交通とまちづくり考える全国大会、宇都宮で開催

鉄道 行政
宇都宮市で開かれた「第7回人と環境にやさしい交通をめざす全国大会in宇都宮」で基調講演を行う関西大学の宇都宮浄人教授
  • 宇都宮市で開かれた「第7回人と環境にやさしい交通をめざす全国大会in宇都宮」で基調講演を行う関西大学の宇都宮浄人教授
  • 宇都宮市で開催された「第7回人と環境にやさしい交通をめざす全国大会in宇都宮」。交通とまちづくりについて議論するパネルディスカッションも行われた
  • 「第7回人と環境にやさしい交通をめざす全国大会in宇都宮」の会場に展示された、AR(拡張現実)を活用した宇都宮市LRTのジオラマ
  • 「第7回人と環境にやさしい交通をめざす全国大会in宇都宮」の会場に展示された、AR(拡張現実)を活用した宇都宮市LRTのジオラマ。設置されたQRコードにタブレットやスマートフォンをかざすと画像や動画が表示される

交通とまちづくりに関心を持つ人々や関係者が集う「第7回人と環境にやさしい交通をめざす全国大会in宇都宮」が11月29日、宇都宮市で開かれた。約500人が参加し、地方都市の交通まちづくりや同市で進むLRT(軽量軌道交通)計画についての報告などが行われた。

同大会は2005年に第1回を宇都宮市で開催しており、同市では今回が2回目。大会は個人や研究者、団体などによる「研究発表大会」と、基調講演やパネルディスカッションを行う「市民フォーラム」があり、午前中の「研究発表大会」では鉄道やバス、交通まちづくりなど6つの会場に分かれ、全国から集まった研究者や市民らが各地の事例や研究、活動などについて発表した。

午後に別会場で行われた「市民フォーラム」では、最初に「地方都市の交通まちづくり~交通政策基本法を踏まえて~」と題し、交通まちづくりに詳しい関西大学の宇都宮浄人教授が基調講演。宇都宮教授は地方都市の衰退について、車社会の進展による中心市街地の衰退と、これに伴う公共交通の衰退・サービス低下を受けたさらなる自家用車依存の高まりといった「悪循環」の結果であると指摘。この悪循環を断ち切るカギになるのが公共交通であり、交通まちづくりの意義であると述べた。

宇都宮教授は、日本では地方都市の公共交通の衰退が進む一方、同様に高齢化が進展し、自動車保有率も上昇しているドイツや、近年になって路面電車(LRT)整備が進むフランスでは公共交通利用率が高まっていることを実例を挙げて紹介。特にフランスでは郊外で自動車利用率が伸びる一方、都市部では減少しているといい、公共交通の利用が伸びた理由としてパークアンドライドや、バスと電車の連携といった「連続性」がカギになっていると強調した。

「交通まちづくり」にはコストがかかるという考えに対しては、車社会の進展による中心市街地の衰退で都市のスプロール化が進み、人口密度が下がれば行政コストが増大するため、こういった悪循環を「放置すればするほどお金がかかる」と強調。日本では大都市部の鉄道が事業として成功したために民間のビジネスと考えられているが、公共交通は「地域の装置」であり、ビルにあるエレベーターを移動手段として採算を取ろうと考えないことと同様、公共交通を「水平のエレベーター」と例え、単体で収支を合わせることよりも社会的便益の観点から見るべきだと述べた。

また、中心市街地の活性化は固定資産税などの増収が見込めるほか、高齢者の外出促進や歩行者の増加によって健康増進の効果があり、医療費も削減できるとして「長い目で見て都市に対して公共交通の果たす役割は大きい」と指摘。高齢化社会を見据え、交通まちづくりで「負の悪循環を断ち切らなければいけない」とした上で、その際の考え方として「公共交通は『都市の装置』であり、一定の公的な支えで社会全体での最適化を図ることが必要」と述べ、「ちょうど新築の家を買って家具やレイアウトを考えるように、まちづくりの夢を実現していくことが成功のポイントではないか」と締めくくった。

続いて、宇都宮市の荒川辰雄副市長が「宇都宮における交通まちづくり~将来の宇都宮~」と題し、同市で進むLRTの整備計画や同市が進める「ネットワーク形コンパクトシティ」について説明した。副市長は「宇都宮市にとってLRTは単なる交通システムの導入プロジェクトには留まらず、本来の目的は周辺の市・町と連携して人と企業に選ばれる圏域をつくりあげることで、そのためにネットワーク形コンパクトシティの形成を進めていきたいと考えている」と述べた。

また、今年9月には全国でスポーツ用品店を展開する企業「ゼビオ」が、LRT計画で市の経済発展が見込めることなどを理由として宇都宮駅西口に土地を取得したことを新聞報道を引用して紹介。「企業に選ばれる街を目指し、雇用を維持することで人口の減少を最小限に留める」とし、「次回宇都宮で大会が開かれる際には、市の地域拠点がさらに発展し、LRTも走っているという姿をお目にかけることができるよう頑張っていきたい」と今後に向けた抱負を語った。

その後行われたパネルディスカッションでは、宇都宮共和大学の古池弘隆教授をコーディネーターに、宇都宮教授、荒川副市長に加え社団法人「未来のまち・交通・鉄道を構想するプラットフォーム」会長の山本卓朗さん、三井住友トラスト基礎研究所研究理事の古倉宗治さんの4人がパネリストとして参加し、宇都宮の交通まちづくりについて議論した。

山本さんと古倉さんはそれぞれの専門分野に基づき、交通とまちづくりに関する話題を紹介。山本さんは国鉄・JRで鉄道プロジェクトや開発事業を手がけた経験を基に、鉄道とアクセス交通や駅周辺の開発、活性化について説明し、古倉さんは宇都宮市をはじめ各地の自転車関係研究会などの委員を歴任した自転車政策の専門家として、自転車を中心としたまちづくりと公共交通との連携について語った。

会場の入口には、同市のNPO法人、宇都宮まちづくり推進機構と宇都宮大学による、QRコードにスマートフォンなどをかざすことで画像や動画が表示されるAR(拡張現実)技術を使用したジオラマを展示。LRTの導入で歩行者中心の街に変化する宇都宮の街を表現しており、来場者の注目を集めていた。

《小佐野カゲトシ@RailPlanet》

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