地酒や麦とろご飯も…岐阜・明知鉄道の「食堂列車」に乗ってみた

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明知鉄道の急行『大正ロマン1号』に連結された食堂車「枡酒列車」の車内。沿線の地酒を楽しむ人たちで盛り上がっていた。
  • 明知鉄道の急行『大正ロマン1号』に連結された食堂車「枡酒列車」の車内。沿線の地酒を楽しむ人たちで盛り上がっていた。
  • 花白温泉駅にやってきた上り『大正ロマン2号』。先頭1両は一般車両だが、後方の3両は全て食堂車。恵那方2両目が「枡酒列車」、3・4両目が「じねんじょ列車」を名乗る。
  • 食堂車は車両ごとに名称が異なり、提供する料理も変わる。写真は「じねんじょ列車」の案内板。
  • 食堂車で提供する料理は列車内ではなく沿線の施設で調理して列車に積み込む。取材日の「枡酒列車」の料理は花白温泉で調理されていた。
  • 花白温泉駅で「枡酒列車」の料理が積み込まれる。
  • 上り『大正ロマン2号』は、食堂車を営業する下り『大正ロマン1号』の「回送列車」としての役割も担う。恵那駅に到着するまで「開店」に向けた準備が進められる。
  • 恵那駅に到着した『大正ロマン2号』。ここで折返して食堂車を営業する『大正ロマン1号』になる。
  • 「枡酒列車」では岩村醸造の「女城主」などが飲める。

鉄道は学校や会社、あるいは観光地への移動という「目的」を実現するための「手段」だが、近年は鉄道の利用自体を「目的」にした観光列車が各地で増えている。その形態はさまざまだが、とくに多いのが、車内で沿線の食や酒を楽しめる「食堂列車」だ。

岐阜県の山間部に位置する恵那・中津川両市のローカル線・明知鉄道でも、急行『大正ロマン号』に食堂車を増結する形で食堂列車を運行している。青空が広がった2月の週末、『大正ロマン号』の食堂車「枡酒列車」「じねんじょ列車」を取材した。

■ローカル線だけど「超豪華」4両編成

恵那駅で明知鉄道の普通列車に乗り込み、まずは花白温泉駅に向かった。この駅は1面1線の短い単式ホームがあるだけの無人駅だが、駅前には「花白温泉」という名の温泉施設があり、「枡酒列車」で提供する料理の準備が行われている。調理室に入ると、既に料理の盛り付けが始まっていた。

食堂車といえば、車内に設けた調理室で料理を作り、テーブル付きの食事スペースに運んでお客に提供するというイメージだが、明知鉄道は専用の食堂車を保有していない。沿線の施設で調理してから列車に積み込む。

調理室を出て、ひなたぼっこすること1時間。明智駅からやってきた恵那行きの上り『大正ロマン2号』が姿を現す。大きな箱に収められた料理が積み込まれると、『大正ロマン2号』はすぐに発車した。

列車は4両編成で、恵那方先頭の1両目(アケチ10形気動車アケチ12)が、食堂車を利用しない一般客向けの車両。残る後方3両が食堂車で、2両目(アケチ6形気動車アケチ6)が「枡酒列車」、3両目(アケチ10形アケチ13)と4両目(アケチ10形アケチ14)が「じねんじょ列車」になる。東海道・山陽新幹線に食堂車が連結されていた頃でも、16両編成中に食堂車とビュッフェ車がそれぞれ1両だけだったが、明知鉄道は4両中3両が食堂車という「超豪華編成」だ。

一般客がポツポツと乗っている1両目は、ボックスシートとロングシートを組み合わせたセミクロスシート車。これに対し、2~4両目の食堂車は全てロングシートだ。大都市を走る通勤電車のようだが、座席の前に細長いテーブルを並べて食事ができるようにしている。この方式だと、食堂列車を運行しない時間帯はテーブルを撤去し、一般の列車として運用することができる。

実際に食堂車として営業するのは恵那12時40分発の明智行き下り『大正ロマン1号』で、上り『大正ロマン2号』は明智駅にある車両基地から恵那駅まで、食堂車3両を回送する役割も担っている。車内ではテーブルへの配膳がてきぱきと進められていた。

■「女城主」を飲める食堂車

『大正ロマン2号』は12時29分、終点の恵那駅に到着。ここで列車は『大正ロマン1号』に変わり、食堂車の営業列車として明智駅に折り返す。食堂車目当ての観光客が狭いホームでひしめいており、車両をバックに記念撮影を行う姿も見られた。

