ジェフ・ベゾス氏の私設宇宙企業ブルー・オリジン社 米主力ロケット向け次世代エンジンを開発へ

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ブルー・オリジン社開発による新型ロケットエンジン「BE-4」
  • ブルー・オリジン社開発による新型ロケットエンジン「BE-4」
  • テキサス州にあるブルー・オリジン社のエンジン試験施設
  • エンジン内部の一部
  • エンジン内部の一部で、液体酸素のタービン
  • BE-4の段階的燃焼試験

2014年9月17日、Amazon.com設立者ジェフ・ベゾス氏の私設宇宙企業ブルー・オリジン社と、ボーイング、ロッキード・マーチン合弁によるロケット運用企業ULAは、共同で新型の次世代ロケットエンジンの開発に着手することで合意した。

ブルー・オリジン社が開発する次世代ロケットエンジン「BE-4」は、液体酸素とLNG(液化天然ガス)を推進剤とする、ロケット第1段向け新型エンジン。1基で55万重量ポンド(2446キロニュートン)の推力があり、2基組み合わせてULAの次世代ロケットを打ち上げる能力を持つという。ブルー・オリジンが公開した資料によれば、LNGを推進剤とするロケットエンジンでは、タンクを加圧するヘリウムなどが不要で、ULAが現在運用しているケロシンを使用するロケットエンジンよりも構造が簡素で低コストになるとしている。ヘリウム供給難に対する対策ともなるという。ブルー・オリジンはこのエンジンを2016年にフルスケールの燃焼試験、2017年にロケットに搭載して打ち上げ可能な状態まで準備し、2019年には初打ち上げとしたい考えだ。

BE-4エンジンは、ULAが運用する次世代ロケットに採用される予定となっている。現状でULAは「Atlas」「Delta」2つのロケットのシリーズを運用しているが、BE-4はAtlas Vに採用されているロシア製のエンジン、「RD-180」を直接に置き換えるものではない、というのがブルー・オリジン側の説明だ。BE-4はRD-180より1基あたりの推力は小さく、2基を組み合わせて必要な推力を提供できるようになる。次世代ロケットは、アメリカの政府系衛星を打ち上げる主力ロケット、EELV(発展型使い捨てロケット)計画の一環となるもので、防衛衛星から科学衛星、商用衛星の打ち上げまで対応する。

ブルー・オリジンの宇宙開発についてはこれまであまり多くの情報が公開されておらず、新型エンジンの開発費も公表されていない。今回の発表にあたっての説明では、同社とULAのパートナーシップは、ブルー・オリジンがNASAの商業輸送計画に参加した2009年から始まったとしている。ブルー・オリジンはテキサス州にエンジン試験設備を有し、商用宇宙船「ニュー・シェパード」搭載を目的とした液体水素・液体酸素ロケットエンジン「BE-3」などを開発している。BE-4は同社の4世代目のロケットエンジンで、これまでで最大級のものとなる。

ULAのAtlas Vロケットは、これまで米空軍のGPS衛星やNASAの火星探査機など、アメリカの政府系衛星をほぼ100%の達成度で打ち上げてきた実績を持っている。Atlas Vにはロシア製エンジン「RD-180」が搭載されており、ロシアとアメリカの関係悪化の際にはロゴージン露副首相がエンジンの禁輸について言及するなど、供給リスクが浮上した。5月には、米空軍を中心にRD-180供給のリスク調査が行われ、エンジンが今後は供給されないというワーストケースを含むシナリオでは、2016年以降の政府系衛星の打ち上げに深刻な遅れとコスト増が発生するとされた。

現状では、空軍とULAはエンジン禁輸の明確な兆候はないとしており、いったんは危機は回避された形だ。しかし、RD-180代替となり、EELV計画の要求を完全に満たすケロシン系新型エンジンを開発するとすれば、2016年までに満額の予算をつけても実用化は2020年代初頭となる。2014年中に何らかのリスク低減策を打っておくべき、と上記の調査報告書は述べている。ブルー・オリジンのBE-4エンジンはRD-180よりも推力が低く、「RD-180代替」と呼べるエンジンであるのかどうかは不明だが、リスク低減策の一環とは考えられる。

《秋山 文野》

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