【土井正己のMove the World】日本の貿易赤字24か月連続、このままでは自動車も危ない

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自動車の輸出
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財務省は7月24日、本年6月の日本の貿易収支が6月としては過去最大の8222億円の赤字となったと発表した。25日付けのウォ-ル・ストリート・ジャーナル(WSJ)紙によれば、赤字は24か月連続で、現在の調査が始まった1979年以来、最長記録ということだ。東日本大震災で原発が止まった直後は、「原油の輸入が増えたことが理由」と言われていたが、そういう問題ではなさそうである。円安にも関わらず、今回も輸出が前年から2%減っている(輸入は8.4%増)。

「日本は加工貿易の国」は終了?

私たちは、学校で「日本は加工貿易の国」と教えられた。すなわち、「原料を輸入し、加工して付加価値をつけ、輸出して儲ける国」ということであるが、その時代が終わろうとしている。これは、産業構造の大きな転換点なのかもしれない。

なぜ、こうなったかというと、2008年のリーマンショックを契機に始まった「超円高」の影響が大きい。2011年の大震災以降、その円高はさらに進行し、一時は1ドル70円台半ばまで高くなった。リーマンショック前は1ドル105円レベルだったので、20%~30%程度の為替差損が発生した時代が長く続いた。これでは、いくら企業が原価低減努力しても赤字輸出となってしまう。結果としては、収益を大きく悪化させ、多くの企業は未曽有の困難を強いられていた。対応策として、考えられたのは「現地生産の強化」と「部品の輸入促進」である。「超円高」が鳴りを潜めた現在(最近のレートは1ドル102円レベル)でも、一度できた産業構造の転換ムーブメントは元に戻れないということである。

地方の部品メーカーがなくなれば、日本の自動車は駄目になる

WSJ紙は、6月の貿易赤字の理由として、自動車の対米輸出が前年比6.8%減となったことを挙げている。自動車も「超円高」時期に現地生産を強化したために、輸出が減少したのだ。

日本の自動車産業の将来を考えると、この流れはリスクを伴う。それは、現在のレベルの国内生産がなければ、コストの量産メリットが出ないばかりでなく、技術力や伝統のある部品メーカーが日本から消えてしまう。そうなると、日本で「技術イノベーション」ができなくなってしまい、「日本車の国際競争力」が大きく低下してしまうことになるからである。

中小部品メーカーが生き残る2つの方向

では、日本で中小の部品メーカーが生き残っていくには、どうすればいいのだろうか。2つの方向を考えたい。1つめの方向は、トヨタ、日産、ホンダ、マツダなどの完成車メーカーや一次部品メーカーにおいて、地方の技術やデザインを取り入れる「目利き」人材を育てることである。例えば、レクサス『LS』の木目デザインのハンドルは、山形県の「天童木工」という家具のハンドクラフト工場で作られている。ここの匠の技術以外では、レクサスの木目は表現できないと考えたからであろう。また、レクサス『GS』は竹を材料としたハンドルも採用しており、これは、高知県の「ミクロテクノウッド」という会社が請け負っている。


こうした地方に息づく日本のオンリーワン技術を見つけて採用し、自動車に乗せて世界に輸出することで、オンリーワン技術を持つ部品メーカーは生き残れる。そういう技術を再発掘する「目利き」が、これからのメーカーには求められる。

2つ目の方向は、地方の中小企業そのものが、グローバル化して、海外に輸出し販路を広げることである。特に、アジア・マーケットは順調に拡大しており、さらに現地の人件費も高騰しているので、日本からの輸出でも競争力はある。同様の状況は米国でも起きており、世界の先進国は「製造業回帰」の時代を迎えている。日本の地方の中小企業が、世界のマーケットに打って出るためには、地方レベルで海外マーケティングのできる人材を育成することが重要だ。これは、中小企業という単位でなく、地方そのものがグローバル化し、世界から観光客やビジネス客が訪れるような仕掛けをつくることが重要となる。

「加工貿易」を地方で支える

冒頭に書いた、日本の「加工貿易」をこれまで担っていたのは大企業である。これからは、地方の中小企業が、世界に打って出られる時代にしなければならない。そのための人材を育て、そして、金融や商社がその動きをサポートする仕組みが必要だと思う。安倍政権も6月24日に発表した「日本再興戦略」において、「地方活性化のプラットホームつくり」を一つの重要な柱と位置付けた。自動車産業もこうした流れを是非、後押しして欲しい。それが、将来の競争力に必ず繋がるだろう。

<土井正己 プロフィール>
クレアブ・ギャビン・アンダーソン副社長。2013年末まで、トヨタ自動車に31年間勤務。主に広報分野、グローバル・マーケティング(宣伝)分野、海外 営業分野で活躍。2000年から2004年までチェコのプラハに駐在。帰国後、グローバル・コミュニケーション室長、広報部担当部長を歴任。2010年の トヨタのグローバル品質問題や2011年の震災対応などいくつもの危機を対応。2014年より、グローバル・コミュニケーションを専門とする国際コンサル ティング・ファームであるクレアブ・ギャビン・アンダーソンで、政府や企業のコンサルタント業務に従事。山形大学工学部 客員教授。

《土井 正己》

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