JIDA(日本インダストリアルデザイナー協会)は7月15日、今年のミラノサローネに出展したアイシン精機と佐賀県窯業技術センターの関係者をゲストスピーカーに招いたデザインセミナーを、東京・六本木のAXISビルで開催した。
セミナーのタイトルは「ミラノサローネにみる日本のデザインとものづくり」。日本から出展した企業や団体の事例や効果を紹介することで、デザインの力で日本の「ものづくり」を盛り上げようという内容だ。ゲストに招かれたのはアイシン精機デザイン部の岡雄一郎 部長と、佐賀県窯業技術センターで有田焼の400周年記念事業をサポートしているデザインディレクター、浜野貴晴氏。
セミナーはまず岡部長が「ミラノサローネという魔法」のタイトルで講演。アイシン精機は今年で3年連続の出展となったが、最初に出展を決断したのは「社内のデザイン環境を、どうやって元気で前向きで、クリエイティブなものにするか?」と考えたときに、ミラノサローネを利用できないかと考えたことだったという。
そして広告代理店にまかせて宣伝するのではなく、自社が持つ技術を活用したデザインを考え、外部のクリエイターとともに展示を作り上げることに決定。「会場に置いた自社製ミシンで、観衆自身に創作してもらう」という展示をおこなった今年は「ボタンを押すだけでなんでもできる先進的商品にはない価値に気づかせてもらった」と振り返る。
昔から変わらない商品でも、使用者とコミュニケーションすることで生み出せる個性や価値がまだまだある、ということだ。「ここまで立ち返ることができたり、文化を残すという意気込みでビジネスをやっている企業があるのは、アジアでは日本のほかにないのではないか。”すべてがビジネスベースで、常に新しいものばかりを追いかける”のではないという意識は大事にすべきだと思う」と岡部長。
ちなみに「インターフェイスなどのデザインは、実際に動かしてみないと分からないことが多い。だからデザイン部もエンジニアリングのわかる組織にならなければいけないと痛感している」とのことだ。
浜野ディレクターは「有田焼創業400年事業から、新しい地域産業支援のかたち」というタイトルで講演。「地方公共団体が記念事業をするというと、お祭りイベントをやっておしまいということがよくあるが、それではいけない。400年というのは節目でしかないのだから、401年目に繋がることをしなければ」と考えたという。
有田焼は伝統工芸品としての価値を持つが「伝統という言葉には悪い面もある。過去の名声に安住しがちになるし、将来も同じことを続けなきゃいけないと考え、保守的になってしまうこともある」と浜野ディレクター。そこで「次の100年に向けて”時代に沿ったものづくり”とはなにかを考えるいい機会にして、原点に立ち返って有田の魅力を日本から世界へ発信していこう」と事業の方向を定め、新たな価値創出に挑戦することにしたという。
そして「イノベーション」、「リブランディング(再ブランディング)」、「クリエイターの育成」という3つの考えを柱にして取り組んでいこうと決定。合計17のプロジェクトを立ち上げたなかのひとつが「2016」というブランドを立ち上げ、国内外16組のクリエイターと協業して作り上げた作品をミラノサローネで展示するということだったとか。
これは外部の視点や意見を取り入れて価値を見つめ直し、新しい魅力を創出するための「産業基盤整備」としての役割を持っていたという。伝統技術を継承しつつ、技術力やデザイン力をさらに向上させてさらに磨き上げることが目的とのこと。
それぞれ自動車関連部品をビジネスの中心とした企業と、地域の伝統産業をサポートする公的機関という立場の違いはある。しかし両者とも、日本にはまだまだポテンシャルがあるはずという前向きな姿勢と「旧来の価値を見つめ直すことで、日本ならではの新しい価値が創造できる」というメッセージは完全に一致。デザインに主眼を置いた内容ではあるものの、ものづくりに携わるすべての人に有益なエピソードが溢れるセミナーだった。