【川崎大輔の流通大陸】草原の国モンゴルが中古車流通国となる日

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市内の中古車オートモール
  • 市内の中古車オートモール
  • 郊外の巨大中古車オートモール予定場所
  • 中古車オートモール(2)
  • 中古車オートモールの部品販売場所
  • 駐車場で販売されている中古車

2015年11月に訪問したモンゴルの首都となるウランバートル市内の道は、朝夕のラッシュ時には車で埋め尽くされていた。走っていたのは日本車、韓国車に時折、ドイツ製の高級車も混じっている。モンゴルの自動車市場は何が起こっているのだろうか?

◆首都ウランバートルに密集する人と車

ウランバートルの市内を抜け一本道を車で突き進む。左右は見わたす限り草原だ。しばらく進むと広大な郊外オートモール予定場所に到着した。モンゴルの中古車販売を1か所にまとめ、集中管理を行い、同時に市内の駐車問題の解決や街並みの見た目を改善することを目的に進められている都市計画プロジェクトである。

建設進捗と景気動向により来年の2016年までオープンが見送られている。ショールームを設置して販売している業者以外は、ウランバートルにある中古車販売店は郊外オートモールに移動される。今後路上や屋外ショールームでの販売は許可されなくなるとのことだ。

モンゴル初日、朝夕のウランバートル市内における渋滞度合いに驚いた。全車両の60%強がウランバートル市内で登録されており、モンゴル政府が郊外オートモールのような交通渋滞を改善するための諸方策を打ち出している。

モンゴルといえば草原や遊牧民などのように牧歌的な風景をイメージしていた。そのような思いとは裏腹に、ウランバートル市内の道は朝夕のラッシュ時には車で埋め尽くされる。走っていたのは日本車、韓国車に時折、ドイツ製の超高級車も混じっている。モンゴルの自動車登録台数は推定40万台。人口わずか300万人のモンゴルにとって人口1000人あたり保有台数は133台になる。

他方、アセアンで最も新車販売台数が多いインドネシアの人口1000人あたり保有台数は約40台。1人あたりGDPが4000ドルほどと同じ経済水準にあるにもかかわらずモンゴルはインドネシアの3倍近くの保有台数に達している状況だ。更に、モンゴルの都市化が起こり人口の約半分が首都ウランバートルに住んでいる。非常に限られた土地に人口と車が密集しておりモンゴルに都市化が起こっている。

◆HV(ハイブリッド)とSUVの人気が高いモンゴル自動車市場

近年の鉱山業等の発展による経済成長によって、モンゴルの自動車市場は急激に拡大している。増えている自動車の多くは日本からの輸入だ。国内の自動車市場は日本メーカーと韓国メーカーの両者で市場全体の9割のシェアで、日本メーカーでは6割がトヨタ車と断トツにシェアが高い。モンゴルのような冬になると氷点下30度以下になる地域では、極寒の中でエンジンがかからないというトラブルなどが頻繁して起こるため日本車しか安心して使えないと聞いた。モンゴルで拡大している自動車市場ではあるが、90%近くが中古車市場となっている。残りのわずか10%が新車市場といびつな市場構成となっている。

中古車市場は大きく、日本からの中古車、韓国からの中古車、更に欧米からの中古車と3つの輸入先に分けられている。特徴的なのは、アメリカから輸入される中古車で、米国ブランドの中古車もあるが、アメリカから来る日本ブランドのランクルやレクサスの中古車がモンゴルでは大人気。4万5000台ほどの中古車が1年間に輸入されている。

日本からは2013年には約3万5000台の中古車が輸入されている。2003年には約3500台であったことを考えれば、10年間で10倍規模と急激に自動車需要が急速に伸びているのがわかるだろう。また、特に都市部では中古のHV(ハイブリッド車)の人気が高いのもモンゴルの特徴だ。深刻な大気汚染への対策として、HVに優遇税制を設けているためである。トヨタ車の車種別登録台数を見ると、プリウスだけで全車種の20%以上のシェアを占めており、その他、ハイランダー、エスティマ、ハリアーなどのHVも含めれば25%がHVという状況となっている。

新車市場は、2013年には約4500台の新車が輸入されており、全メーカーに対するトヨタ車の輸入割合が半数以上を占める。トヨタ車だけを見ればSUVが9割を超えており、LC200(ランドクルーザー)、LX570の2車種で圧倒的なシェアを持っている。モンゴルの自動車市場の大半を占めているHVとSUVをしっかりと押さえておくことがモンゴルでの自動車ビジネスの鍵となりそうだ。

◆モンゴルの中古車流通の展望

日本からの中古車は、中国鉄道を経由するコンテナ輸送でウランバートルに運ばれ保税倉庫での通関を経て市場に流通している。最近は日系含む大手中古車輸出会社がモンゴルにオフィスを構え、彼らが現地のオートモールでの直接小売り販売、更に現地のブローカーへ卸売りを行い中古車が流通する。取り扱い台数は全供給量の半分ほどだ。

また、日本語が多少しゃべれるモンゴル人ブローカーが、日本のオークション会員権を持っている中古車業者に落札代行をお願いして車を買い付けている形態も根強く残っている。販売では有力な中古車販売店というのは少ない。個人レベルの中古車業者が集まったオートモールといわれるエリアがウランバートル市内に4~5か所あり、エンドユーザーはオートモールを訪問して中古車を購入する。最近では中古車サイトやFACEBOKなどを利用したCtoCの取引も出てきていると聞いた。

2014年7月の安倍首相とモンゴルのエルベグドルジ大統領は会談によって両国の経済連携協定(EPA)が大筋で合意した。モンゴルが年式や排気量に応じて段階的に日本車の関税率を引き下げた上で、10年以内にほぼ撤廃することで一致している。モンゴルで自動車販売台数の拡大に最も寄与しているのが日本からの輸入中古車である。日系企業にとっては、今後モンゴルの自動車関連ビジネスによって、大いにビジネスチャンスがあることを示しているだろう。10年後、チンギスハンの末裔(まつえい)たちはモンゴル中古車市場をどう変えていくのか挑戦をみつめていきたい。

<川崎大輔 プロフィール>
大学卒業後、香港の会社に就職しアセアン(香港、タイ、マレーシア、シンガポール)に駐在。その後、大手中古車販売会社の海外事業部でインド、タイの自動車事業立ち上げを担当。2015年半ばより自らを「日本とアジアの架け橋代行人」と称し、Asean Plus Consulting LLCにてアセアン諸国に進出をしたい日系自動車企業様の海外進出サポートを行う。専門分野はアジア自動車市場、アジア中古車流通、アジアのアフターマーケット市場、アジアの金融市場で、アジア各国の市場に精通している。経済学修士、MBA、京都大学大学院経済研究科特別研究員。

《川崎 大輔》

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