12時40分、いよいよ『大正ロマン1号』が恵那駅を出発。窓の外には、白雪をまとった御嶽山らしき山影も見える。しばらくすると、「乾杯~!」の音頭が「枡酒列車」の車内で響いた。

明知鉄道では原則として月曜日を除く毎日、『大正ロマン1号』で食堂車を営業している。提供する料理の「メインテーマ」は季節によって食堂車ごとに変えており、2月25日は「枡酒列車」と「じねんじょ列車」が連結されていた。

「枡酒列車」は、新酒を含む4種類の地酒を沿線の老舗造酒屋・岩村醸造が提供。明知鉄道オリジナルの木ますで楽しむという趣旨で、1月25日から3月25日までの毎週土曜日のみ連結する、期間限定の食堂車だ。車内を見渡してみると、男性の比率がかなり高い。明知鉄道の広報を担当する伊藤温子主任によると、「枡酒列車」はリピーターも多いという。

愛知県からやってきたという20代の男女2人は「以前、沿線のイベントでここを訪ねたときに『枡酒列車』の企画を知り、乗ってみたいと思った。やっと乗ることができてうれしい」と話す。お酒の味を聞くと「すごくおいしい。のどごしがいい。山あいの景色もきれい」と言い、ご満悦の様子だ。

車内で提供されていた酒の銘柄は「ゑなのほまれ」と「女城主」。「女城主」と言えば、今年1月からNHKで放映されている大河ドラマ「おんな城主 直虎」(主な舞台は現在の静岡県内)を思い浮かべるが、明知鉄道の沿線にある岩村城も、戦国時代から安土桃山時代にかけ、織田信長の叔母・おつやの方が城主だった。岩村醸造も、おつやの方にちなんだ「女城主」を以前から売り出していた。

お酒があまり飲めない記者も口にしてみたが、喉をするりと通り抜けていく感じに快感を覚え、いつしか二口、三口と、木ますを何度も口に運んでしまった。

■女性客が多い「じねんじょ列車」

「枡酒列車」から通路を通って「じねんじょ列車」に移動。こちらは「自然薯(じねんじょ)」と呼ばれるヤマノイモを主題にした料理を提供している食堂車で、「枡酒列車」とは打って変わって女性客が大半だ。通常は料理のメインテーマ一つにつき食堂車1両となるが、この日の「じねんじょ列車」は1両増やして2両という盛況だ。

じねんじょといえば、何と言っても麦とろご飯。「じねんじょ列車」は沿線の3店舗が交代制で料理を提供しており、麦とろご飯も用意されている。とろろを麦飯と一緒に口の中へ運ぶと、粘り気は弱すぎもせず、強すぎもしない。口から喉へとスルスル入っていく感触がたまらなかった。

『大正ロマン1号』は盆地の中を走り続け、13時半を少し過ぎたところで終点の明智駅に到着。「枡酒列車」のドアからは、顔が少し赤くなった乗客が続々と降りていった。

■食堂列車は今年で30周年

明知鉄道は、恵那~明智間25.1kmを結ぶ第三セクター鉄道。起点の恵那方と終点の明智方は恵那市内だが、途中の一部区間は中津川市内を通る。恵那駅でJR東海の中央本線に連絡。終点の明智駅がある明智地区は、大正時代の建築物が多数残ることで知られる。

1933年から1934年にかけ、国鉄が運営する明知線として開業。戦後は国鉄の経営悪化に伴い廃線の危機に直面し、1985年11月に沿線自治体が出資する明知鉄道が同線の経営を引き継いだ。食堂列車は1987年から運行を開始し、今年で30周年を迎える。2011年3月以降は急行『大正ロマン号』に増結する食堂車として、一般に販売されている時刻表などでも案内されるようになった。

1日の平均通過人員(旅客輸送密度)は、国鉄時代の1977~1979年度が1623人だったのに対し、経営移管後の2013年度は616人。少子化の影響で全体の輸送人員は大幅に減ったが、食堂列車の利用は増え続けており、年間では約1万7000人に及ぶという。導入当初は一般列車用のセミクロスシート車だったアケチ13も、後に食堂車にも対応できるロングシート車に改装しており、食堂列車の輸送力が強化されている。

食堂列車の利用は事前の予約が必要で、申込みは明知鉄道のウェブサイトなどで受け付けている。3月中は「枡酒列車」がほぼ満席に近い状態だが、「じねんじょ列車」は余裕がある(3月2日時点)。4月からは、生産量日本一を誇る恵那市山岡地区の細寒天を食べられる「寒天列車」などが運行される予定だ。

《草町義和》

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