には、「仕事を探していること」という条件があります。そのため、ハローワークで仕事を探した、という履歴が必要です。つまり、受給手続きのためにハローワークを訪れ、求人票を検索する人が多いということです。
---:ハローワークで、求職者に対してきちんと求人情報を提供することが重要ですね。
藤木:そうなんです。そのためにも、ハローワーク内のSEO対策をすべきです。
---:ハローワークのSEOがあるんですか?
藤木:求人情報は、ハローワークに設置された端末で検索するのですが、その検索結果で上位表示させるためのSEOということです。具体的には、新着情報が上位表示されるので、新着にどれだけ長い期間掲載されるかという対策です。
求人を出した瞬間は、1番上に掲載されますが、そのあとから新しい求人情報が出てくると、表示順位は下がっていってしまいます。ですので、一か月の間で求人が一番多く登録されるタイミングより後に求人を出したほうがいい、ということになります。
ハローワークでは、既存の求人情報を月初に更新しますので、その時にまだ募集が続いている求人情報が、新着としてたくさん登録されることになります。ですので、月初の情報更新の後に求人を登録すれば、上位常時される期間が長くなります。
---:なるほど、まさにSEOですね。
藤木:ハローワーク対策はそれだけではありません。ハローワークの相談窓口で、求職者の方が来たら会社案内を渡してください、ということをハローワークの担当者にお願いすることができます。なので、ハローワークの担当者と人間関係ができていれば、会社の情報もきちんと伝えていただくことができます。特にローカルエリアに行くほど人間関係が濃いので、そういった努力も重要になってくるということです。