最新のBMW『218iアクティブツアラー』は 、2シリーズの名をもつものの、既存のクーペとは何の脈絡もない、全くの別グルマだ。そもそも駆動方式からして異なり、当然アーキテクチャも別なものだから、本来なら2シリーズを名乗るのもどうかと思う。
というのは外野の意見であって、BMWとしては未知の領域に挑戦するうえで、かなり入念な理論武装をして導入に踏み切った。そもそも、『1シリーズ』を投入した時も、Cセグメントのハッチバックに何故FR?という外野の意見に対して、たとえCセグメントであってもBMWが求める運動性能を実現するためにはFRが最適だという確かな根拠の元、頑なにFRの駆動方式を守り通してきたBMWである。
そのBMWがついにFWDのモデルを作った。その発端となったのは、プレミアムコンパクトという市場が無視できない存在になったことだ。今後も伸びるとリサーチの結果が出たそうで、BMWでは『ミニ』を含み11モデルをこの市場に投入するという。その一つがこの2シリーズ・アクティブツアラーだ。
しかし、これまでも運動性能重視を貫き、FRに拘り続けたBMWにとって、それは宗旨替えなのだろうか?そしてこのクルマを我々はどう捉えればよいのだろう。一般的にいえば、コンパクトMPVである。しかし、BMWに言わせるとこれはSAT(スポーツ・アクティビティー・ツアラー)であって、ハッチバックやMPVとは一線を画すデザインにしたのだという(個人的にはMPVにしか見えないが)。
次に、アーキテクチャはミニと同じものを使った。あくまでもアークテクチャであって、プラットフォームではないという。ここで、BMWの求める運動性能を確保した。パフォーマンスコントロールを装備してアンダーステアの予防やトルクステアの予防をし、トラクションとステアリングの最適化に努め、結果として過渡特性、コーナリング、ステア特性、乗り心地などどれをとってもライバルよりも優れたものにしたと自負する。
背の高いモデルであるがゆえ、特に車高を低く見せるために横幅を広く見せるデザイン的な工夫をしたり、とりわけ空力には力を入れて、グリルのリップ、スウェープしたルーフを作り、リアウィンド周囲にリップを装着した結果CD値は0.26と世界のトップレベルにまとめ上げた。
そして何よりも使い勝手を向上させるために、130mmスライドし、さらにリクライニングもするリアシートや、オプションながらフォールダウンするフロントパッセンジャーシートを用意して、積載容量は468リットル~最大1510リットルまで拡大できる広いスペースを用意。そのリアシートは40:20:40で分割可倒式といった具合で、今MPVに求められているほぼすべての要求に満額回答してきた。
これがBMW流のFWDを使った理由の理論武装である。まあ、平たく言うとプレミアムコンパクトのSAVの購買層は、従来のBMW購買層とは異なるので、使い勝手の良さや広さが運動性能の要求を上回るが、それでもBMWは運動性能に拘るモデルを上梓したと。そして、この室内空間を求めるためには、最早FRでは不可能だった、ということになる。
そして、試乗。最初の中速で周れるコーナーに進入しステアリングを切った瞬間、これはいままでのBMWとは別物だと感じてしまった。とにかく切り始めたステアリングが軽い。それにBMWらしい路面からのインフォメーションがほとんどステアリングを通して伝わってこないのである。
しかし、もしファミリー向けのコンパクトMPVの優等生を作ろうと思ったら、恐らくこのステア特性の方が誰にでも扱い易くて正しい方向性なのかもしれない。それを踏まえたうえで、BMWとしては最良の運動性能を与えたということなのだろう。実際、コーナーをどこまで攻めていっても、不安な要素はまるでなかったし、じっさい運動性能は高く、ロールは最小限に抑えられフロントのグリップ性能も高そうだった。ただ、路面の状況をステアリングから掴もうとしても無理だった。エンジンは『ミニ・クーパー』と同じ3気筒ツインパワーターボと6ATの組み合わせ。しかし、前述したようにエコプロモードを持つパフォーマンスコントロールやスタート&ストップシステムは装備している。
このクラスで必要不可欠な、ラゲッジの使い勝手とシートアレンジはほぼ完ぺきである。乗り心地が非常に良いかというとそういうわけにはいかなかったが、少なくともばたつき感がなくて荒っぽさは感じなかった。日本市場ではメルセデスの『Bクラス』とガチンコ勝負となるこのクルマ、運動性能の面ではBMWの言う通りライバルを凌駕していると思う。
■5つ星評価
パッケージング ★★★★★
インテリア居住性 ★★★★★
パワーソース ★★★★
フットワーク ★★★★
おすすめ度 ★★★★
中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、その後ドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来36年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。